Jaguar F-Type 400 Sport × Porsche 911 Carrera
ジャガー Fタイプ 400 スポーツ × ポルシェ911カレラ
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絶対的王者、危うし
熟成極まるジャガー Fタイプに2018年限定モデルとして特別グレード「400 Sport」が登場した。従来の380psから20ps出力を高めた400psの3.5リッターV6スーパーチャージドエンジンを搭載する。もちろん、ライバルとなるのは370psの3.0リッター水平対向6気筒ターボ積む王者911カレラだろう。ワインディングから高速道路までの長距離を走りきり、2モデルのポテンシャルを探った。
「デビュー当初のFタイプはスタイリングの緊張感が走りまで波及していなかったが・・・」
初めてジャガー Fタイプを目の当たりにして、ドライブした時、なぜジャガーがEタイプを直感させる伸びやかで美しい2+2ボディを持ったXKクーペを、2シーターのFタイプに置き換えてしまったのか、その真意がわからなかった。
XKのアルミニウム筐体をギュッと圧縮してオーバーハングを切り詰めたFタイプのスタイリングは他に似るものがないという点でイアン・カラムらしいアイデンティティに満ちていた。けれどデビュー当初のFタイプはスタイリングの緊張感が走りの部分にまで波及しているとは到底思えなかった。ましてやジャガーがターゲットにしているであろうポルシェ911と比較することなどできそうになかったのである。
だがFタイプは年を追うごとに良くなった。特にデビュー当初、バランスの悪さが目立ったV8モデルの躍進は印象的で、昨年デビューした最高峰のFタイプ SVRにはジャガーらしい質感の高いドライバビリティが備わっていたのである。
「GTスポーツカーともいうべき両者の性格を考えてロングドライブで対決」
だから今、マイナーチェンジを経たFタイプを911カレラと比較するというのは理に適っているのである。今回我々がチョイスしたFタイプは、3.0リッターV6スーパーチャージャーを搭載する400 スポーツのRWDモデルだった。2018年のイヤーモデル限定となるこのクルマは通常の380psを上まわる400ps版のパワーユニットを特徴としており、専用のスポーツシートや20インチホイール、ディスク径の大きなブレーキ等により主に走りの部分がアップグレードされている。
対するポルシェ911カレラは素のグレードの、7速MTである。3.0リッターフラット6ターボの最高出力は370psに留まるが、何しろ911なのだから限定ジャガーの対戦相手としても役不足であるはずがない。
今回の試乗は、GTスポーツカーともいうべき両者の性格を考えて伊豆半島を一周するロングドライブとした。片道300km超の半分は高速道路だが、あとの半分はほぼワインディングということになる。
「ツアラーとして考えると、Fタイプはすでに911カレラを超えている(?)」
最初にステアリングを握ったインダスシルバーのFタイプ 400 スポーツはケチのつけようがないほど万能なツアラーだった。足まわりは全体的に引き締まっているが、専用のシートと相まって乗り心地はゆったりとしている。エンジンも普通に走らせている時は静かだが、右足に力を込めれば迫力のある音とシンクロして瞬時にワープがはじまる。
安楽な400 スポーツから乗り換えたサファイアブルーメタリックの911カレラは、思いのほかスパルタンだった。ゆったりと走らせていてもロードノイズが車内に入ってくるし、乗り心地も硬め。しかも路面のアンジュレーションをよく拾って頭が振られる。ジャガーより低い着座位置にもかかわらずである。
高速道路を降りたところで再びジャガーに乗り換える。真昼間の箱根路は空いてはいないが、400 スポーツのハンドリングは常識的な速度域でもドライバーを飽きさせない。以前のFタイプのハンドリングに影を落としていたフロントヘビーが払拭されたおかげで、シャシー全体の感度が高まっている。ブレーキのタッチも良好で、僅かに右足を落としただけで効き始めるが、少しもオーバーサーボな感じはない。ツアラーとして考えると、Fタイプはすでに911カレラを超えている(?)。
「ターボ過給されているはずのフラット6はまるで自然吸気のようなパワーカーブ」
一方911カレラのブレーキは、右足を軽く落としただけでは何も起こらない。しっかり踏めば、しっかりと効くスポーツカーのそれである。パワーユニットもブレーキの感覚に似ていて、スーパーチャージャーのお陰でスロットル踏力の3割増しで盛ってくれるジャガーに対し、ターボ過給されているはずのフラット6はまるで自然吸気のように直線的右肩上がりなパワーカーブに終始する。そしてこのリニアリティの違いが、ペースを上げていった時に両者の印象に影響を与え始める。
