1970年代 フィアット128/ポルシェ928/メルセデス・ベンツ450SE
1970年代が始まる頃には、良いクルマと悪いクルマ、信頼性や経済性などを客観的に指し示す賞として、欧州COTYは地位を確立。自動車メーカーは受賞を意識し、マーケティングに用いられることが増えていった。
【画像】歴代の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞モデル 英国編集部が選出した代表的な15台 ベストは? 全127枚
欧州市場には小さなハッチバックが増え、信頼性が高く安価な日本のモデルが存在感を強めていった。こんな変化の中で、特に先見的だったといえたのが、前輪駆動レイアウトの拡大だろう。
1970年の受賞モデル、フィアット128も、もちろん前輪駆動だ。オリジナルのBMCミニは、10年以上前にFFを採用していたが、イタリアのメーカーはより現代的な技術との融合へ成功していた。
SOHCの1.1L 4気筒エンジンは、トランスミッションと並んで、ボンネット内へ横向きに搭載。サスペンションには、マクファーソンストラット式を採用。トルクステアに対応するため、左右のドライブシャフトはあえて長さが変えられていた。
フロント側には、ディスクブレーキを装備。冷却ファンは、サーモスタットで制御された。ステアリングラックは、ラック&ピニオン式だった。
これらの設計をまとめたのが、フィアットの伝説的技術者、ダンテ・ジアコーサ氏。車両面積の80%が、乗員と荷室空間に充てられるという、見事なパッケージングを完成させていた。その後の前輪駆動モデルへ、多大な影響を与えたことは間違いない。
スペース効率に驚く 昔のフィアットは楽しい
ただし、128は塩分に弱い。雪が振る英国では簡単に錆び、残存自体が非常に珍しいが、温かい欧州大陸なら状態の良い例が見つかる。今回の左ハンドル車は、ネザーランド(オランダ)から自走でやって来た。
オーナーは、トン・ファン・ザイル氏。ミント・ポジターノ・イエローのボディカラーが鮮やかな、初期型だ。「現代のモデルのように運転できます」。と、審査員のレイ・ハットンが微笑む。
「スペース効率の良さには驚きます。スペアタイヤは、ボンネットの中。アウトビアンキA112に大差をつけて受賞した時のことが、思い出されますね」
マット・プライヤーも運転を楽しんだ。「とても正確に操縦できます。シフトレバーの動きや、運転席からの視界も素晴らしい。小さいので、軽快に走ります」
「車齢を感じさせないほど車内は広く、ステアリングが好印象です。ボクシーなシルエットですが、スタイリングも見事。正確なステアリングとシフトフィールで、昔のフィアットは楽しいですね」。スティーブ・クロプリーも満足気だ。
続いて、大きなメルセデス・ベンツへ乗り換える。このW116型は1972年に発売されたが、少し遅れて登場した450SEと450SELが、1974年の欧州COTYを受賞している。2位のフィアットX1/9と、3位のホンダ・シビックを破って。
その頃、欧州COTYで重視していたのが安全性。メルセデス・ベンツは、その正解を導き出していた。ボディは強化され、前後にクラッシャブルゾーンを確保。ダッシュボードにはパッドが巻かれ、テールライトには凹凸のリブが入り汚れを抑えた。
ぶつかっても頼もしかった高級サルーン
保守的なスタイリングを手掛けたのは、フリードリッヒ・ガイガー氏。450SEの最高出力は225psと、当時としてはかなりのパワフルさで、0-97km/h加速を8.5秒でこなした。209km/hの最高速度が、審査員を夢中にさせた。
前後とも独立懸架式のサスペンションには、アンチダイブ機能を備え、リアにはトレーリングアームを採用。上位グレードには、ハイドロニューマチック・システムが組まれた。450SEはパワフルな高級サルーンだったが、快適で、ぶつかっても頼もしかった。
今回ご協力いただいたのは、ゴハール・ラジャ氏。彼の450SEは、後期型だ。
「燃料計には、タンクと書かれていますね。表示は正確ではないようです。シートはかなり滑ります。コーナーで楽しいとはいえません。ゆったり動く、船のようですね」。と、マットが感想を口にする。
スティーブは、当時の試乗テストの記憶を蘇らせる。「想像以上に、古びた印象です。あの頃は、先進的だと感じたのですが。古風なシートと、レスポンスの良くないステアリングに驚いてしまいました。それでも高品質で、耐久性は高いようですが」
レイが続ける。「確かに、良く設計されていますね。ガッシリしている印象はあります。大きく古い塊といった感じ。欧州COTYに選ばれた、最後の高級車でした」
ファンが911を選び続ける理由がわかる
