現在のコンパクトカーのなかでも小さい部類となっている日産マーチは、今年で初代モデルの登場から40周年を迎えるなど、日本で販売される日産車では5本の指に入る伝統を持つモデルである。
現在、マーチは日本や新興国などで販売される現行型と、マイクラの車名で販売される欧州向けは別のモデルとなっており、日本向けの将来は不透明だ。そんななか、マイクラの次期モデルはデザインを日産が、開発はルノーが担当するコンパクトEVとして2024年以降に登場することが今年1月に発表された。
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こうしたタイミングもあり、ここでは歴代マーチを振り返り、その存在意義や日本でのマーチの将来を考えてみた。
文/永田恵一、写真/日産
■初代:1982年登場 「マッチのマーチがあなたの町(マチ)にマッチする」
初代マーチは、当時の日産車のラインナップでサニーやパルサーの下となるエントリーカーとして登場。FFのコンパクトカーは日産がそれまで手がけたことがなかったジャンルだったこともあり、初代マーチは当時まだ名残のあったプリンス系のモデルとして新開発の1L4気筒エンジンを搭載し、基本デザインはあのジウジアーロに依頼するなど、力の入ったモデルだった。
初代マーチ(K10)。日産がリッターカー参入にあたり、プリンス系の技術を投入して開発。生産はスカイラインと同じ村山工場だったが、専用ラインを新設する気合の入りようだった
初代マーチは市販前提車として1981年の東京モーターショーに出展されたあと、一般公募により車名がマーチに決定。登場時に当時18歳で人気だったタレントの近藤真彦氏をイメージキャラクターに起用するなど、プロモーションにも力が入ったモデルでもあった。
マーチは2代目モデル以降もそうだったように10年という長いモデルサイクルだったこともあり、スポーツモデルのターボ、お買い得仕様のiZ、モータースポーツ参戦ベースのRとその一般向けとなるスーパーターボなどなど、追加されたバリエーションも数多かった。
特に「R」と「スーパーターボ」は昭和と平成の境目という時代にターボに低回転域を担当するスーパーチャージャーを加えたふたつの過給機を持つエンジンを搭載。930ccに排気量ダウンされたエンジンで最高出力は110psを誇り、乱暴なクルマだったのも事実ながら面白いといえば面白いクルマでもあった。
初代マーチは1982年から10年間の長期にわたって生産。様々な派生モデルが誕生した。スポーツ系では1985年には85ps(ネット76ps)のターボ、1989年には110psのスーパーターボモデルを投入
また、初代マーチはBe-1、パオ、フィガロと続いたパイクカーシリーズのベース車という重要な役割も担っていたのも見逃せないポイントだ。
日産バブル期の象徴? パイクカーもすべて初代マーチがベースとなった。1987年に「Be-1」、1989年に「パオ」、1991年には「フィガロ」を発売し、30年以上経った今も人気を博す名車だ
■2代目:1992年登場 実用モデル中心だが、カブリオレやBOXなど派生車も登場!!
2代目マーチは1990年登場の初代プリメーラとともにイギリスのサンダーランド工場で生産される国際戦略車だったこともあり、当時の日本車の実用車としては高い全高を持ち、ボディサイズのわりに広いキャビンを持つなど、実に堅実なモデルとして登場した。
2代目(K11)。愛らしいスタイルながら実用的な居住空間を備え、発売から10年間コンスタントに売れ続けた。初代キューブもこのモデルをベースに開発、発売された
2代目マーチの登場時、日本はバブル崩壊により世の中が慎ましやかな雰囲気になりつつあったこともあったが、この時代背景は2代目マーチには追い風となり、この頃から長い低迷が始まる日産において2代目マーチは数少ないコンスタントに売れるモデルでもあった。
2代目も初代モデル同様、長いモデルサイクルを想定していたのか、プラットフォームだけでなく、1Lと1.3Lの4気筒エンジンはともに新設計だった。特に1.3Lエンジン搭載車にはクリープ現象がないという未完成なところがあったのも事実ながら、低燃費かつスムーズなCVTも設定され、CVTは登場翌年に1Lエンジン搭載車にも追加された。
2代目マーチは初代モデルのターボやスーパーターボのようなスポーツモデルこそなかったものの、タンゴ、ルンバ、ボレロといったオーテックジャパンの手によるフロントマスクやインテリアの雰囲気を変えたモデルや、オープンのカブリオレやミニステーションワゴンのBOX、初代キューブといった派生車も多数追加された。
「マーチカブリオレ」。実用モデルのイメージが強いが、こんな遊び心満載なオープンカーも存在した
もうひとつの派生モデル「ボックス」コンパクトなマーチでは望めない積載性を求めたらこうなった? 堅調に売れたベースモデルとは裏腹に販売はまったく振るわなかった
