LSに見紛えそうになるほどのエレガンスに、少しだけアクの強さが加えられたアピアランスは、今までESに足りないと指摘されていたエモーショナルな印象を増した。そして、その走りについては、レクサスが目指す“すっきりと奥深い”が具現化されている。日本のブランドである、レクサスらしい味わいが深化したESは、長く付き合えるパートナーとなるだろう。REPORT●石井昌道(ISHII Masamichi)PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
内外装と走りに世界と戦う実力を身につけた新型ES
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七代目にして初めて日本と欧州に導入されることになったレクサスES。確かに先代までは、アメリカで見掛けてもあまりスタイリングに魅力がなく、FFプラットフォームによる走りも平凡だろうと想像できたので、日欧では他のプレミアムブランドに対していい戦いができないように見えていた。
だが、新型ESはパッと見にはLSと見間違えるほどにスタイリッシュで存在感がある。新たに採用したGA-Kプラットフォームは低重心化を図るために各ユニットが低く搭載され、それによってボンネット高も抑えられている。FRに比べるとフロントアクスルがやや後方になるFFは、フロントオーバーハングが長くなりがちで、スタイリングの伸びやかさで不利になるが、新型ESはAピラーを後方に引いて、低くて長いボンネットを実現。さらにはリヤフェンダー周辺をボリューミーにしてリヤタイヤの踏ん張り感を強調するなどして、FRと見紛うようなスタイリッシュさを手に入れたのだ。GA-Kプラットフォームによって走りの性能もグンとアップし、開発陣が期待した以上に仕上がった。そこで日欧への導入に踏み切ることになったのだという。
そういうことならば、実力派の欧州プレミアムたちとじっくり比較させてもらおう。今回揃えたのはいずれもFRプラットフォームのミドルクラス・セダン。BMW5シリーズとジャガーXFはスポーティでハンドリング自慢、メルセデス・ベンツEクラスも以前に比べるとスポーティではあるものの、この中では快適志向な方と見ていいだろう。
メルセデスのイメージ通り安心感の高い走りと快適性
Eクラスの試乗車はE200 4MATIC アバンギャルド。エンジンはガソリンの2.0ℓターボでEクラスの中では最もベーシックとなる。最近のガソリン・ターボは低回転から大きなトルクを発生するのが強みではあるが、少し前までメルセデスのそれはスペックの割には何やら線が細いように感じられていた。だが、今では走り出しからモリモリと力が漲ってきて実に頼もしい。
しかも、アクセルを深く踏みこんでいけば軽快に吹き上がりスポーティにさえ感じられる。E200という車名からはベーシックで、速さにはあまり期待が持てなそうなイメージがあるが、そのイメージを大きく超える。軽量に仕上がったボディや多段な9速ATの恩恵もあるのだろう。静粛性の高さにも目を見張る。街中でも高速道路でも、大人しく走っている限りはエンジンの存在を感じさせないぐらい。メルセデス・ベンツのイメージに相応しい、黒子に徹した性格だ。積極的に回した時も、ほど良くスポーティなサウンドは聞こえてくるが透過音は抑えられていて室内を快適に保ってくれる。
現行モデルが日本に導入された直後に試乗した時は、案外と硬い乗り心地に驚いたものだが、今回はまったく違った。導入当初のベーシックグレードはE200アバンギャルドスポーツで19インチのランフラットタイヤを履いていたが、今回のモデルは1インチのスタンダードタイヤ。路面の凹凸を綺麗に吸収して見事な乗り心地を見せる。
高速域でも快適。大きな段差などがあってもストンと何食わぬ顔でいなしてみせつつ、その後のダンピングも適切で上下動を後に残さない。横風など外乱にも強く、ステアリングに手を添えていれさえすれば、ビシッと矢のように直進していく乗用車のお手本のような走りをみせる。初期に乗ったモデルは、ややスポーティに振り過ぎではないかと思えたが、今回のモデルは多くの人がメルセデスに期待するであろう、快適にして頼もしい特性となっていた。これをベーシックグレードで実現しているところも素晴らしい。
エンジンと走りがともにちょうどいいスポーティさ
5シリーズの試乗車は523d Mスポーツ。19インチのランフラットタイヤとMスポーツ・サスペンションを装着していた。
