■激レア! 軽ミッドシップオープンスポーツカー「S660」
軽自動車でありながら、2シーター・ミッドシップレイアウト・タルガトップを採用したリアルスポーツカーとして2015年に誕生したホンダ「S660」。
「スープラ」が4300万円越え! 高騰する国産スポーツカーを象徴する1台
2022年3月をもって生産終了することになりましたが、このニュースが発表されるとわずか3週間足らずで残りの生産分が完売するなど、一気に人気が沸騰したのです。
S660の魅力はどのようなところにあったのでしょうか。
S660はクルマ好きによるクルマ好きのための1台として、2015年3月に誕生。非常にレアなモデルで、2シーターでターボエンジンをミッドシップに配置し、タルガトップを採用したリアルスポーツカーを軽自動車で実現しました。
魅力として挙げられるひとつめのポイントは、軽自動車という点です。税金をはじめとした維持費が安く、それでいてリアルスポーツカーに乗れるというのが人気の理由のひとつになっていました。
さらにふたつめのポイントは、ホンダらしいチャレンジングな1台だったことです。
現在は、「Nシリーズ」や「フィット」「フリード」といった実用的なモデルがホンダの主力になっていますが、1980年代から1990年代前半のいわゆる「第2期ホンダF1参戦」時代を知る人にとっては、「ホンダ=スポーツ(エンジン)メーカー」という認識があります。
そのスポーティなイメージを体現したスーパースポーツカーの「NSX」は2000万円超と手が出しづらいですが、同じレイアウトのS660は総額250万円ほどで購入することができることも、根強いファンに愛された理由といえそうです。
3つめのポイントは、エンジンを前後タイヤの間、正確には座席後方に配置したミッドシップレイアウトによる走行性能の高さです。
最高出力は軽自動車の自主規制である64馬力しかありませんが、エンジンを後方に積むことでノーズが軽くなり、高い旋回性能を実現。
また、CVTだけでなく、軽自動車初(デビュー当時)となる6速MTを搭載しており、クルマ好きなら1度はステアリングを握りたくなる走行性能を誇ります。
4つめのポイントは、同様のコンセプトで一世を風靡した「ビート」(1991-1996)の魂を受け継いでルーフが脱着可能なタルガトップを採用したことでしょう。
ルーフを外して気軽にオープンエアを楽しむことができるところもS660の特徴です。
それでいて、安全装備としてエアバッグやABS、トラクションコントロール、VSA(横滑り抑制装置)を搭載。現代のクルマに求められる要件を満たしていました。
ちなみにボディサイズ、全長3395mm×全幅1475mm×全高1180mmと、全長・全幅はほかの軽自動車と変わりませんが、全高は非常に低く設定。N-BOXの全高1790mm(FF)と比べると600mmも低く、ゴーカートのような低い目線での走行が楽しめます。
またタイヤサイズは、フロントが165/55R15、リア195/45R16と前後異径になっているなど、通常の軽とは大きく違うところです。
昨今はクルマに関するさまざまな規制が強化されており、今後は軽自動車のミッドシップスポーツカーが登場することは難しくなるでしょう。もしかしたらS660は最後の軽のミッドシップスポーツになるのかもしれません。
■中古価格が500万円!? プレミアムが付いたS660
新車としてS660が購入できなくなった現在、中古車価格が高騰しています。
もともと生産台数が月産800台という少数生産ということもあり、中古車価格は高値安定傾向ではありましたが、「新車で買えない」ことが引き金となって一気にプレミアが付いたようです。
S600のグレード体系は、スポーツファブリックシートのベーシックな「β(ベータ)」と、本革巻ステアリングやクルーズコントロールなど装備が充実した「α(アルファ)」を基本とし、これにグリル一体型専用フロントバンパーやリアアクティブスポイラー、専用サスペンションなどでさらにグレードアップした「モデューロX」があります。
現在の相場では、2015年式の「β」や「α」で走行距離が10万キロを超えたような車両でも160万円前後。
また街乗りには快適なCVTより6速MTのほうが市場価値も高く、5万km以下の低走行距離車は180万円から200万円となっています。
ちなみに、最後の特別仕様車「モデューロX バージョンZ」ともなれば、500万円という値が付けられている車両もあるなど、軽自動車としては異常なプレミアがついている状態です。
いまではプレミアムモデルとなったS660ですが、手に入れたら長く乗り続けたいと思う人も多いでしょう。
S660のメンテナンスや補修などを手掛けてきたH整備士に、維持していくうえでのポイントを聞いてみました。
「基本設計も新しいクルマだけに、現段階では神経質になる必要はないと思います。ただし個体差もありますが、タルガトップの幌パーツとの接続部分にはサビ対策をしておいたほうがいいでしょう」
通常のオープンモデルでもありがちなメンテナンスポイントといえますが、S660の場合、ボディの奥に気をつけたい重大なポイントがあるのだそうです。
「実は、パネルの内側に組み付けられた別のパネルとの接続部分にサビが発生しやすいんです。しかも整備レベルでは手が届かないので、対処がなかなか難しい箇所があります」
たとえば、フロントピラーのアウターパネルとサイドシル(アウター)、リアフェンダーなどの接合部分など、金属と金属が接合される部分は塗装で保護することもできず、そういった部分はどうしても酸化しやすいといいます。
「ビートも幌の接続部分やパネル接合部のサビが発生しやすかったですが、現在のクルマは見えない内側部分などの塗装は省く傾向にありますので、S660に限らず内側に湿気や雨が入りやすいオープンモデルは、できれば防錆処理をしたほうが長く状態をキープできると思います」(H整備士)
※ ※ ※
今後のS660の中古車価格を推測するのは難しいのですが、実際に生産が終了する2022年から数年は高値が続く可能性があります。
あえてCVTを狙って少しでも安く入手し、しっかりメンテナンスにお金をかけるというのも、S660を長く乗り続ける方法のひとつかと思います。
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