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最後の母国グランプリを「やりきった」中上貴晶選手【MotoGP第16戦日本GP】

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最後の母国グランプリを「やりきった」中上貴晶選手【MotoGP第16戦日本GP】

日本人唯一の現役MotoGPライダー、最後の母国GPを終える

 2024年シーズンのMotoGP第16戦日本GPは、中上貴晶選手(イデミツ・ホンダLCR)にとって、フル参戦ライダーとしては最後の母国グランプリになりました。中上選手は、今季をもってフル参戦ライダーを引退し、2025年からHRCの開発ライダーとなります。

【画像】MotoGPフル参戦ライダーとして最後の母国GPに臨む中上選手を見る(9枚)

 10月2日(水)には東京・浅草の浅草寺でMotoGPのプレイベント『MotoGP in TOKYO』が行なわれ、もちろん中上選手も参加しました。トークショーが行なわれた後、中上選手はステージから降りて、ぎゅうぎゅうに詰めかけた多くのファンにサインをしたり、写真撮影に応じたりしていました。それは同じくトークショーでステージに立った他のライダーが退場したあとも、ずいぶん長く続きました。

 このときの中上選手の心情としては、まだ「最後の日本GP」に向けた変化はありませんでした。けれど、浅草寺に集まったたくさんのファンは、もちろん中上選手がフル参戦ライダーとして、こうしてトークショーに出席したり、日本GPを走ることが最後だと知っています。中上選手はそんなファンに、行動で感謝の気持ちを伝えていたのです。

 迎えた日本GPは、金曜日午後のプラクティスで12番手。予選Q2へのダイレクト進出となる10番手まで0.049秒という僅差に迫りました。小雨がぱらつく微妙な天候とコンディションの下で行なわれた土曜日の予選Q1では11番手。金曜日から土曜日にかけて、金曜日に苦しんだウイリーの軽減を目的にバイクのセッティングを変更したもののうまくいかず、元の状態に戻すなど、バイクのフィーリングに苦しんだ部分もありました。

 午後、12周のスプリントレースを21番手からスタートした中上選手ですが、5周目、2コーナーでヨハン・ザルコ選手(カストロール・ホンダLCR)と接触して押し出される形となり、転倒リタイアとなりました。

 マシンはレースに復帰できるような状態ではなく、このような場合、通常はコースマーシャルがマシンをピットに戻し、中上選手はスクーターに乗ってピットへ戻ります。

 ただ、今回は「どうしてもバイクをピットに戻したい」という気持ちに駆られたと言います。中上選手はマシンを起こして、残りのコーナーを回りきって自分でピットにマシンを戻しました。

「自分の母国で(ザルコの)あの動きというのは残念でしたね。加えて、チームメイトだし……。明日、怪我なく走れるのは良かったですが、グラベルでレースを終えたのは、ちょっと悲しかったですね」

「いよいよ明日で最後になってしまうのか、とさみしい気持ちが今は強いです。でも、自分の中で出し切ったレースにしたいですね。まあ、チームメイトには要注意ですね(笑)」と、中上選手はレース後の囲み取材で語っていました。

 木曜日に話を聞いたとき、中上選手は「まだ気持ちの変化はありません。いつもと変わりはないです」と言っていました。けれど金曜日と土曜日を終え、ついに日曜日の決勝レースが前日に迫ったとき「最後の日本GP」を意識したのかもしれません。

 日曜日の14時前、サイティングラップを走って、中上選手はグリッドにつきました。スタート進行が始まり、次第にスタートの時間が迫ります。そんな中、「こっちのけんと」さんによる国歌斉唱が始まりました。曇天のもてぎに、国歌が響き渡ります。中上選手は、ピットウオールの側でじっと目を閉じ、国歌に耳を傾けていました。

 MotoGPライダーとして、グリッド上で日本国歌を聞くことは、もうありません。中上選手の胸中に、迫るものがありました。

「最高峰クラスのMotoGPライダーとして、いろいろ思うところもありました。なおさら全力を尽くしたいと思えたので、レース直前の国歌斉唱はすごく良い時間でしたね」

 迫るスタート。中上選手は、この時間にひとつの決断を下しました。タイヤ選択です。当初は中上選手も他22名のライダーと同じように、フロントにハードタイヤ、リアにミディアムタイヤを選択していました。しかし、グリッド上でリアをソフトタイヤに変えたのです。

「リスキーでしたが、今朝のウオームアップはエッジグリップを確認するためにミディアムで走ったんです。ただ、ミディアムは予想ができるし、僕はグリッドが後方なので、守るものもありません。ずっとソフトタイヤが自分の中で気になっていたんです。ロングランもしていないから(レース終盤の)データも無い。未知数ではあったけど、うまくマネジメントすれば問題ないと思ったんです。だったら勝負しようよ、って。チームもそれを受け止めてくれました」

「最後の母国グランプリ」。それが、中上選手の背中を押しました。

「いつもならミディアムで行った方が良いんじゃないかと思ったでしょうね。でも、母国ということが、いつもとは違う気持ちを出してくれた。(結果的に)うまくいったので、タイヤチョイスに関しては、間違いではなかったのかなと思います」

 中上選手は24周のレースを完走し、ポイント圏内の13位でチェッカーを受けました。クールダウンラップで日本国旗を手にゆっくりとコースを回り、ピットへ戻ると、イデミツ・ホンダLCRのチームスタッフが中上選手を拍手で迎えました。そんな彼ら1人ひとりとハグ。観戦席からは「タカ」コールが上がり、中上選手もビクトリースタンドの応援席に駆け寄って、ファンに応えていました。

「すごく嬉しかったですよ。レースウイークが始まる前から、レースが終わったらそうしようと思っていたんです。でもそのためには完走しないといけない。レースは何があるのかわからないけど、きちんとゴールできました。予定していたことが、全てできたと思います」

 日本語の囲み取材で、「クールダウンラップで泣いていたの?」と聞かれた中上選手は「泣いてないです!」としっかり否定。けれど、英語の囲み取材では「クールダウンラップでは泣いてないですけど、ピットに戻ってきて、クルー、スタッフのみんなが見えて、とても感動的でした……ちょっとだけ、泣きましたよ」と言って、照れ隠しのように破顔しました。

 その笑顔は「レースに対して、悔いも全然ありません。すっきりとやりきった気持ちです」と語った言葉以上に、中上選手がそのときに感じていた感情を物語っていたようでした。

 次戦第17戦オーストラリアGPは、10月18日から20日にかけて、オーストラリアのフィリップ・アイランド・サーキットで行なわれます。

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