マクラーレンのスーパーシリーズ「720S」に、サーキットで試乗する機会を得た。試乗するのは元インディカードライバーの松田秀士氏。試乗を終えた松田氏は満面の笑みで、ゆっくりとその印象を語り始めた。(Motor Magazine2021年8月号より)
テクニカルサーキットでの720ps/770Nmの走りは?
650Sの後継車として、2017年のジュネーブショーでワールドプレミアされた720S。デビューからすでに4年が経過しているが、今回、サーキットでの試乗会の案内が届いた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
実は筆者、ある走行会で2年ほど前に720Sのステアリングを握り、インストラクターを務めたことがある。場所は富士スピードウェイ。助手席に人を乗せてのタンデム走行。メインストレートではあっという間に300km/hを記録し驚いたものだった。高速コーナーの100R、そしてタイトな第3セクター、ストレートエンドの超高速からのブレーキング。どれもが驚くほど安定していた。
そして今回の試乗ステージは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。720ps/770Nmのパワー&トルクは、このテクニカルサーキットでどう感じられるのだろうか。
ドライバーの操作に忠実で、限界を探るのが楽しい
ホオジロザメからインスピレーションされたというそのフォルムは、ライバルといえる他のスーパースポーツとは明らかに異なるもので、どこか柔軟性を感じる。そのことを最も感じ取れるのが720Sの乗り心地の良さだろう。
減衰可変ダンパーと油圧スタビライザーはともに電子制御。低速度域ではしなやかなホイールトラベルを感じ、ヘアピンなど大袈裟に縁石を跨いでも飛び跳ねたり突き上げたりしない。ロールもそれなりに感じるが、速度が上昇するに従い締まった足の張りを感じる。速度とロールの関係がプログレッシブに上昇し、決して指数関数的に急激に変化するものではない。
このためコーナリングのラインがとても読みやすく、ハンドル操作が楽しくなってくる。低速コーナーではハンドル操作どおりに、切れ込むようによく曲がる。この時リアタイヤのグリップは適度にあり、ハンドルを切るスピードを速くしてやれば対角線上のフロントロールが深くなり、リアタイヤは瞬間的にグリップを失う。
しかしそれは一瞬のこと。そのままズルズルとリアが破綻することはない。実にわかりやすく、ドライバーが滑りを止める操作を行えば従順に反応するのだ。操作を行わなければスタビリティコントロールがしっかりと止めてくれる。この時も制御が深入りすることはない。720Sで走るタイトコーナーは、とても楽しいものだ。
一方、中速から高速へと移行してゆくにつれロールは安定し、少しアンダーステアな傾向に移行してゆく。リアのスタビリティが高まるのを感じ、安心して右足に力を入れられるようになる。このあたりはエアロダイナミクスのアドバンテージを感じる。マクラーレンは2011年のMP4-12Cの時代からリアアクティブエアロダイナミクスを採用するなど、独自の技術を持っている。
エンジンは2速でもラフにアクセルを扱えば、リアがホイールスピンするほどパワフルだ。コーナーの立ち上がりに合わせてのペダルコントロールが腕の見せ所だ。うまくコーナーをクリアして全開にすると、瞬く間に8000rpmまで達する。右手のパドルを引けば3速に瞬時にシフトアップされ、そこからまた矢のような加速が始まる。4速に入れてつかの間の全開の後、このコースではすぐにブレーキングを強いられる。もっと加速し続けたいが、この忙しさも720Sだと十分に楽しい。それはこのスーパーカーの魅力がエンジンパフォーマンスだけではないからだ。
このサーキットはブレーキに厳しいコースだが、カラーがチョイスできるフロント6ポッド/リア4ポッドのキャリパーにカーボンセラミックローターの組み合わせはまったく音を上げなかった。
720Sは「インテリジェンス」の中に「バイオレンス」を隠し持った、秀逸なスーパーカーだ。(文:松田秀士/写真:井上雅行)
マクラーレン 720S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4545×1930×1195mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3994cc
●最高出力:530kW(720ps)/7500rpm
●最大トルク:770Nm/5500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・72L
●サスペンション:前・後ダブルウイッシュボーン
●タイヤサイズ:前245/35R19、後305/30R20
●車両価格(税込):3530万円
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