極上コンディションの1985年式メルセデス・ベンツ「230E」
洋の東西を問わず、クラシックカー人気が高まりをみせている昨今では、自動車専門メディアはもちろん、ライフスタイル系のメディアでもクラシックカーにまつわる記事を目にする機会がとても多くなっていることを、実感されている方も多いかもしれない。
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でも、とくに日本のWEBメディアで見られるクラシックカー記事には、実際に現車に触れて走らせる内容のものが、まだまだ少ないとも感じられる。そこでAMWでは、おそらく多くの読者諸兄が思っておられるであろう「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべく、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画を始めることにした。
今回試乗させていただいたのは、ヤングタイマークラシックから、そろそろ真正クラシックカーの領域に入りつつある1台。日本のファンの間でも絶大な人気を誇る、メルセデス・ベンツ「W123系」である。
かつては「コンパクト・メルセデス」と呼ばれた?
第二次世界大戦の終了後、長らくメルセデス・ベンツのベーシックレンジを担っていたミドル級実用サルーンは、1968年に発売されたW114系から、上級の「Sクラス」に対して「コンパクト・メルセデス」を標榜。さらに1976年春のジュネーブショーにてワールドプレミアに供された第2世代で、その存在感を確固たるものとするに至った。
社内開発コードナンバーに従ってW123系と呼ばれる2代目は、その4年前に登場していたW116系Sクラスから安全かつ堅牢な設計思想を受け継ぎ、スタイリングの面でもSクラスと共通したデザイン言語でまとめられた。また、先代W114より空力的により洗練された一方で、ボディサイズは若干大型化されている。
サスペンションはW114と同じく全輪独立懸架。前ダブルウィッシュボーン+コイル/後セミトレーリングアーム+コイルのレイアウトを踏襲する。またブレーキも、4輪ともにサーボつきディスクが採用された。
パワーユニットは、ガソリン版が直4と直6の2種。4気筒版はともにヘッドはSOHCで1987ccの「200」と2307ccの「230」。6気筒版は、SOHCで2525ccの「250」とDOHC・2746ccの「280」。そしてボッシュKジェトロニックを組み合わせた「280E」が用意された。
一方、全世界でタクシーなどにも重用されたディーゼル版は、4気筒の「200D/220D/240D」に加えて、直列5気筒SOHCで3005ccを搭載する「300D」もトップレンジとして設定。300Dには、のちにターボも追加された。
これらのグレードは外観での大きな違いこそなかったものの、280/280Eのみは横長の異型ヘッドライトを与えられていたのに対し、200~250およびディーゼルモデルは、内側の2灯を外側2灯よりも小径とした、やや変則的な丸型デュアルとされていたのが、最大の相違点かつアイキャッチであった。
そしてデビュー当時のボディは、リムジーネ(セダン)のみだったものの、翌1977年春には先代から継承されたクーペ「Cシリーズ(C123)」、同じ年の秋には、欧米市場の強い要望に応えて「Tシリーズ(S123)」が追加。とくに後者は、こののちの高級ワゴンブームを先駆ける大ヒットを得た。
そして、登場から9年後の1985年1月、約270万台を生産した段階でフルモデルチェンジ。同じく名作として知られる「W124」に進化する。W124系は、さらに小さなW201系「190」シリーズが先行デビューしていたことから「コンパクト」とは名乗らず、新たに「ミディアム」へと改称。さらに1993年のマイナーチェンジで正式に「Eクラス」となったことから、このW123系が2代目にして最終のコンパクト・メルセデスとなったのである。
実用車の本分を極めた走りのキャラクター
メルセデス・ベンツW123シリーズは、日本では「230(のちにインジェクション版230Eに進化)」と「280E」からなるガソリン版に加えて、ディーゼルの「240D」および「300D」も正規輸入・販売された。
今回テストドライブさせていただいた純白の個体は、日本への最終ロットにあたるという1985年式の230E。当時のダイムラー・ベンツ日本総代理店、かのヤナセの子会社である「ウエスタン自動車」が輸入し、ヤナセのネットワークによって販売された正規ディーラー車で、走行距離はまだ6万km前後というローマイレージ車だ。自らメンテナンスも行う現オーナーによって、極上コンディションが保たれている1台である。
サラリとした感触のファブリックで覆われた、フラットかつ硬い座面のシートに腰を下ろしてドアを閉めると、聞こえてくるのはゴムシールで作為的に作られた現代的な音ではなく、金属とゴムが精緻に当たる感じの「バンッ!」。ボディの堅牢なつくりは、それだけでも即座に感じられる。
インテリアは、現代のメルセデスからは想像もつかないほどに簡素なデザインながら、使われている金属も樹脂も上質のもの。シートは身体への当たりこそ硬質ながら、座っていて疲れない。スイッチ類やレバーの類もひとつひとつが堅牢で操作も少々重いが、感触は非常に好ましいものだった。
ドライバーの肩幅に近い径とすることで力の入り具合を最善化し、疲労度も最小限に抑えることを目的としたと言われる大径のステアリングホイールに左手を添えつつイグニッションキーをひねると、色気もへったくれもない排気音とともに、2.3Lの直4エンジンはスムーズに回り始める。
そして、この時代のメルセデス製ATのデフォルトである2速発進で走り出しても、その実直さは変わらなかった。アクセルを踏み込むとサウンドやレスポンスはスポーティとは程遠いながらも、ドライバーが思ったとおりに加速し、4速ATもこの時代のものとしてはスムーズに変速。すべてがちゃんと「仕事している」のだ。
また、ボール&ナット式のステアリングギアボックスは、かなりスローなレシオとされているようで、操舵入力に対するクルマの動きはかなりおっとりとしたもの。でも確実に曲がり、4輪ディスクのブレーキも確実に制動してくれる。
俊敏なハンドリングでドライバーを愉しませようとするエンターテインメント性などには一切目もくれず、ただただ上質な実用セダンであることを全うしようとする姿勢がありありと感じられたのだ。
長らくメルセデス・ベンツが掲げてきたモットー「最善か無か(Das Beste oder nichts)」が、1台の実用車として体現されたW123系コンパクト・メルセデス。現在の華やかなメルセデスに違和感を覚える「メルセデス原理主義」的な愛好家が、デビューから半世紀近い時を経たW123を今なお愛してやまない理由が、痛いほどに理解できたのである。
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今新車で売ってたら欲しい。