ホンダ「NSX」に、イエローのボディカラーが追加された。登場から4年、進化し続けるハイブリッド スーパーカーに、田中誠司が試乗した。
復活したイエロー
イザというときに頼りになる(かもしれない)、ジープ ラングラー アンリミテッド
ホンダは2020年モデルの「NSX」に、エキサイティングカラーシリーズの第2弾となる新たなボディ色「インディイエロー パールII」を追加した。
現行NSXとして9種類目になるボディカラーは、カラーデザイン、材料開発とも日本人女性を中心として、日本にある研究室で開発された3コート パールで、オプション価格は8万8000円。
直接的には1990年から2005年まで販売されていた初代NSXの「インディイエロー パール」にインスピレーションを受けたものという。インディイエロー パールはNSXの受注の約20%を占めていたそうで、多くのスポーツカー ファンの記憶にも強く残っているはずだ。
NSXに限ったことではなく、ホンダのスポーツカーにとってイエローは欠かせないトラディションである。“ゴールデンイエロー”と“スカーレット”(赤)の2種のみでスタートしたという「S800」をはじめ、「ビート」、「S2000」、「プレリュード」、「インテグラ タイプR」といったスポーツモデルには、イエロー系のカラーがしばしば設定されていて、登場から4年になる現行NSXにこれまで設定がなかったのが不思議なくらいだ。
インディイエロー パールIIを身にまとった実車と対面したのは地下駐車場だったため、この新色について多くを語ることはできないが、それでもパールの煌めきは印象的で、強い主張をもっているのは明らかだった。サンディングを施したうえクリアを2層重ねるという、入念な工程が効果を発揮しているようだ。イエローにパールをミックスしたペイントは、近年ランボルギーニやフェラーリが積極的に使うようになっていて、いまやスーパーカーらしいプレミアムなボディカラーとして定着している。
筆者も昔、黄色いクルマに日常乗っていた経験があるが、黄色いボディカラーには、クルマを走らせるとき“さぁこれからドライブするんだぞ”と、ドライバーの目を覚まさせる効果があるように思う。存在感があるけれどフェミニンなイメージにならないのがイエロー系の長所で、女性に比べ宝飾品を身にまとう機会の少ない男性にとって、大いに使いこなす価値のあるカラーであると思う。
熟成されつつあるパワートレイン
取材にともない、あらためてNSXの2020年モデルに試乗する機会を得た。ボディカラーはエキサイティングカラーシリーズの第1弾として2019年モデルで追加された「サーマルオレンジ パール」だ。
500馬力を超えるV型6気筒ガソリンターボ エンジンに3つのモーターを組み合わせ、4つのタイヤの駆動力を変幻自在させる「SH-AWDシステム」を搭載した現行NSXは、世界にも稀な個性的ハイブリッド スーパースポーツカーとして2016年に登場した。
しかしこれまでの専門家らによるレビューでは、当初はその複雑な構造が完成に至っているとはいえず、ハンドリングの観点も含めると、超強力なハイブリッド パワートレインを完全に手中に収めることには成功していなかったようだ。
筆者自身は今回初めて現行NSXを走らせたが、2018年末に実施されたマイナーチェンジを経て、サスペンションの強化や駆動システム制御の刷新を通じ、初期型当時に指摘されたインバランスさの多くは払拭されたのに違いないと思った。
システム最高出力581ps/最大トルク646Nmにカーボンセラミック・ブレーキを組み合わせた強力な加減速性能は、鮮烈であり重厚でもある。アクセルペダルの奥行き半分でもうお腹いっぱいなのに、そこから踏み込めばまだまだトルクが湧き出すという途方もないパワフルさの背後に、かつてのNSXを知っている人ならばきっと懐かしく思うはずの、ホンダV6らしいエグゾースト・ノートが7600rpmのトップエンドまで響く。
そんなハイブリッド・パワートレインの実力を遠慮なく解放するシーンでも、現在のNSXのサスペンションは姿勢変化を十分に抑え、かといって身体に伝わる情報が不足することもない。コンパクトなV6エンジンを選んで前後のオーバーハングも削り、外板の軽量化にも励んで慣性モーメントを低く抑えたことも奏功しているかもしれない。まるで見えない手がボディを上から押さえつけているのではと思えるほど、4つのタイヤは執拗に路面を捉え、破綻をきたす気配とは無縁だ。
使い勝手も良好
盤石極まる運動性能がハードコアなホンダ ファンの好みかどうかは別として……と、言うのもS2000の後期型は、トルク豊かなエンジンと安定したハンドリングを手に入れたものの、より鋭敏な前期型を好むマニアも多くいたからだ。ただ、NSXはより多くの人に受け入れやすい進化を遂げているように思う。
乗り心地も、多少目地段差での突き上げ感が強いほかは、アクティブ ダンパー システムを持つサスペンションがいかにも高い精度で作動してくれて快適だし、9段デュアル クラッチ トランスミッションの変速マナーも穏やかだ。4種類のモードが用意されるインテグレーテッド ダイナミクス システムからクワイエットモードを選べば、最大80km/hまでモーターだけで静かに加速してくれもする。
NSXは着座位置のわりにサイドシルが低く、キャビンに乗り込むのが容易だ。高品質の高張力鋼板で細くしたAピラーの恩恵もあって前方視界も非常によいので、全幅が1940mmもあるわりに取り回しがしやすい。かつて“ゴルフバッグを2つトランクに入れられるスポーツカー”として名を馳せた初代NSXと同様、こうした日常性の高さが販売を後押ししてくれることは疑いない。
もし本当にサルーンに負けない快適性を目指すなら、車外騒音とロードノイズの遮断を「もう少し」と、思うが、カーボンセラミック・ブレーキ搭載で23.5kg削ってなお1780kgに及ぶ車重を、さらに増やすわけにもいかないのは理解できる。
選ぶ人の用途はどうあれ、“New Sports eXperience”を意図した新しいNSXは、2370万円という価格さえ除けば間口を広くとり、とはいうもののユニークなドライビング・プレジャーを味わえる、日本が誇るべきスーパースポーツカーだ。
文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
全体的にホンダっぽさは出てて良いのかもだけど、そのテイストが軽まで共通なのがイカンでしょ(汗)