トヨタのトールワゴン型コンパクトカー、ルーミーが売れに売れている。
ルーミーは、ダイハツ主体で開発され、トヨタブランドではルーミー/タンク、ダイハツではトール、スバルはジャスティと計4つの姉妹車のなかでも“稼ぎ頭”のモデル。
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2016年の発売以来、静かなヒットを飛ばしてきたが、直近2019年5月の登録車販売では、なんとルーミー1車種だけでプリウス、ノート、アクアに次ぐ4位に浮上! 4車を合計すると1万5819台に達し、プリウスの1万1005台を大幅に上まわる。
一方、先発のライバル、スズキ ソリオは同19位(3832台)にとどまるものの、販売台数でみられる4倍以上の差が、車そのものにあるとは思えない。
そこで、いったい何が理由でルーミーはこれほど売れているのかを考えたい。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
室内空間はルーミーとソリオでどちらが優れる?
トヨタは、トヨタ店/トヨペット店/カローラ店/ネッツ店という異なる販売系列で売るための「姉妹車」も用意される。ルーミーはトヨタ店とカローラ店の販売車種だ
両車の全長は、ルーミー4姉妹車が3700mm、ソリオも3710mmでほぼ等しい。
全高も両車とも1700mmを超えて同程度だが、全幅はルーミー4姉妹車が1670mm、ソリオは1625mmだから、後者は小型車で最も狭い。外観が軽自動車風に見える代わりに、狭い道での取りまわし性は良好だ。
内装の質は両車とも同程度だが、後席の座り心地はソリオが勝る。ルーミー4姉妹車の後席は座面の柔軟性が不足して、サポート性が良くない。
床と座面の間隔も足りず、足を前方へ投げ出す座り方になりやすい。大人4名で乗車する時には、着座姿勢が自然で柔軟性の伴うソリオが快適だ。
荷室の機能は、ルーミー4姉妹車が充実する。後席を格納すると床が平らになり、荷室のボードを反転させると、汚れ防止の素材が装着されている。自転車を積む用途にピッタリだ。
エンジンやボディ、燃費はソリオの圧勝
スズキのソリオは、ワゴンRから派生した登録車で、現行型は2015年に発売。ルーミーより先発でありながら、車としての基本性能を高く評価する声は多い
動力性能は、NAエンジン同士で比べるとソリオが勝る。エンジン本体の性能に余裕があり、ボディも軽いから加速感が軽快だ。
ソリオに比べてルーミー4姉妹車は、幅広い回転域で動力性能が不足した。この性格を隠すため、アクセルペダルを踏み始めた段階で、スロットルが大きく開く設定にしている。
従ってルーミー4姉妹車も発進直後はパワー不足を感じないが、アクセルペダルを半分くらい踏み込むと、そこから先は加速が伸びない。
しかもソリオは車両重量が950kgと軽い。逆にルーミー4姉妹車は1070kgだからソリオより120kgも重い。つまりルーミー4姉妹車はエンジン性能が足りず、ボディは重いから不利が重なった。
ルーミー4姉妹車には1Lターボも用意され、この性能は1.4Lのノーマルエンジンと同等だが、頻繁に使う2000回転付近のノイズが耳障りだ。
走行安定性もソリオが上まわる。現行型は新開発のプラットフォームを採用して軽量化を図り、ボディ剛性も高めた。そのために運転していて、背の高いコンパクトカーであることを意識しにくい。
ルーミー4姉妹車は、操舵に対する反応が鈍く、峠道などを走るとボディの揺り返しが大きい。プラットフォームは2004年に発売された初代パッソ&ブーンと基本的に同じで、想定される車両重量も900~950kgくらいだろう。
燃費性能ではソリオが有利だ。主力グレードにはマイルドハイブリッドを搭載したから、排気量は1.2LでJC08モード燃費は27.8km/Lだ。これに比べると、1Lエンジンで24.6km/Lのルーミー4姉妹車は不利になる。
ルーミーは開発期間の短さが車に出ている部分も
手前がタンク、奥がルーミー。タンクはヨペット店とネッツ店扱いの車種だ
このようにソリオに比べてルーミー4姉妹車の商品力が下がった理由は、開発期間にある。
2014年には、日本における新車販売の41%を軽自動車が占め、トヨタは軽自動車の急増に危機意識を持ち、コンパクトカーの販売を強化すべく、ダイハツとルーミー4姉妹車を約2年間で急遽開発した。
ただし、エンジンやプラットフォームを新開発する時間的な余裕はなく、走りの機能はパッソ&ブーンをベースにした。
その結果、プラットフォームなどを新開発したソリオに比べると、見劣りする機能が多い。ルーミー4姉妹車の開発者は「ターボエンジンのノイズなど、(約2年間では)やり切れなかった部分が残っている」とコメントした。
価格はソリオハイブリッド「MX(セーフティサポート装着車)」が178万9560円だ。ルーミー「X・S」に、サイド&カーテンエアバッグとアルミホイールを加えて条件を合わせると162万6480円になる。
ソリオは約16万円高いが、エンジンが1気筒/200cc増量され、マイルドハイブリッド、エアコンのオート機能などが充実する。従ってソリオは機能と買い得感の両方で勝る。
それでもルーミーがソリオより売れるワケ
2019年5月の登録車販売台数ランキング。ルーミー系4車種を合計した台数は、国内総合2位となるスペーシアの1万3391台も超え、総合1位のN-BOX(2万2231台)に次ぐ売れ行きだ。(データ出典:日本自動車販売協会連合会)
そうなるとソリオが好調に売れそうだが、実際は逆になった。
この理由として、まずは装備と価格が挙げられる。ルーミー4姉妹車は、サイド&カーテンエアバッグなどを全車にオプション設定したから、ソリオに比べて価格が安い。購入時の総額は高くなるが、最初の段階でユーザーを引き付けやすい。
販売規模も影響した。ルーミーを売るトヨタ店とカローラ店は全国に約2300店舗、タンクのトヨペット店とネッツ店は2600店舗で、合計4900店舗の販売網だ。対するソリオを扱うスズキは軽自動車が中心のメーカーだから、コンパクトカーの販売力は下がる。
購入パターンも違う。ルーミー&タンクは、ダウンサイジングの市場動向に沿って、トヨタの小型/普通車から乗り替えるユーザーが多い。トヨタのポルテ&スペイド、ヴィッツは、いずれも設計が古く、ルーミー&タンクに需要が集中した。
その点、スズキは軽自動車が中心だから、軽自動車からコンパクトカーに移行するアップサイジングが中心。
さらに、スペーシア、ワゴンR、ハスラーなど背の高い軽自動車が豊富に用意される。ソリオの需要がこれらの軽自動車に奪われた面もある。
他メーカーの商品力も影響した。日産のキューブは設計が古く、ホンダのフリードと同プラスは、ボディが大きくて売れ筋グレードの価格は200万円を超える。
こうなると小型/普通車のユーザーが背の高いコンパクトカーを買おうとした時、真っ先に思い浮かぶのはトヨタのルーミー&タンクだ。
車としての実力はソリオが勝るが、価格設定の仕方、販売規模、市場戦略などにより、売れ行きはルーミー4姉妹車の圧勝となった。
言い換えればソリオのような「販売面で目立たない優れた商品」を見逃さないことが、賢いクルマ購入の秘訣になる。
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