そのため乗り心地ははっきりと硬めだった。街中を低速で走っていると、路面の細かな凹凸を正直に拾いゴツゴツとした感触を伝えてくる。ただし、速度が上がってくるとだんだんと気にならなくなっていく。一般道でも60km/h程度になれば、大きな凹凸など極端な場面以外では不快感はなく、サスペンションは引き締まっていながらも動きの質が高くてスムーズに感じられる。高速域になれば、ダンピングの効いた良い乗り味になる。目地段差などでも突き上げ感はそれほどなく、その後の収束が素早いのでボディがフラットに保たれて却って快適なぐらいだ。
ハイライトとなるのはハンドリングだ。ステアリングの切り始めから極めて正確な反応をみせ、切り込んでいけば切り込んだだけ素直にノーズがインを向いていく。スポーティを演出し過ぎて過敏になることもなく、ひたすらに一体感のある走りが堪能できる。それでいて高速道路を突っ走っていく時は落ち着いている。ステアリングの中立がわかりやすく、適度な遊びと微舵の反応の良さなど理想的なフィーリングで、どこまで走っていっても疲れなさそうな特性なのだ。
エンジンはディーゼルとしてはかなり静かなものの、ガソリンに比べればそれなりに音・振動はある。特に、低回転域である程度の負荷を与えた時に出やすくなるが、古いディーゼルのようにカラカラと安っぽいフィーリングはなく、その太いトルクなりの力強さが音・振動となって伝わってくる感覚だ。また、さすがBMWと思わせるのが、レスポンスの良さとトルク&パワーのバランスだ。低回転域から力強いが、中・高回転域も決して不得意ではなく、ガソリンに近い感覚で勢いよく回っていく。常用域の魅力が大きいディーゼルでも、BMWの場合、それなりにスポーティなのだ。
ちなみに、別の機会に試乗した540i Luxuryはスタンダードサスペンションに19インチのランフラットタイヤの組み合わせだったが、乗り心地はかなり良かった。BMWはランフラットタイヤの履きこなしに関しては定評があるので、乗り心地の違いはおもにサスペンションなのだろう。
ドイツ車にも引けを取らないジャガーらしいシャシー性能
ジャガーXFはD180プレステージ 4WD。比較的ベーシックに近いグレードだ。エンジンは523dと同じく2.0ディーゼルだが、パワーは10㎰低いもののトルクは30Nm大きい。その違いは走りにはっきりと表れていた。XFは中間加速が力強く、前へ前へとクルマに急かされているような気分になる。より肉食系なフィーリングなのだ。ただし、超低回転域での反応は523dの方が上。XFは2000rpm以下だと少しトルクが薄く感じられ、2500rpmあたりでグワーッと盛大にトルクが盛り上がってくる。ただそれも4000rpm近くで頭打ち感が出てきて回転が重たく感じられるようになる。523dの方が全体的に素直で扱いやすく、XFはドライバビリティで少し落ちるものの、ドライバーを楽しませようという意図は強く感じるといったところだ。だが、これは比較してみればの話で、絶対的には2000rpm以下でもガソリンに比べればトルクが充実していて、日常的な走りでは常に頼もしさがある。
ジャガーといえばスポーティなイメージが強いが、XFで街中を走り始めると意外なほどサスペンションがソフトタッチだった。フリクションが少なくスルスルとサスペンションがストロークしていて、懐が深い感覚がある。高速道路でも快適そのもので、ちょっと肩すかしをくらった感じもするのだが、コーナーへ突入していくと、ジャガーらしさをみせつけるのだった。
ステアリング操作に対するレスポンスが良く、それほどロールを感じさせないでグイグイと曲がっていく。操舵力はちょっと重めだが、セルフセンタリングが強めでコーナー立ち上がりで手の力をスッと緩めるだけで直進状態に戻る。慣れてくると、コーナーの連続でリズムが取りやすくていい。
こんなに乗り心地がいいのに、ハンドリングが素晴らしいのが不思議なぐらいなのだが、ジャガーのボディはアルミニウムの比率が高いのに車両重量はライバルに対してそれほど軽くないところに秘密があるようだ。ボディ自体は軽く仕上がっているが、そこで浮いた分、サスペンションおよび周辺部への質量を増やしてシャシー性能を向上させているのだ。メルセデス・ベンツ、BMWというドイツの強豪を向こうに回しても、シャシー性能では同等以上を誇るのだった。
FFハイブリッドながら楽しめるESの走り
いよいよESに乗り換えてみる。
まず最初に感じたのは圧倒的な静粛性の高さだった。ハイブリッドカーだからパワートレーンが発する音量が低いというメリットももちろんあるが、ロードノイズや風切り音などもよく抑えられている。フロアに遮音材や制振材をたっぷりと使い、「バージョンL」ではノイズリダクションホイールまで採用しているので、凹凸を乗り越えた際の音も低い。