■3代目:2002年登場 カエル顔の愛らしいデザインも実用性抜群、日産の救世主であり続けた
3代目マーチは1990年代後半に経営危機に陥っていた日産が1999年にルノーと資本提携を結び、そのデビュー前年となる2001年登場のV35型スカイラインがトップバッターとなったFR系のFMプラットフォームを使った車種群に続く、新生日産を象徴するモデルとして登場した。
3代目(K12)。1990年代末に経営危機を迎えた日産はルノーとの資本提携を締結。その提携後に発売された。「カエル顔」のファニーな外観や多彩なボディカラーが話題となった
ルノーとの資本提携もあり、ルノールーテシアの2代目モデルと共通のプラットフォームを使っていた3代目マーチは、個性的なエクステリアと使い勝手のいいインテリアが大きな特徴だった。
K12の室内。しっかりデザインされたオシャレな内装で、居心地がいいだけでなく、インテリジェントキーなどの便利装備も設定し好評だった
また、コンパクトカーでありながら、携帯電話との接続により、各種案内サービスなどが受けられるカーウイングスや、キーでの操作なしで施錠と解錠、エンジンのオンオフが可能なインテリジェントキーを設定したことも話題となった。
標準モデル以外のバリエーションも初代と2代目モデルほどではなかったが、代表的なものとしてはチューニングされた1.2Lを搭載するなどしたSR系や、英国サンダーランド工場製のオープンモデルとなるマイクラC+Cが追加された。
また、3代目マーチのモデルサイクル終盤はリーマンショック後の不景気が直撃したが、100万円を切る特別仕様車を中心としながら、モデルサイクルを通じて堅調に売れ続けた。
■4代目:2010年登場でVプラットフォーム採用も新興国向け仕様では魅力半減
現行型4代目マーチはタイ、中国、インド、メキシコといった新興国で生産されるコンパクトカーに移行し、日本向けはタイ国製となった。
4代目(K12)。エントリーモデル用に新開発されたVプラットフォームやエンジンを搭載したものの、簡素な装備や新興国での生産を前提とした品質の甘さが日本では災いし、販売不振に陥った
これまでのマーチにあった実用+αの魅力に欠ける現行K13型の内装。ゴーン体制の日本軽視姿勢が商品性の低下を招き、販売不振となる悪循環に陥ってしまった
現行マーチはアイドリングストップ付きもある1.2L3気筒エンジン+CVTによる燃費のよさこそ目立っていたものの、それ以外は現在まで全体的に安っぽさが目に付いた。絶対的な価格の安いモデルはあるものの、ライバル車なども見ると相対的に価格も安くないなど、魅力に欠けるというのが率直な印象で、販売も低迷が続いている。
それでも魅力の向上につなげようと頑張るのがオーテックとニスモ。それぞれ定番の特装車を開発、販売している。写真はオーテックバージョンである「ボレロ」
しかし、コンプリートカーとなるスポーツモデルに関しては、MT車の設定もあるNISMOは荒っぽいところもある代わりにスポーツモデルらしい楽しさを備えており、その点は救いとなっている。
■長年日産のエントリーモデルだったマーチ。軽の登場で微妙な立場になってしまった
マーチの存在意義は日産のエントリーモデルとして幅広いユーザーが満足できることだと思うが、このことが現行モデルでスポーツモデル以外途切れてしまったのは残念である。
さらに、現行型になってから日産のエントリーモデルの役割は軽自動車とノートにシフトしていることもあり、マーチの存在意義がさらに希薄になっているのもマーチにとっては辛い。
欧州ではマイクラとして販売。その欧州ではK13を諦め同じVプラットフォームベースにK14を開発し、2017年より発売。日本にも導入してほしいカッコよさだが、日産にその気はないようだ
マーチの将来に関しては冒頭に書いたEVとなる欧州向けマイクラが日本向けマーチの後継車になるという。今年登場する軽EVとリーフの間に位置するEVがあってもいい気もするが、そちらの可能性は低いだろう。
しかし、アライアンスを結ぶ日産と三菱においてマーチとミラージュは車格やタイ国で生産される点など共通するところが多いだけに、次期マーチが次期ミラージュの兄弟車となることは充分考えられる。
日産は今年軽EVを発売予定だ。販売価格を抑えるため近距離用に特化するようなので、プレミアムモデルと軽EVの間に現在開発中の次期マイクラEVを投入してほしいものだが、これも難しそうだ
もしそうであれば、新型アウトランダーで2社のアライアンスは「いいクルマをリーズナブルに作る」という目的にもうまく噛み合っているのが確認できているだけに、両社で役割分担や棲み分けを行いながら、今度は各々が魅力的なモデルとなることを期待したい。
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みんなのコメント
残念ながら、いかにも終わってる日産の象徴でしかない。