ロールス・ロイスの新型「ゴースト」が日本に上陸した。実車を間近で見た今尾直樹の感想は?
11年ぶりのフルモデルチェンジ
新型ロールス・ロイス「ゴースト」の発表会が、10月5日と6日の両日、三密を避けるために、ごく少数のプレスと顧客向けに数回に分けて開かれた。筆者は6日朝の回に出席し、新型ゴーストの実物を見て、「ポスト・オピュランス Post Opulence(脱贅沢)」と名づけられたそのデザイン・コンセプトにうっとりした。“脱贅沢”という名の“贅沢”。いいですね~。
ごくフツウに紹介すれば、新型は2009年に「ベビー・ロールス」として登場した初代ゴーストの全面改良版で、デザインはキープ・コンセプト、ただし、中身は一新、先代から継承したパーツは、スピリット・オブ・エクスタシーと、リアのドアに仕込まれた傘だけ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui初代はBMW「7シリーズ」とプラットフォームを共用していたけれど、ロールス・ロイスはそれに我慢がならなかったんでしょう。現行「ファントム」を2017年に発表する前に、今後は自社のプラットフォームをすべてのモデルに使うと宣言し、以後、「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と命名したアルミニウム製スペースフレームを手作業で溶接してつくっている。
Hiromitsu Yasuiボディにスタンダードと、ホイールベースを170mm延ばしたエクステンデッドの2タイプがあるのは従来通り。3295mmというスタンダードのホイールベースは先代とおなじで、これは同社初のスーパー・ラグジュアリーSUVの「カリナン」とも等しい。2018年発表のカリナン開発時に新型ゴーストへの転用も想定していたということだろう。
エンジンは6.75リッターV型12気筒ガソリンツイン・ターボで、最高出力571psを5000rpmで、わずか1600rpmで850Nmもの最大トルクを発生するのはカリナンとおなじだ。ギアボックスはサテライト・エイデッドの8速オートマチック。駆動方式に後輪駆動ではなくて、カリナンと同じ4WDを採用しているのは意外な気もするけれど、ベントレー「フライング・スパー」などのライバルたちもいまや4WDだし、これだけの大パワーと大トルクを安全に路面に伝えるには4WDにしくはない。現行ファントム同様、4輪操舵を備えてもいる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiサスペンションは「魔法の絨毯の乗り心地」を実現すべく、「プレイナー(Planar=平らな)・システム」という3つの要素からなるシステムが採用されている。基本はフロントがダブル・ウィッシュボーン、リアがマルチリンクに、大容量の電子制御エア・サスペンションというファントムにも見られるレイアウトで、フロントに「アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー」なる世界初の新機構を採用している。アッパー・アームの動きを抑える仕掛けをくわえることで、より安定した、エフォートレス(努力いらず)なノリ心地を得ようというものだ。これがプレイナー・システムその1。
その2は、フロントのカメラで路面の凸凹を読み取り、電子制御のサスペンションがそれに対応するというもの。これは従来からあるシステムを3年かけてさらに洗練させている。その3は、GPSから得た情報にしたがって、あらかじめ8速オートマチックのギアをセレクトするというサテライト・エイデッド・トランスミッションである。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui静粛性対策は徹底している。バルクヘッドとフロアがダブル・スキン、二重構造になっていて、そこも含めて全部で100kg以上の制音材が敷き詰められている。当初、完璧な無音室をつくりあげ、これではかえって落ち着かないと判断、ささやくような音が聞こえてくるように改善しているという。
車重は2490kgと、カリナンの2660kgより170kg軽い。0-100km/h加速はカリナンの5.2秒に対して4.8秒。最高速度は250km/hでリミッターが働く。カリナンと較べる必要があるかどうかはさておき、ベントレー・フライング・スパーの333km/h、3.8秒と比ぶるべくもないもので、いや、もちろん十分に速いけれど、とはいえロールス・ロイスはスピードで勝負していない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiシンプルさを追求
