ロングキャビンで室内は快適さを増した
日本全国、都市部山間部問わず、どこへ行っても必ず見かけるのが軽トラックだ。正確な数字は把握していないが販売総数で見たら世界一台数の多いカテゴリーと言えるのではないだろうか。そんな軽トラックの人気は海を越え、アジアやアフリカなどの新興国ばかりでなく、最近はアメリカでも高い人気なのだという(NHKで特集番組が放送された)。そんな世界で愛される日本発の軽トラックの魅力を試乗レポートしよう。
ボク自身レーシングドライバーになるずっと以前にレース資金を稼ぐため、軽商用のMT車(当時のホンダ・ステップVAN)で配送のアルバイトをしつつヒール&トウや荷物を倒さないフラットライドのコーナリングを練習したものだ。それゆえ軽トラックではなかったが、商用軽に対して馴染みがある。最近ホンダがN-VANを登場させ当時のことを思い出していた。
今回試乗したのは軽トラックの最新モデル2車。まずはスズキ・スーパーキャリィだ。スーパーキャリィのスーパーの意味は、スーパーロングキャビンにある。
従来の軽トラックは通常2人乗り。コクピットはミニマムで、シートバックはリクライニングできない場合が多い。小さな車体で最大限の積載環境を得るために、キャビンスペースには割り切った。近距離の農作業や荷物運搬が種目的なのでそれで良かった。大きな体格のアメリカ人も、その狭さにむしろ親しみを感じるのだという。普段広大な土地の広いお屋敷に住むだけに軽トラックには広さより機動性を求めている。
だが国内では独自に進化をし続けていて、キャビンは徐々に拡大していっている。その最新仕様がスーパーキャリィというわけだ。シートバック後部に30~40cmほどのスペースが設けられ、シートバックを大きくリクライニングさせることができるようになった。これで農作業の合間に休憩する場として車内で仮眠も取れるなど快適利便性が高まったといえるのだ。また農作業に関らず高価な電子パーツや工具を運ぶ際の安全な保管場所としての役割も果たし風雨からそうした電子機器を守れるなどメリットが大きい。
一方、キャビンが大きくなれば積載スペースは現象してしまいそうだが荷室の床板全長は縮まらないように工夫されていて長尺の脚立が従来通り積載できるなどパッケージングが進化している。
スーパーキャリィのエンジンは660ccの直列3気筒。ノンターボで50馬力の最高出力と63N・mの最大トルクを発揮する。出力スペックはたいした数値ではないが、5速MTはスーパーローギヤ比が組み込まれ、常用2速発進可能なギヤ比となっている。一方で100km/hの高速クルージングもハイギヤードな5速ギアで回転を抑え静かで快適だ。
リーフリジッドのリヤサスペンションにラダーフレームという基本構成は従来どおりだが、操縦安定性は極めて向上した。路面の轍にハンドルを取られることもなく、高速直進性も乗用車と比べて遜色ない。マニャルトランスミッションを操作するシフトレバーは節度があって操作性もいい。かつてのフニャフニャしたシフトフィールではなくカチっとしている。ギヤのシンクロも強力で、変速時にギヤ鳴りを起こすこともない。
装備も豊富で快適性も高まっていることから乗用車から乗り換えてもなんら不満を感じないだろう。
もう一台、ダイハツのハイゼット・ジャンボも用意されている。こちらはロングキャビンのはしりとも言えハイルーフ+ロングキャビンで一世を風靡したモデル。エンジンは3気筒NAと同じ仕様だが、46馬力、60N・mとパワースペック的にはスーパーキャリィに若干劣る。またトランスミッションは4速ATだ。
すでに10万km以上を走り込んだレンタカーしか用意できなかったこともあり、質感や全体的な印象の悪化は否めないが、10万km後の姿をイメージできて参考になる。
車体の剛性的に緩く感じる部分はあるものの、シートの立て付けやステアリングの操作フィール、直進性など走行性能に不安を感じる部分は皆無。ラダーフレームの剛性の高さがむしろ経年劣化を抑えてくれているといるだろう。
軽トラックの最大積載量は350kgまで。タイヤもそれに耐えうる専用サイズと仕様が指定されている。フレーム関して言えば500kg積んでもびくともしない強さがあると言えそうだ。
軽トラックを日常的に仕様している山口エキスパートに聞くと、広大な農地を持つ農家なら敷地内のあぜ道移動に最適で、そうした場所でなら500kg近く積んで走ることもあり得るというが、それでも不具合を感じることはないという。
アメリカに渡ればおそらく公道ではなく私有地専用として扱われることが多いのだろう。公道で他車との衝突やロングドライブでの疲労軽減、歩行者保護など考えたら足りない部分も多いが、私有地使用なら無駄がなくベストだという。
そういう意味ではスーパーキャリィは前後誤発進防止ブレーキアシストを装備するなど公道向けの進化も果たしている。
まだまだ軽トラックの魅力は語り尽くせないが、サーキットでのタイヤ搬送とか、欧州旧市街の狭い道路でのメンテナンス用車両としてとか、世界各地、各シーンでの需要が見込めるのではないかと思う。
軽トラックのエキスパート山口さんの目
今回、実際に日常から軽トラックを使用している「軽トラのエキスパート」の意見を聞いてみた。山口さんは、趣味で多数のクルマやバイクを所有した経験をお持ちで、クルマそのものに対する知識は豊富。農業などさまざまな事業を営んでおり、実際に今も軽トラックを2台所有している。
新型のスズキ・キャリー(運転席の後部が広いスーパーキャリー)に乗って、その進化に驚いた。運転席の後部のスペースは何かと便利に使えるし、それでいてリヤのスペースはあまり犠牲にしていない。安全面でも、衝突安全への配慮などを含め大変使いやすくなっている。乗り心地もいいし、静かになった。トルクも増えて動力性能にも不満がない。
ミッションは、オートマとマニュアルが選べる。オートマは、家族で使うことを考えるととても楽だが、僕はマニュアルミッション派だ。旧型のキャリーとホンダのアクティ2台所有だが、いずれもマニュアル。ちなみに愛車のアテンザ・ワゴン(ディーゼル)もミッション車である。
日本の軽トラックは限られた条件で使いやすさとコストパフォーマンスを求められ、究極の「小さな働く自動車」に進化している。最近はダンプやリフト車などの特装車も多く、小回りが利き、日本の原風景の細い道、旧市街の生活道路でも不便を感じない。
もちろん、未舗装路の農道でも4WDがあれば、心強い。さらに農林業向けにはデフロック・スーパーLOWギヤ付きモデルもあり、4WDの王者レンジローバー真っ青のオフロード性能を持っている。農家向けにはショートホイールベースで小回りがさらに効くモデルが用意されてもいる。
軽トラックは丈夫で長持ち。中古車になっても値段は高い。農家では10年以上乗り続けるのが普通だ。ちなみに僕のアクティは平成7年式だから23年も経っているが、消耗品以外はそのまま、故障知らずだ。ちょこちょこ走っているだけで、なんと12万kmにも達した。軽自動車税は1年で4000~6000円だから格安。余談だが、何人かいる知り合いのトラック運転手の自家用車は、みんな軽トラックであることを見ると、その魅力のほどがうかがえるだろう。(田舎暮らしの評論家:ソーラー山口)
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