3代目は、15台のノミネート車両で唯一のスポーツクーペ、ポルシェ928。911より実用的で安全なポルシェとして、メルセデス・ベンツやBMWを競合に見据えた、グランドツアラーだ。
安全性だけでなく、快適性や効率性、人間工学にも配慮。価格は高かったが、エキゾチックな雰囲気を漂わせ、欧州COTYに選出されている。
オーバーステアを抑えるリア・サスペンションの設計を受け、4.5L V8エンジンはフロントに搭載。高速域における、操縦性の不安は軽減されていた。
トルクチューブと呼ばれるケースでエンジン側と結ばれた、リアのトランスミッションで、前後の重量配分はほぼ理想値の51:49。220km/h以上の最高速度も叶えていた。
新鮮なスタイリングを描き出したのは、ヴォルフガング・メビウス氏。空力を意識した滑らかな面処理で、リトラクタブル式のヘッドライトが走行時の空気抵抗を抑えた。ドアとボンネット、フロントフェンダーはアルミ製で、重量も抑えられている。
1978年の最高ポイントを獲得した928は、今も審査員を感動させるだろうか。「操縦系が重く、挙動が優れるとはいえません。見た目ほど、運転体験は良くないといえます」。とスティーブが辛口コメントを残す。今回の例は、後期型のS4なのだが。
「928が後継モデルになる予定でしたが、多くのファンが911を選び続けた理由がわかります」。とレイも正直な心象を話す。当時の審査員は、ヴァイザッハ・アクスルと呼ばれる、巧妙なサスペンションを評価したのかもしれない。
「確かに重いですね。エンジンもATも、反応は鋭くありません。コーナーではフラットで、見た目はカッコいいと思います。でも、911の代替モデルではないですし、COTYに相応しかったのかもわかりません」。と、マットも顔を曇らせる。
必然的に1970年代の代表には、フィアット128が選ばれた。
協力:ポルシェUK社
1970年代の欧州COTY代表 3台のスペック
フィアット128(1969~1985年/英国仕様)
英国価格:861ポンド(新車時)/8000ポンド(約149万円/現在)以下
生産数:277万6000台(イタリア製造サルーンのみ)
最高速度:140km/h
0-97km/h加速:15.7秒
燃費:11.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:770kg
パワートレイン:直列4気筒1116cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:55ps/6000rpm
最大トルク:7.8kg-m/3400rpm
トランスミッション:4速マニュアル(前輪駆動)
ポルシェ928(S1/1977~1982年/英国仕様)
英国価格:1万9499ポンド(新車時)/4万ポンド(約744万円/現在)以下
生産数:1万7669台
最高速度:222km/h
0-97km/h加速:8.0秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1468kg
パワートレイン:V型8気筒4474cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:243ps/5500rpm
最大トルク:35.4kg-m/3600rpm
トランスミッション:5速マニュアル/3速オートマティック(後輪駆動)
メルセデス・ベンツ450SE(1973~1980年/英国仕様)
英国価格:1万5440ポンド(1978年時)/4万5000ポンド(約837万円/現在)以下
生産数:47万3035台(W116合計)
最高速度:209km/h
0-97km/h加速:8.5秒
燃費:6.9km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1740kg
パワートレイン:V型8気筒4520cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:225ps/5000rpm
最大トルク:38.3kg-m/3000rpm
トランスミッション:3速オートマティック(後輪駆動)
この続きは、欧州COTYの1番を選ぶ(4)にて。
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みんなのコメント
しかし、1970年代の代表と言いながらデビューが1960年代の128を取り上げて、その発展型であるシムカ1308やオリゾンを取り上げないのは奇妙だ。業界はよっぽど、クライスラー・ヨーロッパという会社が存在した事実を伏せたいと見える。