冒頭に記したように新型ゴーストのデザイン・コンセプトは、“脱贅沢”なのである。世界で最も有名な高級車ブランド、ロールス・ロイスの、116年の歴史のなかでもっとも成功したモデルの新型が掲げたこのコンセプトは、おそらくほかのラグジュアリー・ブランドにも影響を及ぼすにちがいない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiロールス・ロイスはこの8月、スピリット・オブ・エクスタシーを図案化した紫地の背景に白抜きでRRと描いた新しいブランド・アイデンティティを発表し、“ザ・ベスト・カー・イン・ザ・ワールド”をつくるだけの自動車メーカーから、世界をリードする“ハウス・オブ・ラグジュアリー”への転換を宣言してもいる。
「贅沢の館」ってツッコミを入れたくなるところだけれど、それは英王室にツッコミを入れるようなものかもしれない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui2019年、ロールス・ロイスはカリナンを加えたことで過去最高の5152台を世界中で販売。2018年の4107台に対して25%増という好調さをアピールしてもいる。ロールスは受注生産が基本だから、販売増が生産増で、無駄がない。超高級ブランドの躍進は二極化の証ともいえるけれど、がんばったひとが好きなクルマを買ったと思えば、腹も立ちません。増えたといっても4000台が5000台だ。おめでとうございます。
グッドウッドに居を移した新生ロールス・ロイスが、同社の主力モデルであるゴーストのモデルチェンジを考え始めた6年以上前、というから2014年頃、新型ゴーストの開発チームは、2009年の発表の初代ゴーストを刷新するにあたって、カスタマーたちの意見に耳を傾けた。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiその結果、ゴーストは、エクステンデッド・ホイールベースですら、欧米ではオウナー自身がステアリングを握ることがわかった。アジアではショーファーに任せ、後席でオーディオ・ヴィジュアルなどのハイテクを楽しんでいる。洋の東西を問わず、ビジネスにも週末のレジャーにも使っているのはおなじで、彼ら彼女ら、成功した起業家、ビジネスマンたちは多忙な人生を送っていて、車内は考えごとをする場でもある。
ダイナミックでミニマリズムを極めた新しいスーパー・ラグジュアリー・サルーン。デザインはシンプルで、これ見よがしではなく、素材の本質的な価値を求める。そういうムーブメントがラグジュアリーの世界では起きている。とゴーストの開発陣は考え、これを「ポスト・オピュランス」と名づけたというのだ。
Hiromitsu Yasuiこのコンセプトから生まれた新型ゴーストは、エクステリアもパルテノン・グリルを除けばシンプルに徹しようとしている。ロールスとしては、という但し書はつくにせよ、ボディのサイドに継ぎ目がまったくないことは印象的で、これは職人4人で1枚のパネルを同時に手作業することによって生まれているという。シンプルさは複雑な工程から生まれている。
日本での受注は堅調
インテリアもスッキリしていて、素材本来のよさを追求している。展示してあったテンペスト・グレイという新色にパープルのコーチ・ラインのゴーストなんて、富士山の雪のような純白の内装で、その美しいことといったら……。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui小ワザとしては、従来からボタンひとつでバタンと閉じることができたリアのドアが、自動で開くようにもなったことだろうか。内側のドア・ノブを引くとスーッと無音でドアが開く。外側に障害物があったら、ぶつやけしないか、と心配になるぐらい、「エフォートレス」が徹底している。
リアのレッグルームを170mm広げたエクステンデッドの4人乗り仕様には、リアのシートのあいだにシャンパーニュのボトルとグラスが2個入る冷蔵庫が設けられている。それ自体は珍しいことではないけれど、マスター・ソムリエと相談のうえ、ノン・ヴィンテージは6°C、ヴィンテージ・シャンパーニュは11°Cに保てるようにしているというのだ。ああ、贅沢はなんてステキなのでしょう。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui価格は、ゴーストが3590万円。ゴースト・エクステンデッドが4200万円。このコロナ禍にあって、少なくとも日本での受注は堅調で、いま注文すると納車は来年のお正月頃になるという。ああ、なんてめでたいのでしょう。
ロールス・ロイスは新型ゴーストの“脱贅沢”で、次の10年のラグジュアリーに挑む。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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↑これ何?
きちんと校正掛けてんの?