「誰が乗っても速くて楽しい」、モリゾウさんが「ゲームチェンジャーになる!」と開発を後押しするGRヤリスDAT(ダイレクトオートマチック=8AT)に乗るチャンスが与えられた。はたして、その走りはいかに?
文/ベストカー編集部本郷、写真/トヨタ
GRヤリスの新兵器!! モリゾウさんが本気で開発を後押しする新開発「DAT(8AT)」が凄かった!!!
■開発ドライバーは代表取締役副会長
一部ラリーファンには常識ではあるものの、世の中的にあまり知られていないことながら、トヨタ自動車の代表取締役副会長である早川茂氏(68)は、自身がステアリングを握って「TOYOTA GAZOO Racing Rally Challeng」に参戦している。参戦車両は「DAT」(完全新開発の8速AT(2ペダル)で、現時点ではまだ市販化されていない)を搭載するGRヤリス。
早川茂副会長はGRヤリスDATでラリーチャレンジに参戦する開発ドライバー。68歳になられるが、どんどん速くなり、笑顔が絶えない。プロドライバーではない早川さんが開発ドライバー、というところが、GRヤリスDATのミソ
「ステアリングとアクセル操作に集中できるんですよ! コーナーごとのブレーキングにも余裕が生まれている気がします」
と語る早川さんは、参戦すること自体が楽しそう。
売上高30兆円企業であるトヨタ自動車の副会長と社長(モリゾウさん)が草の根(入門編)ラリーのシリーズ戦に出場すること自体すごい話だが、それはそれとして、ここまで言われると、こちらもそのGRヤリスの新開発ATが気になって、毎回お会いするたびに、「早川さん、それ一度乗せてくださいよ!」と“ダメモト”のラブコールを送っていた。
以前のトヨタなら“ダメモト”のままで終わっていたかもしれないが、最近のGR、特にGRヤリス部隊は、我々に乗せるのもテストの一環と捉え、以前の丸和オートランド那須、現在の「つくるまサーキット那須」で試乗の機会を得た。
GRヤリスの開発主査である齋藤尚彦氏がいきなり登場し、「思う存分乗って印象をお聞かせください!」と挨拶して試乗スタート。
DAT(ダイレクトオートマチック)の名前のとおり、大トルクをがっちりと受け止めMTと同等のダイナミックな走りが楽しめる
“丸和”の滑りやすいグラベルを、1台しかないGRヤリスで思う存分乗ってくださいと言われると「やった~!」というよりも「だ…大丈夫か?」と思わないわけではない。
そこを見越したようにコ・ドライバーとして昨年の全日本ラリー選手権のチャンピオン勝田範彦選手が横乗りしてくれるという。しかも、今回はラリー車用のサイドブレーキがにょきにょき生えて、いやがうえにも気分が盛り上がる。モードは50対50のトラックモードでスタート。
■シフトアップ、シフトダウンが素早く、ダイレクト感が楽しい
いきなりアクセル全開で加速すると、リアが振られるが、アクセルを少し戻すとS字のコーナーをライントレースしていく。MTに比べると、クラッチミートなど気にせずに、ラフにアクセルが踏めるぶん、気持ちの高まりも加速フィールもダンゼンいい感じ。50km/hを超えるくらいまで加速し、そこから急ブレーキ。
「DAT」は8速ATだが、3速入るか入らないかで、ブレーキではすばやく1速に落ちている。とにかくロックアップが効いて、ダイレクト感が凄い!
ラリー車専用のロールバーと6点式シートベルト、サイドブレーキを装着し、コックピットの雰囲気もいい
そこからパイロンを反時計回りに1回転するのだが、勝田さんは「ハイ、踏んで、踏んで!」とそそのかす。その気になって踏むやいなや勝田さんがサイドブレーキを引いてくれ、「くるりっ」とターンが決まる。
「これは楽しいぜ!」と次の周回は自分でサイドを引くが、立ち上がり姿勢がうまくいかない。「ちきしょう!」と思わず声を出すと勝田さんは「次ですよ!」と笑っている。
今回の粋な試乗会は、「グラベル特訓合宿」でもあったのだ。勝田さんが、クルマをコントロールするグラベルの楽しさを教えてくれる。つまり、MTモデルをグラベルで操作しようとすると、我々のような技量では持て余すが、このDATなら路面やコース取り、加減速やステアリングの舵角といった速く走るために必要な要素は何か? そして今何をすべきか? といった考える余裕を与えてくれる。だから、走るのが楽しく、もっと乗っていたい気持ちになるのだとわかった。
DATはパドルやシフトでもギアチェンジが可能だが、Dレンジ入れっぱなしが楽しいし、我々のレベルではそちらが速い。早川さんの気持ちが120%理解できたところで試乗終了。
熱対策のため、バンパー内のフォグランプを外し、サブラジエターとATFクーラーを新たに装着している
■女性やハンデのある人も楽しめるDATで広がる可能性
DATの開発は2年余り続いていて、「市販にはまだまだ課題が多い」と齋藤主査は語る。
MTならばクラッチで1速にできるが、DATはいろいろなセンサーによって適正なギアを選択するため、1速が欲しい時に2速からギアが落ちていないという現象が残る。トルクコンバーターの特性として仕方ないと思うが、齋藤さんは「なんとか解決できないか、もがいています」と語る。
モリゾウさんは「このATはきっとゲームチェンジャーになる!」と言ったが、そのポテンシャルは計り知れないことがわかった
モリゾウさんの言う「ゲームチェンジャー」になるためにはそこも乗り越えていかねばならないのかもしれない。ただ、DATが市販されれば、女性やハンデを持った人でも、気軽にGRヤリスを運転できるようになる。つまり、「ドライバーファースト」という観点からも、ゲームチェンジャーになるはずで、DATをぜひ市販化してほしい。
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