競争の激しい自動車産業にあって、新しいモデルに付けられる名前は、クルマ自体のキャリアを形成する重要な要素にもなり得る。すべての自動車メーカーには、任意の市場に投入すべき正しいモデルを選び、相応しい名前を与える部門が存在している。どんなに競争力を備えたクルマであっても、その取捨選択を間違うと、大損害を与える火種にもなりかねない。
モデル名は、クルマそのもののイメージ醸成にも大きく貢献する。仮にマーケティング部が付けた次期フォルクスワーゲン・ゴルフの新しい名称が、英国や日本で下品な言葉に相当するものなら、間違いなく売れないだろう。あるいは、BMWが新しいM4に「シャーロット」という名前を選ぶことは、恐らくありえないはず。アルファ・ロメオのBMW 3シリーズキラーは、G20t4Dという名前よりも、「ジュリア」の方がしっくりくる。
そんな代表的なクルマの名前にまつわる意味を、今回は探ってみたい。中にはそもそも大した意味を持たなかったものもあるのだった。
アルファ・ロメオ「ミト」
アルファ・ロメオがコンパクト・ハッチバックに「ミト(MiTo)」という名前を選んだ理由はふたつある。まず、このクルマの開発がミラノ(Milan)で行われ、組み立てはトリノ(Torino)で行われていること。ふたつ目は、イタリア語で「mito」は神話を指すこと。アルファ・ロメオがBMWミニへの対抗馬となる自社のエントリーモデルへ、高い期待を抱いていたことが伝わってくる。
アウディ「TT」
アウディは、マン島で毎回開催される伝統あるオートバイ・レースの会期に合わせて、コンパクトなスポーツクーペを発表した。もちろんアウディとしてはオートバイを一度も量産したことはないし、マン島のTTレースに出場したこともない。しかし、このレースは間違いなくアウディに関連する遺産を備えたイベントではある。
アウディの前身となる、4リングスを構成する企業のひとつ、DKW社は1930年代にレース用のバイクを製造していた。しかも、1938年にDKW社のバイクはTTレースで優勝を果たしている。またもう1社となるNSU社のオートバイは、1954年のマン島TTレースの250cc部門で優勝するだけでなく、シーズンを通して1位から3位までを独占する好成績を収めた。
これらの成績から、1960年のスクーターにTTというイニシャルが用いられたほか、1965年のNSU社のコンパクトカー、プリンツのスポーティ・バージョンにもTTが付けられている。この2台のTTは、モータースポーツでの好成績を上手に販売へとつなげた前例となる。そして1995年のフランクフルト・モーターショーに登場したコンセプトカーにも、その歴史をリスペクトするかたちでTTという名前が付けられたのだった。
ベントレー「ベンテイガ」
ベントレーは、自社としては初めてとなるラグジュアリーSUVに、大西洋に位置するスペイン領カナリア諸島の峠の名前を与えた。このベンテイガ・ルートからは、テヘダの村を包む壮大な景色を眺めることができる。
標高1412mの岩山の名前がベンテイガなのだが、英国の本社はなぜ険しい岩石の峰から名前を付けたのか、ぼんやりとしか説明していないものの、単語の聞こえはいい。エベレストはフォードによって使用権が保持されており、同じヒマラヤ山脈にあるカンチェンジュンガでは意味がなかったのだろう。
そして2018年に入りベンテイガは、南アフリカで1905年に発見された巨大なダイアモンド、カリナンの名前を冠したロールスロイスのSUVと対峙することになった。
シボレー「カマロ」
シボレー・カマロが登場した1967年当時、シボレーの量産モデルの殆どが「C」の頭文字から始まる名前を持っていた。開発時はプロジェクト・パンサーと呼ばれていたクルマへ与える名前のために、ブランディング・チームは2000語位上のCから始まる単語リストを作ったという。その中にはブランディング・チームが独自に作り出した造語もあり、その中にカマロ(Camaro)が含まれていた。
スペイン語のようにも聞こえるが、どの言語圏でも特に意味を成す言葉ではないようだ。シボレーがカマロの発表時に集まったジャーナリストへ、カマロはマスタングを捕食する小さく凶暴な動物です、と説明した話を、ご存知の読者もいるのではないだろうか。
クライスラー「PTクルーザー」
発売当時、PTクルーザーという名前に納得していないひとも多かったようだが、クライスラーは命名した理由を明らかにはしていない。PTをパーソナル・トランスポート(Personal Transport)の略だと考えているひともいれば、プリマス・トラック(Plymouth Truck)の頭文字だと思っているひともいる。
