2023年2月、スバルは栃木県にあるスバル研究実験センターで第3回スバルテックツアー 走行安全編を開催。「スバルの乗用車による死亡事故を2030年までにゼロにする」という目標への道筋の一端を公開した。
走行安全、それは「走りを極めれば安全になる」という考え
「クルマの性能」とひとことで言ってもその種類・ジャンルはさまざまで、数値化されるパワートレーンや車両重量、乗員が感覚で感じられる静粛性や乗り心地など、それこそ数え切れないほどある。こうした性能の中でも近年多くの自動車メーカーがその性能向上に注力しているのが、SDGsのターゲットにも盛り込まれている交通事故による死傷者を減らすための安全性能だ。
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先進運転支援システム「アイサイト」で知られるスバルも、同ブランド乗用車による死亡事故を低減させて2030年までにゼロにすることを目標として定めて開発を推進している。
安全性を高めるためのアプローチをスバルは大きく5つに分類している。それぞれ、「0次安全」は事故に遭わないため視界の良い基本設計、「走行安全」は危険を回避するための動的性能、「予防安全」はアイサイトをはじめとする先進運転支援システムによる支援機能、「衝突安全」はもしもの時に乗員や他者を保護する性能、「つながる安全」は自動通報やインフラとの協調、と定義して研究を続けている。
こうした「事故低減に向けた取り組み」の成果を公開する場として、スバルはこれまでテックツアーを2回、「#1 予防安全編」「#2 衝突安全編」を開催、そして今回、第3回目の「#3 走行安全編」が栃木県にあるスバル研究実験センターで開催された。
ここでのプログラムはいくつか用意され、バンクを設けられた高速周回路をWRXで240km/hからのフルブレーキ、砂利敷きの30%上り勾配を電気自動車ソルテラのグリップコントロールで登るなど、さまざまなシーンでの走行安定性を確認。その中でも特に印象的だったのが、新型クロストレックと従来モデルのXVを使用した商品性評価路での試乗だ。
群馬大学医学部との共同研究で生まれた「医学的アプローチ」
走行安全・・・これはつまり「走る・曲がる・止まる」の基本性能を磨いて走りを極めれば、万一の危険を回避できるようになり、安全性も高まるという思想がスバルにはある。もちろん今に始まったことではなく、アクティブセーフティと呼ばれるこうした性能の開発は従来からシンメトリカルAWDやSGP(スバルグローバルプラットフォーム)などの採用によって、あらゆる環境下でのコントロール性能を磨かれてきた。
そしてさらに走行安全性を高めるべく、2022年12月に発売されたコンパクトクロスオーバーSUV クロストレックの開発から導入されたのが「医学的アプローチ」だ。似たような言葉で、目の動きや手による操作を人間の自然な動きの中で行えるようにすることでミスや事故を減らす「人間工学」を知っている人も多いだろう。
これまでも研究されてきたところであるが、人間工学に加えて今回の医学的アプローチは人体の構造・骨格などを群馬大学医学部とともに共同研究することで、「気持ち良く走る」という視点を強化しているのだという。
そもそも人が感じる乗り心地は、振動の大きさや加速度、音の大きさだけで測ることができず、「数値上は同じだけどフィーリングは違う」ということが多くあったのだという。
この医学的アプローチを取り入れることで走行中の不快感や疲れなどの原因を特定、改良されたのがクロストレックということになる。具体的には、クルマがロールした時に発生する頭の揺れをより小さくするため、仙骨(骨盤と背骨をつないでいる骨)を安定させるシート構造を採用したり、シート固定方法を改良して剛性を高めるなどが行われている。
もうひとつの医学的アプローチが「音」にまつわるもの。平衡感覚や加速度を感知する器官は耳(内耳)にあるため、音と乗り心地がリンクしていることは知られている。クロストレックでは、乗り心地に影響する「ルーフ共振現象」を特定して音の減衰を早くする改良を施されているのである。
クロストレックとXV、新旧モデルの比較でわかった快適性の向上
「気持ち良く走る」と「走行安全」は直接関連しているように思えなかったが、スバル研究実験センターの敷地内にあるテストコースで新型クロストレックと、従来モデルにあたるXVを比較試乗してみると、ふたつの関係性と差を体感することができた。
道幅の狭いコースには大きなうねりや段差、高低差やコーナーの連続など、ドライバーを不安にさせるレイアウトとなっており、初見の私はどれほどの速度で走行していいのか判別しにくい。そんな状況で、新旧モデルを比較しながら走るとクロストレックの安心感が圧倒的に高いのだ。
うねりの後でサスペンションの伸縮運動がキレイに収まっている感覚もあるが、それよりもホールド性の高い新開発シートによってドライバーの腰から頭にかけてのブレが少なく、その先のコーナーへのアプローチに早い段階で移行できる気持ちの良さがある。改良点が多いため、なにがどう作用して不安なく走れるのか判別できないが、安心感はストレスや疲れを低減し、より安全な走行もできるようになるというもの。
そしてもうひとつ、ここで乗り心地が良いと感じる要因はもうひとつあるのではないかと思っている。新型クロストレックでは、ハンドル軸とアシストモーターを切り離した2ピニオン式電動パワーステアリングを採用し、リニアでスポーティなハンドルレスポンスを実現しているのだ。
ハンドリングと乗り心地との関連性は小さいように思うかもしれないが、初代レヴォーグがD型に改良されたときも同じような経験をしており、開発者からも同様の見解があったことを思い出した。リニアなハンドリングの獲得は、気持ち良く、快適に走るための走るための大きな要素になっているのではないだろうか。
今回スバルの走行安全について知り、他車や歩行者などがないクローズドコースでの試乗だったが、公道に出たときどう感じるのか気になるところだ。
スバルにテストドライバーはいない?
新型車開発にあたっては性能評価を運転スキルの高いテストドライバーとともに進めることが他の自動車メーカーでは一般的だが、テストドライバーとエンジニアとの間の情報伝達が難しいという側面もあるという。
そんな中、スバルでは旧来から「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という考え方が存在し、開発者(エンジニア)自らがテストコースで商品評価を行う伝統がある。体感したことを商品に落とし込むことでより良い、そして開発者の意思を強く反映した新型車を開発されてきたのだ。
こうした伝統の下で自然と人も育っていたが、時代とともに状況は変化。開発スキルの若い世代への継承や向上を目指した社員育成プログラム「スバルドライビングアカデミー(SDA)」を2015年9月に創設したのだ。テストコースライセンスを走行速度や評価領域によって5段階に分けることでエンジニアのステップアップにもなり、開発工程の短縮にもつながっているという。
スバルがラインナップするモデルたちは過去から現代においても個性的なキャラクターを持っていると言われ、また熱烈なファンを呼ぶ要素にもなっている。エンジニア主体の開発プロセスだからこそ生まれた個性なのかもしれない。
ただ、その個性も近年では多様化し、水平対向エンジンや4WD技術を駆使したスポーツ性はもとより、アイサイトに代表される安全性、前述したクロストレックのような安心できる運転のしやすさ、そして今後の電動化社会においてもソルテラをはじめとする新たな個性を持ったモデルも登場。次なる個性はなにか、期待も膨らむというものだ。
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