東京オリンピック・パラリンピック期間中、日中の首都高速料金は1000円上乗せされているが、このやり方を参考に大都市圏の高速道路で混雑状況に応じて料金を変動させる制度の導入が国交省の審議会で本格的に検討されている。
1000円上乗せした首都高では交通量が大きく減り、そのいっぽうで一般道の一部では渋滞が増えるといった事態も見られたようだが、大都市圏の高速道路が変動制とはどのようなもので、実施されるとどのようになるのか?
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道路交通ジャーナリストの清水草一氏が解説する。
文/清水草一
写真/ベストカーWeb編集部、AdobeStock
【画像ギャラリー】やはり値上げ!? 変動料金制の導入を検討する深い意味とは?
■高速道の変動料金制は渋滞緩和の最後の切り札
国土交通省は、混雑時に高速道路料金を値上げする変動料金制度、いわゆる「ロードプライシング」を本格的に導入する検討に入った。
オリンピック期間中、首都高の東京23区内区間では、マイカー等への昼間1000円上乗せ&深夜半額を実施したが、「こうした事例を参考にして、交通需要の偏在等による混雑の緩和を図るため、特定の時間帯や経路の料金の割引や割増を行う料金を本格的に導入すべきである」(中間答申より)としており、これを「戦略的な料金体系」と呼んでいる。
オリンピック期間中に首都高で実施された、昼間1000円値上げ。都心での競技開催で渋滞による選手移動への影響が懸念されたが、期間中首都高の渋滞はなく、競技に支障が出ることもなかった
具体的には、混雑する日や時間帯の料金を値上げする代わりに、空いている日や時間帯を割り引くのが基本だ。
東名や中央道などの都市間高速道路では、お盆や年末年始などの交通集中期、休日割引の適用をやめ、特に混雑する時間帯は割増を実施する方向に舵を切ることになる。
これまで、交通を誘導するための割引は各種行われてきたが、恒久的な割増の導入が検討されるのはこれが初めてで、そこが最大のポイントだ。
この基本方針について、反発する人もいるだろう。「混んでいるのに高いカネを取るのは逆だろう! むしろ値下げしろ!」と言った意見である。
が、航空便やホテルなどの宿泊料金は、混んでいる時は高くなるのが当たり前になっている。混んでいる分、快適性は落ちるにもかかわらず、多くの人はそれを受け入れている。混んでいる時に料金が高くなり、空いている時は安くなるのは市場経済の原則で、それを逆さまにしたら、間違いなく混乱が起きる。
「そうは言っても高速道路は公共事業だろう! 航空便やホテルとは違う!」
そういう声もあるだろうが、混んでいる時に安くしたりタダにしたりすれば、混雑がますます悪化するのは火を見るよりも明らかだ。
私は20年前から、混雑に応じた料金体系を渋滞緩和の最後の切り札と考え、積極的に導入すべきだと考えてきた。国交省もついにその方向性を示したのだ。
■導入が検討されているのは渋滞が慢性化している大都市圏のみ
では具体的に、どのような料金になるのか。
これが導入されるのは、渋滞が発生する大都市圏に限られる。地方の高速道路では渋滞はほぼ存在しないので、戦略的な料金体系を導入する意味はない。大都市圏では、時間帯や曜日を区切り、混雑状況に応じて機動的に料金を変えることを想定している。
具体的な区間や時間帯、金額は今後検討して行くことになるが、たとえば週末の中央道(小仏トンネル付近)や、東京湾アクアラインなど、激しい渋滞が発生する区間で、2022年度以降、試行する案が有力視されている。その後、平日ラッシュ時の首都高や外環道等にも導入が広がるだろう。
現在導入を検討中とされる東京湾アクアライン。本来は京浜・京葉地区のバイパス道路だが、観光地化した「海ほたるPA」で週末渋滞が慢性化。料金割増による効果は?(AdobeStock@dreamnikon)
それがどの程度効果を発揮するかは、実施日および時間帯や、料金の上乗せ額によって決まってくる。
