シンプルでコンパクト、運転が楽しいビーチバギー
「ビーチバギーの見た目で、欠点をすべてなくしたクルマを想像してください」。魅力的なライトウエイト・スポーツカーを発表した、ロビン・ホール氏が説明する。
【画像】未来が明るく見えちゃうBEV ミカ・ミーオン 電動バギーと新生メイヤーズ・マンクスも 全112枚
彼は、自動車開発の技術者として数10年に及ぶキャリアを持っている。その一部をご紹介すると、BMWグループになったばかりのミニやX350型ジャガーXJの駆動系に、ランドローバー・ディスカバリー2のシャシー全体などだ。
独立後は、軍用車両やサーキット用のシングルシーター・レーサーも設計した。英国の小さなスポーツカー・メーカー、ウェルズのヴェルティージュも仕上げたばかりだという。彼ほどの実力があると、引く手あまたなのだろう。
そんなホールは、グレートブリテン島中部のウォリックシャー州に広い敷地を用意した。自分のビジョンを具現化する自動車メーカー、ミカの拠点とするために。そこで作られるのが、今回試乗したミーオンだ。
これは、シンプルでコンパクト、機能性を重視した、運転が楽しい電動ビーチバギー。低炭素技術に特化した非営利団体のセネックスと共同で、政府の助成金を得ながら開発されている。
当初から、バッテリーEVが想定されていた。水平対向エンジンを積んだ試作車の存在も認めるが、あまり良くはなかったらしい。また、フォルクスワーゲン・ビートルの改造ではない。基本的に、すべて独自開発されている。
ちゃんと設計すれば素晴らしいクルマに
「オリジナルのビーチバギーを運転した経験があれば、シャシー剛性の弱さや、エンジンの非力さ、人間工学の不完全さなどをご存知でしょう。ちゃんと設計すれば素晴らしいクルマになると、以前から考えていました」
ミーオンのシャシーは、ボックス構造のスチール製。強化も兼ねたセンタートンネル部分に、20kWhの駆動用バッテリーが載っている。
初めから、大人のおもちゃだという方針を硬め、航続距離には強く拘られていない。駆動用バッテリーは小さいが、車重は700kgを切る。軽く小さく、多くのバッテリーEVが抱える欠点を排除できている。
現実的な航続距離は、100kmから160kmの間らしいが、それはドライバーの楽しみ方次第。「週末の朝のドライブや、地元のカーミーティングへ向かうには、充分な距離だと思います。これが多くの人にとって、休憩なしで走れる距離でしょう」
急速充電は、最大60kWまで対応。20分ほどで、フル充電になる計算だ。
ビーチバギーそのままのボディは、FRP製。カエルの目のように突き出たヘッドライトがチャーミングで、クロームメッキの部品が各部を引き締める。オリジナルの雰囲気を維持しつつ、軽さと運転の楽しさを求めて、余計なアイテムは基本的にない。
とはいえ、ドアもないバスタブ状のボディや、上質とはいえない内装を見て、お値段に疑問を感じる読者は多いだろう。1台、7万5000ポンド(約1440万円)だ。
意外と広く快適な車内 しなやかな乗り心地
ボディは低く、乗り降りは簡単。サベルト社製ステアリングホイールの後ろへ腰を下ろすと、車内は意外と広い。筆者の身長は190cmほどあるが、自然な運転姿勢を取れる。センタートンネルとボディサイドが、ちょうど肘掛けになる位置へ来る。
シートの後方には、ケータハムでは叶えられない、広い荷室。フロントガラスは高く、筆者の背丈でも向かい風に悩まされることはない。長距離移動も、苦ではないだろう。ソフトトップなどは用意されないが。
ペダルの位置は、もう少し調整が必要かも。ちょっと手前すぎ、左へオフセットしている。恐らく、ミカのスタッフへそのことを相談すれば、対応してくれるだろう。ハンドビルドのバッテリーEVだから、機械的な自由度は高いはず。
ダッシュボード中央に、スミス社製アナログメーター。ステアリングホイールの奥には、エネルギーフローを表示するデジタルメーター。運転に必要な情報は、すべて得られる。
ミーオンの特長といえるのが、しなやかな乗り心地。機敏な身のこなしとの組み合わせは、アリエル・ノマドへ近い。ホールは自身のクルマでも、常にソフトなサスペンションを好んできたという。軽量で重心位置が低く、アンチロールバーは不要とのこと。
巨大なアルミホイールは、クラシックなフックス風。車高は低く見えるが、シャシー剛性は高く、滑らかにウイッシュボーンは動き、垂直方向の入力が巧みに吸収される。
スポーツカーとして間違いなく魅力的
ステアリングに、パワーアシストはない。レシオは丁度いい塩梅で、手応えがしっかりあり、重すぎず扱いやすい。レスポンスも良い。横方向のグリップ力と、姿勢制御のバランスも理想的。公道を前提としたスポーツカーとして、絶妙な設定にあると感じた。
タイヤは、フロントがミシュラン・パイロットスポーツだが、リアはミシュラン・ラティチュードというSUV用。アクセルペダルの加減でのライン調整を狙ったチョイスで、低速コーナーや未舗装路では、実際に面白さを引き出せた。
最高出力は218ps。80km/h前後までは、加速はかなり鋭い。英国の郊外を軽快に駆け抜けるには、充分な動力性能だろう。もちろん、ほぼ無音だ。
操縦性ではクルマとの一体感が高いものの、やはり電気モーターのパワー感は味気ない。それでも、ミーオンはスポーツカーとして間違いなく魅力的だと思う。仮に内燃エンジンを想定していたら、恐らく販売には至らなかったはず。
自動車業界へ迫られている、ゼロ・エミッション。厳しい現実へ耐える必要性は間違いないが、ミーオンには耐えられそうな楽しさも備わる。
相当にニッチなモデルで、リッチなドライバーしか手は出せないかもしれない。それでも、経験豊かな技術者によって、未来が明るく感じられる成功作へ仕上がっている。
ミカ・ミーオン(英国仕様)のスペック
英国価格:7万5000ポンド(約1440万円)
全長:3061mm
全幅:1613mm
全高:1177mm
最高速度:161km/h
0-100km/h加速:3.5秒
航続距離:161km
電費:8.0km/kWh(予想)
CO2排出量:−
車両重量:675kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:20kWh
急速充電能力:60kW
最高出力:218ps
最大トルク:31.6kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)
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