乗り心地も快適だ。ボディの剛性感は秀逸と言われるライバルと肩を並べていて、サスペンションはよりスムーズに動いている感覚があり、滑らかさでは頭ひとつ抜けている。EクラスやXFも乗り心地は素晴らしく良かったが、ESはそれ以上に滑らかな感覚が強いのだ。おそらく、振動が低く抑えられていることも乗り心地をより良く感じさせる一助になっているのだろう。
「バージョンL」ではスウィングバルブショックアブソーバーを採用。ピストンスピードが低い領域から減衰力を発揮するのでわずかな凹凸にも反応し、フラットライド感がありながら、大きな凹凸はスムーズにいなす。目線のブレの少ない乗り味を追求したというが、確かに無用に上下動がなく、安定感と快適性が両立している。
「Fスポーツ」はタイヤが1インチ大きくなるが可変式ショックアブソーバーとなるため、乗り心地はほとんど悪化しない。大きな凹凸を越えた時に、少しだけタイヤの大きさを感じるぐらいだ。
FFがFRに勝っている点として挙げられるのが直進安定性。ただし、ライバルの3台はシャシー性能が極めて高いので、そこでESが優位に立つというほどではなかった。また、ライバル達はステアリングフィールも抜群。ESは少し重めなので、高速道路で外乱によって進路を乱された際などは少し意識的に修正を入れる感覚がある。不思議と「バージョンL」の方が重めで、「Fスポーツ」はフリクション感が少なくてすっきりとしていた。
ハンドリングはFRに対して不利かと思いきや、そんなこともなかった。低重心なプラットフォームの利点が生きていて、ステアリング操作に対して素直な反応を示し、想像以上に軽快に曲がっていく。BMWやジャガーのように切れ味鋭くグイグイとくる感覚ではないものの、比較的に穏やかながら正確性の高さでドライバーの意思に従順なのだ。
ハイブリッドカーは、あまり走りが楽しめないというイメージがあるがESはそこがかなり改善されている。アクセルを踏みこんだ時の反応が良くなり、加速の間延びした感覚、いわゆるラバーバンドフィールも抑えられている。力強さと伸びやかさを手に入れたのだ。新世代のエンジンのレスポンスの良さと電気系の進化の相乗効果がいい方向に表れているのだろう。
長く付き合うほどに伝わる離れがたくなるESの魅力
3台のライバルはさすがに老舗で名門だけあって、それぞれに優秀かつ個性も強かった。それに対してレクサスは生まれてからまだ30年で歴史は浅いのだが、ESはその中で育まれてきた持ち味をしっかりと生かしていた。初代LSで世界を驚かせた静粛性の高さを始めとする快適性ではライバルを凌駕しているのだ。個性の強さに関しては、BMWやジャガーのスポーティさに賭ける情熱は熱いものがあるし、メルセデス・ベンツの快適かつ頼もしい乗用車の王道を行くブレのなさにもおそれいる。それらに比べると、ESは少し薄味に感じるかもしれない。だが、極めて滑らかな乗り味や素直な操縦性には、乗る者をホッとさせる効果があり、肩肘張らずに付き合っていけそうな予感が濃厚だ。付き合いが長くなれば離れ難くなる。そんな噛みしめていくほどに魅力が身に染みていくのがレクサスの個性でもあるのだろう。それは、例えるなら美味しい和食のようだ。薄味に思えて実は絶妙に出汁の効いた滋味深さをESには感じるのである。
LEXUS ES 300h "versionL"
直列4気筒DOHC+モーター/2487cc
最高出力:178㎰/5700rpm[モーター:120㎰]
最大トルク:22.5kgm/3600-5200rpm[モーター:20.6kgm]
JC08モード燃費:23.2km/ℓ
車両本体価格:698万円
Mercedes-Benz E 200 4MATIC AVANTGARDE
直列4気筒DOHCターボ/1991cc
最高出力:184㎰/5500rpm
最大トルク:30.6kgm/1200-4000rpm
JC08モード燃費:13.4km/ℓ
車両本体価格:724万円
BMW 523d M Sport
直列4気筒DOHCディーゼルターボ/1995cc
最高出力:190㎰/4000rpm
最大トルク:40.8kgm/1750-2500rpm
JC08モード燃費:21.5km/ℓ
車両本体価格:817万円
Jaguar XF Prestige AWD
直列4気筒DOHCディーゼルターボ/1999cc
最高出力:180㎰/4000rpm
最大トルク:43.9kgm/1750-2500rpm
JC08モード燃費:15.5km/ℓ
車両本体価格:723万円
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