違いが鮮明なシルバーシャドーとセビル
ロールス・ロイス・シルバーシャドーIIの大きなパルテノングリルの頂部には、オプションだった女神像、スピリット・オブ・エクスタシーが輝く。高級リムジンといえばコレだろう。見慣れた筆者でも、特別な印象を受ける。
【画像】ロールス・ロイス・シルバーシャドー キャデラック・セビル ジャガーXJ12 現行モデルも 全88枚
初代オーナーは、贅沢にオプションを選ばなかったようだ。標準のレザーではなく、肌触りの良いベルベット生地でシートが仕立てられている。現在の走行距離は4万6600kmほど。新車のように美しい。
直立したダッシュボードはウオールナット・ウッドで仕上げられ、多くのメーターやスイッチ類が並び、見た目に心地良い。シフトセレクターはステアリングコラムから伸びる。
ゆったりしたリアシート側は、太いCピラーで挟まれている。プライバシーを気にかけるオーナーでも、隠れる場所があり安心だ。
ロールス・ロイスからキャデラック・セビルへ乗り換えると、その違いが鮮明になる。マシュー・ライト氏が所有する1977年式は正規輸入車ではないものの、左ハンドルであること以外、基本的には英国仕様と変わらないという。
シャープなスタイリングは、シルバーシャドーやジャガーXJ12よりモダンに思える。クロームメッキが仰々しいフロントグリルやバンパーは好みが分かれそうだが、プロポーションも悪くない。
インテリアでは、レザーで仕立てられたシートが主張するものの、ロールス・ロイスの品質には届いていない。ダッシュボードを覆うウッドパネルはフェイク。それを、機能や装備の物量で補っている。
フォーマルさよりスポーティ度が高いXJ12
キーを挿したままドアを開くと、警告音が鳴る。フロントフェンダー上の光ファイバーで灯るライトは、電球切れの警告灯になっている。温度調整できるエアコンも、1970年代では先進的な装備だった。
シートは電動で動き、トランクリッドにはソフトクローズ機構を内蔵。好燃費で走行中だと教える表示やオートヘッドライトなどは、現代モデルにも負けていない。
横に長いスピードメーターは、時速85マイル(136km/h)まで振られている。ところが、実際の最高速度は169km/hだった。
オールド・イングリッシュ・ホワイトに塗られたジャガーXJ12は、マックス・ホルダー氏がオーナー。そのインテリアが醸し出す雰囲気は、シルバーシャドーとセビルの中間といったところ。
ボディサイズは1番小さく、だいぶ小柄に感じてしまう。スリムなリアのCピラーと引き締まったボディラインで、フォーマル感よりスポーティ感の方が強い。運転席の着座位置が低く、人間工学的にもベストだ。
1970年代のブリティッシュ・レイランド由来のスイッチ類が、高級感の漂うウッドのダッシュボードで浮いている。3台では新車価格が最も安かっただけあって、装備は質素。エアコンは備わるが、クルーズコントロールは付いていない。
クリーミーに回転するV型12気筒エンジンを目覚めさせ、フロアシフトでDを選択すると、秀でたフィーリングで嬉しくなる。ロックトゥロックは3回転でレシオは他の2台と大差ないものの、精度の高さは別格。手のひらへ伝わる感触も濃い。
感心するほどの動力性能で運転が楽しい
車重は1895kgと軽いとはいえないが、それを感じさせない。ダンパーやスプリングのレートは完璧で、路面のワダチや舗装の剥がれをなかったことにしてくれる。それでいて、ロールス・ロイスやキャデラックとは一線を画す姿勢制御も叶えている。
V型12気筒へ送るガソリン量を増やせば、素早く走ることにも驚く。別の機会のテストでは、最高速度233km/h、0-97km/h加速7.5秒という、45年前のクルマとして感心するほどの動力性能を備えることも確かめている。
中回転域でのトルクは、V8エンジンの方が有利ではある。それでも、高回転域までリニアに湧き出るパワーのおかげで、運転するのが楽しい。
シルバーシャドーも運転は楽しいものの、速度域は低め。車重はXJ12より300kg以上重く、路面のあらゆる不正をボディが威圧的になだめこむ。高めの着座位置のおかげで、タイヤの存在感も遠い。ロールス・ロイスへ期待する味わいだ。
しかし今回試乗したグレートブリテン島南部、ニュー・フォレストに広がるカーブの続く道では少々手に余る。ボディがゆったりと傾き、ステアリングホイールを丁寧に回す必要性を感じる。