どちらも不思議ではない。PTクルーザーは紛れもなく個人的な移動手段のひとつだし、クライスラーがプリマスというブランドを放棄するまでは、プリマスのラインナップに加えるつもりだったのだ。さらにPTクルーザーの土台となっているプラットフォームの社内での名称も、PTだったという事実もある。
シトロエン「2CV」
シトロエンはそもそも極めてベーシックで、燃費のいいクルマを求めていた。創造性を高めるようなキャッチーな名称は、そもそも眼中にはなかったのだ。戦後新しく誕生したコンパクトカーは2CVと呼ばれた。理由は、375ccのフラットツインエンジンが発生した馬力が、フランスで2番目の課税対象となる馬力分類(Chevaux Vapeurs)に相当したため。
改良とともに排気量が増えて、602ccのエンジンの場合は課税対象枠が3番目となったモデルも登場したが、3CVとシトロエンが呼んだことはない。
シトロエン「DS」
シトロエンの名車、DSだが、一見すると無作為に選ばれたアルファベット2文字が並んでいるだけにも思える。特に何かの頭文字でもないようなのだが、DSはフランス語では「デーエス(d・・esse)」と発音し、その意味は女神を指す。この路上での優雅なふるまいにピッタリの名前だと思う。
また装備が削られたエントリーグレードは、IDと名付けられている。これはフランス語で「イデー(id・・e)」と発音するのだが、意味はアイデアとなる。DSの後継車種として1974年に登場したCXは、空力係数に関わる言葉(Cx)から命名された。日本ではCD値のほうが一般的だろうか。
DSのCD値は0.36となっており、1970年代ではなかなか優秀な空力性能を誇っていた。何しろ、ずっと後に登場したBMW Z3MクーペのCD値は0.37で、初代マツダMX-5ミアータ(ロードスター)は0.38だったのだ。
ダッジ・チャレンジャー/チャージャー/デュランゴ「SRT」
ダッジ社製のクルマで最強グレードに与えられるのが、SRTという称号。チャージャーやチャレンジャーには、ヘルキャットと呼ばれるはいチューニングのV8エンジンを搭載する。6.4ℓヘミユニットを搭載するデュランゴSRTは、0-400mを12.9秒で駆け抜ける運動神経を持ったファミリー向けのSUV。2014年にはダッジの独立したブランドとしてプロモーションされるようになった。このSRTだが、ストリート&レーシング・テクノロジー(Street and Racing Technology)の略となる。
そのSRTを象徴するエンジンとなるのがヘルキャット。エンブレムには地獄からはいでてきた猫のような獰猛なイラストが描かれている。しかしもとを辿ると、第二次世界大戦中にアメリカ空軍が使用していたグラマンF6F戦闘機の愛称、ヘルキャットから借用したものだという。
フェラーリ「GTC4ルッソ」
フェラーリの4シーター・グランドツアラー、GTC4ルッソの名称だが、3つのパートに分かれている。まずGTCは、フェラーリのクラシックモデルにあやかった名前。1966年のジュネーブ自動車ショーで発表された330 GTCなどにも用いられている。そして数字の4は、大きなボディに備わる座席の数。最後のルッソは、イタリア語でラグジュアリーを意味する単語となる。
ちなみにフェラーリのモデルの末尾に「T」がついた場合、近年では偉大なV型12気筒エンジンではなく、排気量が一回り小さい、ターボ過給されるV型8気筒エンジンが搭載されていることを示している。
トヨタ「RAV4」
近年日本でも復活したトヨタのRAV4。SUVという言葉が一般化する以前に開発された初代は、トヨタ自らがクルマのイメージに合致する言葉を生み出す必要があった。そこで生まれた「RAV4」という名前は、「Recreational Active Vehicle with 4wheel drive」の略。休暇を楽しむためのアクティブな4WDといったところだろう。しかし、現状では、ほとんどの市場で前輪駆動車の方が一般的だったりする。
フォルクスワーゲン「気象にまつわる名前」
フォルクスワーゲンの生み出してきたクルマでも、特に初期の頃は創造性のない名前がつけられていた。例えばビートルの正式名称はタイプ1だ。しかし、空冷式から水冷式の前輪駆動に置き換わることを記念して、より活気ある名前を欲するようになる。そこでフォルクスワーゲンが目を向けたのが、気象学。
例えばフォルクスワーゲンのゴルフは、メキシコ湾流、ガルフ・ストリームのドイツ語、Golfstromを語源とする。また、パサートは貿易風のドイツ語。ジェト気流からジェッタが生まれ、サハラ砂漠から吹く地中海風から名前が付けられたのがシロッコだ。
ちなみに、マセラッティも地中海風にまつわる名前をクルマに用いている。ギブリはシロッコと同じ、アフリカ北部に吹く熱風の呼び方だったりする。
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