撮影ポイントとして設定していた西伊豆スカイラインはいつものように閑散としていたので、何回か往復した。一般的なペースで走る分には極上と思えた400スポーツだが、エンジンの高回転側を使うようになると整合性が僅かに崩れ始める。慌ててコンフィギュラブルダイナミクスをダイナミックモードにすると、ピッチングが効果的に収まり、少々軽すぎると感じていたステアリングもリニアリティを増した。
「911カレラは速度を上げるほどにクルマの密着感が高まる」
それでもレブリミット(6500rpm)手前の500rpmはスーパーチャージャーの最後のひと蹴りが入りコントロール性がプアになることが度々あった。コーナリングではLSDを電子制御で締結させるアクティブディファレンシャルの効果がはっきりと体感できたが、スロットルオフ側の締結が甘いせいで乗り手との一体感は「最高潮」には達していない。ともあれ、400スポーツは腹八分目を守って走るとバランスの整った美しい走りを見せることがわかった。
一方の911カレラはスピードを上げれば上げるほど、シートはわりと平板なのにクルマとの密着度が高まる。MTなので自分が操っている感も高い。そして決定的なのは身のこなしの軽さで、Fタイプより約300kgも軽いのだから、エンジンの30ps差など弱点にもならない。
「熟成極まるFタイプはGT性能が白眉! トータル性能はさすがのカレラに軍配か」
ラグジュアリーの度合いはジャガー圧勝、だが走りは911に軍配が上がる、という結果だけを見れば「予定調和」な感じだが、ジャガーネスを失うことなく進化したFタイプの走りが相当なレベルにあることは強調しておきたい。さらに平均的なドライバーのゆったりとした使用環境を考えれば「スピードを上げれば上げるほど良い」という911カレラのメリットはあまり多くない。
とはいえ時間が経っても魅力が陰らない911に対し、Fタイプにそこまでの鮮度があるとは思えない。だからもし、ジャガーがFタイプを最初っから現在のレベルまで熟成させていれば、本当の意味で911を脅かす存在になっていたと思う。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
ジャガー Fタイプ 400 スポーツクーペ
ボディサイズ:全長4480 全幅1925 全高1315mm
ホイールベース:2620mm
トレッド:前1585 後1630mm
車両重量:1730kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHC+スーパーチャージャー
総排気量:2994cc
圧縮比:10.5
最高出力:294kW(400ps)/6500rpm
最大トルク:460Nm(46.9kgm)/3500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール(リム幅):前255/35ZR20(9J) 後295/30ZR20(10.5J)
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:4.9秒
環境性能(JC08モード)
燃料消費率:10.6km/L
車両本体価格:1291万円
ポルシェ911カレラ
ボディサイズ:全長4505 全幅1835 全高1295mm
ホイールベース:2450mm
トレッド:前1540 後1520mm
車両重量:1450kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
圧縮比:10
最高出力:272kW(370ps)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1700-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール(リム幅):前235/40ZR19(8.5J) 後295/35ZR19(11.5J)
最高速度:295km/h
0-100km/h加速:4.6秒
環境性能(JC08モード)
燃料消費率:11.4km/L
車両本体価格:1244万円
※GENROQ 2018年 3月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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