最高速度329km/h、0-100km/h加速2.8秒
text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
古くから続くポルシェ911のターボ。その上には、ターボSが存在する。
1975年、911へターボをドッキングしたポルシェ。幅広のタイヤをボディに収めるため、リアフェンダーは息を呑むほど大きく膨らんでいた。
標準のポルシェ911の馬力が、200ps足らずだった時代。そこにターボのパワーが与えられ、ナイフのように鋭いハンドリングのシャシーが受け止めた。コーナーでは、路上に留めておくのが難しいほどの暴れ馬だった。
2020年の992型ポルシェ911は、標準でも390psを獲得している。すべての911のエンジンにはターボチャージャーが載り、ワイドなボディをまとっている。
最新の911ターボSでは、3.0Lの排気量を3.7Lまで拡大。最高出力650psを繰り出し、車重1700kgを超えるボディでも、有り余るほどのパワーがある。911にとってのターボという存在は、伝統でもある。今後も、過剰な911という需要は続くのだろう。
最高速度は329km/hに届き、0-100km/h加速を2.8秒でこなす。リアエンジンという後ろ寄りの荷重配分が、圧倒的なトラクションを生み出す。さらに知的なトラクション・コントロールと四輪駆動システムで、鋭い加速を実現している。
ポルシェ911ターボは、スーパーカーと呼べるほど速い。クルマの製造品質は従来どおり高いが、今では価格もマクラーレンやフェラーリに並ぶほど高くなった。英国での価格は、16万8127ポンド(2252万円)から。
目的地まで世界最速で走れるクルマ
ポルシェの場合、追加したいオプションも沢山ある。2180ポンド(29万円)のスポーツ・エグゾーストに、1203ポンド(16万円)のアダプティブ・クルーズコントロール、434ポンド(6万円)の特別なヘッドライトも選んでおきたい。
これらを含めると、17万8414ポンド(2390万円)になる。スーパーカーなら、まだ常識的な範囲だろう。
AUTOCARでは、すでに最新911ターボSのクーペには試乗している。感銘を受けるほどのクルマだった。その時のレポートでは、どんな条件にも対応できるよう開発された、目的地まで世界最速で走れるクルマ、だと評している。
ポルシェは以前から、そんなクルマだった。ロンドンからフランスまで長距離ドライブを楽しんだあと、マルセイユ近郊のポール・リカール・サーキットで走行会も楽しめる。翌日、ロンドンまで快適に運転して帰って来れる。
ただし、ポルシェ911ターボS カブリオレの場合、圧倒的な動的性能に対する疑問符が付く。コンバーチブルは優雅に走る、クルーザーと呼ばれるタイプのクルマだからだ。
一般的に、ソフトトップは300km/hを超えるような超高速に、長時間耐えられるとは限らない。最高速度が制限されるモデルも多い。ハードトップより、車内がうるさくなることも通例。
911ターボSのカブリオレも、そんな我慢を強いられる組み合わせだといえるだろうか。筆者は、まったくそんなことはないと感じた。
超高速域でも快適さを保つソフトトップ
ソフトトップを閉じていれば、ターボSカブリオレの最高速度はクーペと変わらない。ポルシェの技術者は、そんな制限は必要ないと笑うだろう。
しかも、ソフトトップは高速でも静か。クーペとどの程度の差があるのか、乗り比べてみるとわかる。車内ノイズで、明確と呼べるほどの違いはない。
公道から離れた場所で、200km/h程度での巡航走行を試してみた。その速度で長時間の運転をためらわせないほどに、車内は充分静かだった。仮に225km/hまでスピードを上げても、同じくらい快適だろう。
カブリオレでもポルシェ911ターボSの場合なら、週末に目指すのはフランスの南海岸ではない。アウトバーンを走った方が、楽しめそうだ。
クルージング時の性格は、クーペのターボSとは異なる。カブリオレを選んだのなら、フレッシュな空気を楽しみながら、オープンで爽快に流したい。
風の巻き込みやバッファー音の発生は、ベストといえる水準には及ばない。でも、かなり抑えられている。
コックピット・プロテクターと呼ばれるディフレクターで、車内環境は改善できる。だが見た目が良くない。マッドフラップのように、デザインを台無しにしてしまうと思う。
高速道路を走るなら、ソフトトップは閉じた方が快適。周囲の車両が放つ音や気流が、車内を通っていくから。48km/hの速度までなら、走行中でもソフトトップを開閉できる。とても高速に動作し、便利だ。
低い回転域でも速度域でも扱いやすい
ボディ幅が広く、狭い道では扱いにくくなる場面もあるが、ポルシェ911ターボS カブリオレは申し分ない。低回転域でも低い速度でも、とても扱いやすく、マナーも良い。
ただし市街地では、極めて高性能なクルマなのに、正しく乗れていないという不満を感じるかもしれない。特に高価なスポーツ・エグゾーストの不機嫌そうなガナリ声が、そう思わせてくる。
控えめなパワーとボディの、911カレラ・カブリオレでも、ほとんどの場面でターボS カブリオレと同等の充足感は得られると思う。英国での価格は、5万ポンド(670万円)以上安い。日本ではそれ以上だ。
硬めの乗り心地や、大きなロードノイズと付き合う必要もない。ターボSの場合、筆者にとっては、英国の道路環境では我慢できるギリギリの線。
もちろん信頼性や品質、動的性能に疑問はいらない。路上を走るどんなクルマより、真面目に作られている。
ポルシェ911が大好きで資金に余裕があり、それを誇示したいのなら、ターボS カブリオレは良い選択だと思う。個人的には、ターボのクーペの方が、実用的だとは思うけれど。
カブリオレを選ぶなら、カレラかカレラSの方が、ベターな選択肢にはなり得る。それでも、ターボSのカブリオレを選んでも、間違いだと感じることはないはず。
ポルシェ911ターボS カブリオレ(英国仕様)のスペック
価格:17万8414ポンド(2390万円)
全長:4535mm(クーペ)
全幅:1900mm(クーペ)
全高:1303mm(クーペ)
最高速度:329km/h
0-100km/h加速:2.8秒
燃費:8.0-8.2km/L
CO2排出量:275-284g/km
乾燥重量:1710kg
パワートレイン:水平対向6気筒3745ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:650ps/6750rpm
最大トルク:81.4kg-m/2500-4000rpm
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック
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プロポーションが変。