料金で1割程度の上乗せでは、効果はゼロに近い。ではどれくらいが適当かと言うと、一概には言えないが、5割増しならそれなりの効果はあり、2倍なら効果大だろう。
オリンピック期間中の首都高1000円上乗せは、絶大な効果を発揮した。首都高の交通量は、期間中、2割から3割も減少し、渋滞も激減した。
なにしろ1000円上乗せと言えば、平均して約2.5倍もの大幅な値上げだ。加えて、東京都が行った運送業者や大企業への交通量削減要請も大きな効果があり、一般道の渋滞すら例年より微減となった。
つまり、オリンピック期間中の交通需要マネジメントは、「無観客なのにやりすぎだ!」との印象があったにせよ、東京都の完全勝利に終わった(首都高1000円上乗せや高速道路の車線規制や料金所ブース規制を主導したのは、オリンピックを主催した東京都で、首都高やNEXCOではないので念のため)。
■割増による労働条件への影響や一般道の利用状況との兼ね合いも考慮し検討中
しかしこれは、あくまで半世紀に一度の短期の実施だから可能だったのであって、恒久的に行うには、上乗せ幅が大きすぎる。オリンピック期間中は、一般道を含めた交通量全体を減らす要請が行われたからこそ成功したが、普段はそうは行かない。
中央道やアクアラインは、迂回路がないに等しいため、それなりに思い切った割増も可能だが、首都高の料金を上げすぎれば、一般道へのしわ寄せが大きくなる。プロドライバーの労働条件悪化を防ぐ配慮も必要で、具合案作りには、非常に繊細な検討が必要だ。
これまでの料金見直しは高速道路の利用を促す割引だった。しかし渋滞を引き起こす要因であり、今後は一般道も含めた交通量の最適化を図る狙いへと変化し始めた(AdobeStock@moonrise)
今回の中間答申では、「高速道路と一般道路が一体的に複雑なネットワークを構成する大都市圏の料金体系の評価等においては、高速道路の利用のみならず、一般道路の利用を含めた交通の状況について分析する必要がある」として、ビッグデータを活用するとしているが、そのうえで、利用者にわかりやすいものにする必要があるのだから難しい。
ETCは後払いだけに、その場での支払いの痛みがなく、高速道路の入口に来てから「この時間は高かったのか!」と気づいても、そのまま利用する確率が高いからだ。
個人的には、オリンピック期間中の首都高1000円上乗せに関して、「一般道へのしわ寄せが大きすぎる」として反対してきたが、フタを開けてみれば大成功だったことを考えると、今後実施される「戦略的な料金体系」も、しっかりしたシミュレーションに基づくはずで、大いに期待が持てると考えている。
■料金体系の変更で利用する道路の選択肢が拡大し、混雑の平準化メリットも
これまで、高速道路の料金体系変更が行われるたびに、メディアでは無意味な粗探しや揚げ足取りが行われてきた。
たとえば首都高の距離別料金の見直しに関しては、案が出された時は「フザケルナ! 値上げじゃないか!」的な意見ばかりが目立ったが、実施されてみれば、起終点同一料金の実現によって迂回に躊躇する必要がなくなったことで、外環道など外側の高速道路を含めた全体的な混雑の平準化につながり、利用者には確実にメリットがあった。
首都高の距離別料金見直し=値上げのイメージを持ってしまう。しかし、起終点同一料金も導入された結果、迂回路の活用による混雑の平準化というメリットも生まれた(AdobeStock@naka)
すでに一部メディアは、「値上げする時間帯に定期的に通過せざるを得ない利用者からの反発も予想される」といった揚げ足取りが行われているが、どんな改定にも一定の反発があるのは当然だ。
混雑がある限り、全員を満足させる料金改定など存在しない。今回の中間答申は、遅すぎたくらいなのだ。
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みんなのコメント
また今でも日時で料金が変わる道路は直前でトラックが待機して渋滞を引き起こし一般ドライバーが困る事象が発生してるのに更にそれが助長されないか?