2016年4月、トヨタのCセグメント・ハッチバック「オーリス」にハイブリッドモデルが追加された。このためオーリスは、1.5L、1.8Lの自然吸気エンジン、ダウンサイジング・ターボの1.2T(8NR-FTS型)、そして1.8Lハイブリッドが加わり、幅広いラインアップが完成している。
<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■オーリス・ハイブリッドはもともとヨーロッパ向け
2代目オーリスは2012年の発売だから、4年目にしてハイブリッドを投入したことになる。トヨタとしては国内18車種目のハイブリッドモデルということになるが、実はオーリスは初代モデル後期にヨーロッパではハイブリッドモデルを発売していた。現在の2代目ではヨーロッパ、オーストラリア(現地名はカローラ・ハッチバック)では最初からハイブリッドは発売されていたのだ。
しかも、ヨーロッパでのハイブリッド車の中では、オーリスがベストセラーになっているのだ。西ヨーロッパの市場では、なんと販売されるオーリスの55%はハイブリッド・モデルなのだという。
オーリスはカローラの派生車種とされているが、もともとグローバル基準のCセグメント・ハッチバックとして企画されているため、新MCプラットフォームをベースとしている。日本のカローラ系は一つ下のBプラットフォームを使っているが、海外向けは別仕立てだ。
新MCプラットフォームは3代目のプリウスが採用しているが、オーリスはヨーロッパ向けの比重が大きく、より走りを重視していることもあって、リヤ・サスペンションはトーションビーム式ではなく、ダブルウイッシュボーン式を採用しており、3代目プリウスと異なっているのがユニークだ。
今回、日本で追加されたオーリス・ハイブリッドは、最新のプリウス(4代目)から採用されたTNGAプラットフォーム/新ハイブリッド・システムではなく、1世代前の新MCプラットフォーム/3代目プリウスと同じハイブリッドシステムであり、最新ユニットではない。それでもオーリスにハイブリッドを追加したのは、オーリスの販売を活性化させたいという営業上の理由だ。
しかし、オーリス・ハイブリッドの開発担当者は、オーリスは最新のプリウスを先取りしたモデルだという。その理由は、新MCプラットフォームながらリヤはダブルウイッシュボーンとし、ハイブリッド・バッテリーをリヤシート下側に配置したパッケージングを採用しているからだと説明する。3代目プリウスは周知にようにリヤ・サスペンションはトーションビーム、バッテリーはリヤシート後方だった。つまり、オーリスはTNGAと同様に走りを意識したパッケージだという意味だ。
ヨーロッパで販売されるオーリスはイギリス工場、トルコ工場で生産されているが、日本で販売されるオーリスは高岡工場製で、内装も日本専用の仕上げになっている。
■試乗レポート
オーリスは、日本では車名の認知度も低く、なんとなく帰国子女の雰囲気がある。デザインは典型的な「キーンルック」だ。キーンルックとは「鋭い、鋭敏な顔付き」といった意味で、トヨタが2012年頃に主に海外モデル向けにアピールしたデザインを意味するが、オーリスは、ヴィッツと同様にV字を意識した鋭角的なフロント・マスクでユニークだ。
ボディサイズは、全長4330mm、全幅1760mm、全高1480mm、ホイールベース2600mmで、まさにヨーロッパのCセグメント・サイズとなっている。
さて、走り出すと・・・。
3代目プリウスと同じユニットを使用しているにもかかわらず、加速フィーリングはまったく違っていることにびっくりだ。発進加速時のモーター独特の力強さと、アクセルの踏み込みに対してリニアな加速が続くフィーリングは、少なくとも市街地、郊外路ではドライバーの意図通りの反応といえる。
開発担当者によれば、初代オーリス・ハイブリッドはプリウスと同じ制御で発売したが、ヨーロッパでは不評だったので、ハイブリッドの制御を大幅に変更しているとのこと。確かにこの加速フィーリングならハイブリッドということを意識せず、普通のクルマ以上に気持ちよい加速フィーリングになっている。しかしJC08モード燃費は30.4km/Lで、3代目プリウスの標準モデルと同等なのだ。
ブレーキのフィーリングも3代目プリウスより、コントロールしやすいと感じた。車速が落ちて回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わる時の「かっくんブレーキ感」がかなり軽減されているのでコントロールは悪くない。ただブレーキペダル自体の剛性感がちょっと低めなのは従来通り。
ステアリング・フィールも、路面インフォメーションはそれほどでもないが、操舵に対してリニアに反応し自然なコーナリングができる。ハイブリッド・バッテリーをリヤシート下という低い位置に搭載しているため、重心が低いフィーリングでステアリングを切り込んだ初期から切り増ししても遅れなくリニアに応答する。試乗車のタイヤは205/55R16サイズのグッドイヤー・エフィシェントグリップを装着していたが、クルマとのマッチングも良好だった。
走りと同様に、室内のノイズコントロールも予想以上にうまくできている。エンジンの回転が上がるようなシーンでも、ノイジーで不快なエンジンの雑味音がうまく消され、自然な加速サウンドなのだ。またロードノイズもうまく抑えられているので、これなら長距離ドライブでも疲れにくいだろう。
インテリアは、Cセグメントの上級モデルとしては十分な仕上げ、質感だ。しかし、キャビンフォワードのパッケージングで、Aピラーの根元の位置が前方にあり、Aピラー角度も倒れ込んでいるため斜め前方視界は意外によくない。
なおオーリスは、ドライバー支援システムとして赤外線レーザー+単眼カメラの「Toyota Safety Sense C」を設定している。そのためアダプティブ・クルーズコントロールは装備できないのが弱みだ。
日本のCセグメント・ハッチバックは、価格ゾーンが250万円あたりが中心になり、市場をリードするモデルではなくなっているが、その中で個性や独自性のあるスバル・インプレッサ、マツダ・アクセラ、フォルクスワーゲン・ゴルフなどは確実にポジションを保っている。こうした中でトヨタは存在感の薄かったオーリスにハイブリッドを追加して存在感を主張しようという狙いで、このセグメントでハイブリッドが欲しいという層には十分アピールできるクルマだ。
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