こんな区間は、ロールス・ロイスなら80km/hくらいで走るのが良い。滑らかな走行時の質感は、他の追随を許さない。周囲をまったく意に介さない隔離性や淡白な印象が、シルバーシャドーの哲学を端的に表している。
最近は、この特長へ共感する人が増えている。シルバーシャドーの取引価格は、上昇傾向にあるという。
ドライビング体験で優れるキャデラック
他方のキャデラックは、意外にもシルバーシャドーよりドライビング体験では優れていた。量産然としたインテリアの印象は別として、特に乗り心地の良さには驚かされる。
呆れるほど軽く回せるステアリングホイールに慣れれば、予想以上の姿勢制御で連続するコーナーを処理してくれる。アメリカ車として、という括りを加える必要はない。
セビルで惜しいのが動力性能。0-97km/h加速には12.5秒を要する。アクセルペダルを倒しきっても、169km/hが精一杯。内装の雰囲気も考えれば、総合的にはロールス・ロイスに軍配があがる。
世界最高のクルマとして順位付けしていく場合、まずはブランド・イメージで足が切られる。内装の設えや、長距離移動時の快適性などがそれに続く。ロールス・ロイスの勝利は、明確なものだといって良い。
路上での存在感やドライバーへの訴求力、価格や装備などを総合的に比較すると、キャデラックも同じ土俵に立てている。それでも、最高とまではいえないだろう。
筆者個人としては、全体的な水準の高さとパッケージングの特別さから、ジャガーXJ12を3台のベストに選びたいところ。実際、長距離を高速で走らせたら1977年当時は世界最高の1台だった。
協力:ロールス・ロイス・エンスージアスト・クラブ・ロジャー・ケンプ氏、ジャガー・ドライバーズ・クラブ、ベン・コールマン氏、国立自動車博物館
世界最高を目指したサルーン 3台のスペック
キャデラック・セビル(1976~1979年/北米仕様)のスペック
英国価格:1万4888ポンド(新車時)/1万5000ポンド(約247万円)以下(現在)
販売台数:11万8400台
全長:5179mm
全幅:1823mm
全高:1389mm
最高速度:169km/h
0-97km/h加速:12.3秒
燃費:4.2-5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:1924kg
パワートレイン:V型8気筒5735cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:182ps/4400rpm
最大トルク:37.9kg-m/2000rpm
ギアボックス:3速オートマティック
ロールス・ロイス・シルバーシャドーII(1976~1980年/英国仕様)のスペック
英国価格:2万4248ポンド(新車時)/4万5000ポンド(約742万円)以下(現在)
販売台数:8425台
全長:5194mm
全幅:1823mm
全高:1517mm
最高速度:186km/h
0-97km/h加速:10.5秒
燃費:4.2-5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:2200kg
パワートレイン:V型8気筒6750cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:233ps(予想)
最大トルク:41.4kg-m(予想)
ギアボックス:3速オートマティック
ジャガーXJ12 LWB(1973~1979年/英国仕様)のスペック
英国価格:9429ポンド(新車時)/1万5000ポンド(約247万円)以下(現在)
販売台数:1万4226台
全長:4945mm
全幅:1770mm
全高:1371mm
最高速度:233km/h
0-97km/h加速:7.5秒
燃費:4.6-6.4km/L
CO2排出量:−
車両重量:1895kg
パワートレイン:V型12気筒5343cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:289ps/5750rpm
最大トルク:40.5kg-m/3500rpm
ギアボックス:3速オートマティック
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