マツダの次世代パワーユニットとして、世界から注目を集めている「スカイアクティブX」は、ガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンのいいとこ取りである。注目は世界初の燃焼制御技術「火花点火制御圧縮着火(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション)」の採用だ。今回、すでに発表済みである同パワーユニットを搭載した「マツダ3」に試乗した。
試乗場所はドイツ・フランクフルト市街地から郊外路、速度無制限区間のアウトバーンへと走行パターンが変化するコースだった。マツダ3そのものの良さを再認識したが、注目すべきはやはりスカイアクティブXの出来の良さだ。実にスムーズだった。
スカイアクティブXは、1.高回転&高出力を可能にする伸びの良さ、2.排気浄化性(有害物の排出量が少ない)に優れた火花点火式ガソリン・エンジン「スカイアクティブG」、そして、3.初期レスポンスと高トルク、燃費に優れた圧縮着火式ディーゼル・エンジン「スカイアクティブD」の美点をあわせもつ。
さらに燃費を向上させるべく希薄燃焼(リーンバーン)を採用し、かつ吸入空気量を確保するための過給器(スーパーチャージャー)を装着する。そして、モーターを搭載するマイルド・ハイブリッドシステムを組み合せる。
これら複雑なシステムによって、燃費と環境性能を向上させつつ、高出力&大トルク、優れたレスポンスを有するガソリン・エンジンに仕上がったのである。
難しい技術用語が並ぶので、多くの人はわかりにくいかもしれない。しかし、自動車業界的には、内燃機の可能性を示す驚くべき技術である。それをマツダは、世界に先駆け実用化したからこそ、脚光を浴びているのだ。
ちなみになぜ、スカイアクティブXをマツダは開発したのか? その目的は2021年、欧州に導入予定の、厳格なCO2排出規制95g/km(実際は車輌重量、生産台数で異なる)に対応するためだ。これがどれほど厳しいのか? 判りやすい算出値では、なんと全車輌が平均燃費27km/L以上を達成しなくてはいけないという。
もし2021年に規制をクリア出来なければ、巨額の罰則金が課せられる。とはいえ、内燃機関の可能性をさらに広げたいマツダとしては、クルマの走る歓びを追求しつつ、内燃機を残すべくスカイアクティブXを開発したのであった。
難しい燃焼の話を、判りやすく解説する能力がないのを棚にあげて申し訳ないが……ともかく乗ってどうなのか? というわけで試乗した印象を伝えたい。
コクピットに収まり、マツダが推奨する骨盤を立てたドライビングポジションにすべく、シートとステアリングの角度、高さを調整する。通常一日の試乗会終わりには、腰を伸ばす姿勢をとりたくなるものだが、近年のマツダ車とマツダ3にその必要はない。
スタートボタンを押すと2~3回のクランキングで即点火した。アイドリング状態の室内は、静かだ。アクセルを軽く煽ると、フケあがるサウンドそのものはガソリン感覚である。しかし、回転が落ちたときにディーゼル特有の“ゴロゴロ音”が混在していた。なるほど、スカイアクティブGとスカイアクティブDの両方がミックスした燃焼音である。
試乗車のミッションは6MTと6ATが用意されていた。まずはMTから試乗する。クラッチ操作に特別の気遣いは無用だ。アクセルに軽く足を載せ、アイドル回転プラスの1000rpmレベルでクラッチミート。ストールの心配なく動き出すさまに、「なるほど低速トルクが太いなぁ」と感じたものの、これはモーターのアシストによるものであった。
2000~3000rpmの走行時、“チッチッチッ”とリーンバーン特有のノック音がかすかに聞こえる。ターボ・エンジン車乗りには気が気ではないノイズであるが、スカイアクティブXの場合は火花点火制御圧縮着火が正常に機能している証しだ。とはいえ、エンジンを包むカプセルと遮音材の音消し効果により、耳をすませば聞こえる程度だからそこまでは気にならない。
シフトアップ時にクラッチを切ると、回転を維持して次のギアへのつながりを滑らかにする機能も搭載する。エンジン停止とその再始動はまさにシームレスで、始動振動も音もなくまるでEVのようにスタートした。
アクセルを強く踏み込むと、通常のガソリン・エンジンとおなじ燃焼方法になる。スカイアクティブGとおなじく、加速レスポンスも良好だ。ちなみに、燃焼方法の切り替わりは、メーターパネル内の表示で判るものの、身体に感じられるようなショックや音の変化は皆無である。
スカイアクティブXのみでは優位性が判りにくいため、新型SUV「CX-30」に搭載されたマイルド・ハイブリッド仕様のスカイアクティブG 2.0とスカイアクティブD1.8と比較した。モデルが違うので、単純比較は出来ないが、それでも差は十分にわかった。
たとえばスカイアクティブXは、郊外路のゼロスタートと中間加速はスカイアクティブGを凌ぐものの、スカイアクティブDとはほぼ変わらなかった。
ちなみに、あらためて試乗したマツダ3は、操作に対する自然な応答感と正確さが持ち味であるのを再確認出来た。タイヤ踏面と縦方向の撓みの硬さが、低速走行で感じられる部分こそあったが、欧州ではこの確かな剛性感が好まれるから、これはこれでいいと思う。
郊外路の中速コーナーでは、舵角に対するトレースの正確性が印象的だったし、アウトバーンで工事中の凹凸を180km/hで通過したときのぶれない直進性も素晴らしい。
「ゴルフを抜いたかも……」と、別の媒体で記し、“誉め過ぎたか!?” と、後悔したものの、あらためてマツダ3の欧州仕様に乗って、走りや操安性や内外装のデザインおよびクオリティなどのトータルバランスの良さで、あながち言い過ぎではない、とホッとした。
試乗をすべて終えてからスカイアクティブXを振り返ると、技術力の高さは相当であるが、発展途上の感は否めない。
スカイアクティブD 1.8にトルクでは敵わないし、逆にスカイアクティブG 2.0とトルクで大差がつくわけでもない。1番はコストが圧倒的に違う。スカイアクティブX搭載モデルは一気に高価になる。ちなみに価格は、314万~362万1400円。なおファストバックのエントリーグレード(1.5リッターガソリン・エンジン搭載車)が218万1000円から購入出来る。
ゆえに、もし筆者が選ぶとすれば、現状はスカイアクティブDになりそうだ。スカイアクティブD搭載のエントリーグレードは274万円だから、装備差は若干あるにせよ約40万円安く購入出来る。
とはいえ、スカイアクティブXに魅力がないわけではない。日本国内で搭載モデルに試乗出来るのが楽しみだ。もしかすると、印象が変わるかもしれない。
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