金銭的縛りから開放されたレストモッド
アメリカ・カリフォルニア州にあるガンザーワークスの本社ビルは、白で統一され清潔だった。広々としていて、エアコンが効いていた。
【画像】ガンザーワークス993 どれがお好み? 名車のレストモッド事例は他にも 全131枚
創業者のピーター・ナム氏は、ヴォルシュタイナー社という、アルミホイールやカーボンファイバー製部品の製造メーカーも経営している。クルマへ掛ける情熱は人一倍大きい。
内部はいくつかのエリアに分割され、裕福なオーナーが特別な1台を受け取る未来的な部屋もある。ただし、ガンザーワークス社はクルマ自体の生産は行っていない。1994年から1998年にかけて生産された、993型ポルシェ911 カレラ2が主な仕事の対象だ。
今回の例のように、オーナーがポルシェを持ち込むと独自のモディファイを加えて、993 スピードスター・リマスタードへ仕立ててもくれる。金銭的な縛りから開放された、993型の徹底的なレストモッドともいえる。
ナムが手掛ける内容は、空冷フラット6を搭載した最後の911、993型をベースにポルシェがGT3 RSを生み出した手法にも似ている。順調に作業は進んでおり、993 スピードスターの販売台数は25台の限定。993 クーペも別に25台が作られる。
この993 スピードスターを製作するには、ベースとなる993型911のカブリオレかクーペが不可欠。ガンザーワークス社は、その調達をサポートしてくれるという。事故歴のない純正状態がベストで、現在は6万ポンド(約1002万円)近い値段が付いている。
トレッド拡大と軽量化でバランスを改善
数は限定的とはいえ、北米の中古車市場には困らない数の993型が流通している。手配が整い次第、レストモッドがスタート。大幅な軽量化と、様々なチューニングが施される。
この993 スピードスターで注目したいポイントの1つが、フロント・トレッドの拡大だろう。また、エアコンのコンプレッサーとパワーステアリング・ポンプは、エンジン駆動ではなく電動化され、フロント側へ移設される点も注目だ。
ドア以外、すべてのボディパネルは独自のカーボンファイバー製へ一新される。フロントバンパーがワイド化されることで、オイルクーラーは2基収まる。空気の流れに沿って、正面に据えられている。
ガンザーワークス社とヴォルシュタイナー社は、ともに製造メーカーであり、部品の設計から生産まで円滑に行える。エンジンとトランスミッションは別のようだが。最終的には、通常の993型から250kgを削ぎ落とし、車重は1235kgになるという。
前後の重量配分は、45:55でややリア寄り。それでも、従来的なリアエンジンの911らしいドライビング特性の改善に注力されている。バランスに優れ、コーナーの出口でも挙動は穏やからしい。
一般的にシャシーの前後へ大幅に手を加え、剛性や動作の周期を変えることは、技術者の頭を悩ませる。ポルシェ911と、その個性が大好きだという人なら特に。だが彼らは、バランスさせることを目的にチューニングを施している。
アナログなクルマでドライビング体験を拡張
回頭性を高めるために、フロントには幅295という驚くほど太いタイヤが履かされている。「古い911はスローイン・ファストアウトですが、これはファストイン、ファストアウトです」。とナムが説明する。
キャビン前後のバルクヘッドは強化され、サイドシルは2重構造になっている。993 スピードスターの場合でも、通常の993型クーペよりねじれ剛性は強いという。
993 クーペの場合、ボディへ固定されたロールケージを組むことができる。スピードスター以上に剛性が高まるため、選ぶのも悪くないだろう。
インテリアは、ガンザーワークス社の職人が丁寧に仕上げる。技術水準は非常に高く、隅々まで美しい。フロントの荷室空間やエンジンルームまで、スキはない。
993 スピードスターの英国価格は、65万ポンド(1億855万円)以上。カーボンファイバー製フレームが支えるフロントガラスや、ルーフレス・オプションも選択できる。これだけの金額のクルマを注文できる人は、晴れた日にしか乗らないという選択ができる。
リアに搭載される水平対向6気筒は、自然吸気の4.0L。最高出力441psを発揮し、1t当たりの馬力は357psとなる。
優れたパワーウエイトレシオだけが魅力ではないと、ナムは話す。特別なフィーリングを得るために200km/hで走らなければならない、現代のスーパーカーとは違うという。
「アナログなクルマを選び、ドライビング体験を拡張するべく、最新の技術を投入しています」。その仕上りを、実際に確かめさせていただいた。
この続きは後編にて。
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