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Cタイプが買えないなら作ればイイ! ベースはジャガーXK120 純白のハンスゲン・スペシャル(1)

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Cタイプが買えないなら作ればイイ! ベースはジャガーXK120 純白のハンスゲン・スペシャル(1)

32歳でサーキットデビューしたウォルト

サーキットデビューを32歳で果たしたレーシングドライバー、ウォルト・エドウィン・ハンスゲン氏。大きな野心を持った人物だったが、以前から経験を積んでいたわけではなかった。

【画像】ベースはジャガーXK120 純白のハンスゲン・スペシャル 同時期のスポーツカーたち 全154枚

アメリカ・ニュージャージー州出身のニューカマーを、現地のモータースポーツ界は警戒した。紳士的な場の雰囲気を、のっけから乱し始めたからだ。ニューヨーク州のワトキンス・グレンを舞台に開かれた世界大会で、そんな印象は決定付けられた。

全長10.6kmの市街地ルートは、ニューヨーク・セントラル鉄道の線路を横断した。レールを越える区間は起伏が大きく、クルマが数mジャンプすることもあった。シャシーやサスペンションへ強い負荷がかかった。

1951年のワトキンス・グレン・グランプリがスタートして数周後、ウォルトがドライブするシルバーのジャガーXK120は、エグゾースト・マウントが破損。ピットへ駆け込み、チームスタッフがワイヤーで固定し、残りの15周へ挑んだ。

猛追するのは、同じクラスを走るシャーウッド・ジョンソン氏のXK120。才能にも恵まれていた彼はすぐに追いつき、ノーズトゥテールの接近戦へ。詰め寄せた観客を大いに湧かせた。

しかし、主催者のスポーツカークラブ・オブ・アメリカの反応は違った。ウォルトがブレーキングを遅らせ、ジョンソンのリアへヒット。これが幹部の本格的な怒りを買い、レースライセンスの停止が命じられてしまう。

運転スキルを磨いたジャガーXK120

ウォルトは、1951年シーズンの残りを観客として過ごした。だが、少なくともワトキンス・グレンではクラス2位を獲得。総合でも9位という戦績を残した。トラブルがなければ、総合5位に入っていた可能性もあった。

そんな彼がXK120の購入を決めたのは、レース観戦で刺激を受けた1950年。すぐに地元のディーラーへ向かい、ショールームに飾られていた曲線美をまとうスポーツカーの印象を、妻へ尋ねたという。もちろん、美しさには賛同したはずだ。

この翌日には、自宅前に真新しいジャガーが届けられた。レースのために母親から資金を借り、英国製のロードスターを購入したのだった。妻は驚いたに違いないが、クイックシルバーというあだ名がつけられた。

初戦は1951年5月24日。ニューヨーク州の東、ブリッジハンプトンで開かれた市販車によるスポーツカー・レースで、7台のXK120と順位を争った。優勝していないが、完走はしている。

9月にサーキットでのレースライセンスが停止されても、ウォルトは多くのヒルクライム・イベントへ参加。ドライビングテストにも挑んだ。1952年が来る頃には、充分なスキルを持ったドライバーになっていた。

経験を積む中で、XK120の弱点にも気づき始めた。ジャガーのファクトリーレーサー、Cタイプの登場で、考えは確信に変わった。しかし、ジャガーは販売相手へ強いこだわりを持っていた。影響力の大きくないウォルトに、買えるチャンスは巡ってこなかった。

ロードスター・レーサーの自作を決意

彼の父、フレッド・ハンスゲン氏は、20世紀初頭にFKハンスゲン社を創業。馬車の修理で事業を始め、普及とともに自動車へシフト。規模は徐々に拡大し、クルマ好きの若者にとって魅力的な職場になっていた。

そこでウォルトが決意したのが、ロードスター・レーサーの自作。父親の会社には、金属加工に長けた技術者、エミール・ホフマン氏が在籍していた。必要な材料や加工機械も豊富に揃っていた。とはいえ、完成までに14か月を要している。

準備が始まったのは1952年初頭。シルバーのXK120を分解し、部品として流用することになった。3.4L直列6気筒エンジンは高圧縮比化。ハイカムも組み、最高出力を上昇させた。トランスミッションとフロント・サスペンションも、有効に活用された。

リア・サスペンションは、コイルスプリングとラジアスロッドで再設計。これは、Cタイプの構成に近いものだった。ジャガー以外のコンポーネントといえたのが、MG TDから流用したステアリングラックと、ボラーニ社製のワイヤーホイールだ。

クロモリ鋼パイプを組んだフレームに、アルミ製パネルを張ったボディはオリジナル。スタイリングは、Cタイプから強い影響を受けたことは明らかだ。

フロントグリル内に配置されたヘッドライトは、友人が所有していたヒーレー・シルバーストーンというレーサーから、アイデアをもらったという。ウォルト自身が、後年に認めている。

デビュー戦で優勝したハンスゲン・スペシャル

ドライバーの後方には、長距離レース用の50ガロン燃料タンクを搭載。少し高めのボディラインを得ている。リアのスペアタイヤが、ボディへ半分隠れるように載っているのも、特徴だろう。

マフラーはサイドシルを経由し、リアタイヤの直前で口を開く。きれいにカーブを描くアルミ製パネルには、ルーバーが切られている。

コクピットの前方には、スピードボートから流用された、小さなフロントガラスが組まれた。ただし、これはサーキットへの往復用。レース本番は、さらに小さなエアロスクリーンへ交換された。ダッシュボードに並ぶメーター類も、XK120譲りだった。

車重は約950kgで、XK120より約270kgも軽く仕上がった。ホワイトに塗られたアルミ製ボディが美しいかどうかの判断は、読者にお任せしよう。

特性ロードスター・レーサーの製作を進める傍らで、ウォルトの友人はレース用のジャガーを喜んで貸してくれた。1952年のアメリカ・セブリング国際サーキットでは、トップクラスのドライバーとしのぎを削るなど、運転技術は磨かれていった。

1953年にハンスゲン・スペシャルは完成。自動車雑誌のロード&トラック誌の記事によると、製作コストは5860ドルだったという。

オリジナルマシンのデビュー戦になったのは、同年5月にアメリカ東部のメリーランド州で開かれたレース。ライバルのミスも手伝い、32周の激しい戦いをウォルトは見事に制したのだった。

この続きは、純白のハンスゲン・スペシャル(2)にて。

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