■2020年はコロナ禍で出荷台数は減少したが 今年は回復傾向
カーナビゲーション(カーナビ)で道案内をするのに重要なのは、なんといっても現在位置を正しく知ることです。
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いまはこの役割をGPS衛星が果たしています、その昔は、紙地図と周囲の風景をチェックしながら現在地を推定して走るのが基本でした。
じつはこの作業は意外に難しく、誰もが簡単におこなえるわけではありませんでした。そのため、これが原因で夫婦げんかとなり、せっかくの旅行が台無しになったという話もよく聞きました。
その救世主として登場したのが、1981年に誕生した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」です。
これは世界的にもカーナビの第一号として認められているもので、ガスレートジャイロセンサーを使う大がかりな仕掛けで現在地を測位しました。その10年後にはユーノス(マツダ)「コスモ」が現在地測位にGPSを使った世界初のカーナビを搭載。同じ年にはパイオニアから市販モデルが登場し、これを契機に時代は大きく変わっていったといっていいでしょう。
その後、大容量通信時代に入ると、その受け皿となるスマホがその役割を果たすようになり、現在に至ります。とくに最新の地図データをダウンロードしながら使えるナビアプリの登場はインパクトが大きく、多くの人が日常的に利用しているのではないでしょうか。
これさえあれば、10万円以上することが当たり前のカーナビなんて要らないんじゃないか。そう思う人が増えても不思議ではありません。しかし、そんな大方の予測に反して、カーナビの販売状況は市販/純正ナビを問わず、いまもなお順調に推移している様子なのです。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の資料がそれを裏付けます。
統計を取り始めた2000年のカーナビ出荷台数は169万9000台でしたが、その10年後には526万3000台を記録。その後も出荷台数は500万台を超え続け、2018年には614万4000台にまで伸張しました。翌2019年には若干の下げが見られたものの、それでも604万1000台を出荷。
ただ、2020年はコロナ禍による新車需要が減退したこと、加えて半導体不足で生産そのものが低迷したこともあり、519万8000台と大きな落ち込みとなってしまいました。それでも2021年5月までのデータでは前年比106%にまで回復。このまま推移すれば、550万台前後に達するのではないかと予測されており、カーナビへの人気は決して衰えていないということがいえるのではないでしょうか。
ここまで、カーナビが根強い人気を保つ理由はいったいどこにあるのでしょうか。
■カーナビの大型化はエンタメを楽しむのに必須
最大の理由と考えられるのは、エンタテイメント系のコンテンツを楽しむのにスマホではもの足りないという点です。
スマホには多くの楽曲を収録できるものの、走行中はロードノイズの影響を受け、スマホ内蔵スピーカーだけではサウンド的にももの足りません。となれば車載スピーカーに頼らざるを得ず、結局はその再生のために最低限車載オーディオは必要になります。加えて映像系コンテンツも欲しいなら、ディスプレイ付きカーナビは欠かせません。
ユーザーは動画コンテンツへのこだわりも大きいのです。ケーブルTVの歴史が浅い日本は、海外に比べてTV番組が充実しており、それを移動中でも見たいユーザーは多くいます。またDVDなどを好むユーザーも少なくありません。
さらに最近では、市販/純正ともカーナビのディスプレイがどんどん大型化し、そのサイズはスマホをはるかに上まわっています。スマホをダッシュボードに取り付けて使うよりも、大型ディスプレイで一体感のある車載カーナビの方がカッコイイとの考え方も生まれてきているのです。
加えて、提供されるスマホのナビアプリでは、実力としてもの足りなさを感じている人も少なくありません。最近は新車にディスプレイオーディオを標準装備するモデルも多く、スマホを接続すればそれだけでナビアプリを使えるようになっています。
画面サイズも大きいことから使い勝手も向上するため、一見するとスマホナビが車載ナビのように使えてベストな組み合わせにも見えます。しかし、スマホナビの基本スペックが向上するわけではありません。車載ナビを使った経験がある人なら、その差をハッキリ実感できるはずです。
じつは、スマホで使うカーナビアプリにはスペック的な限界があるのです。ナビアプリの多くは地図データを含むすべてを通信に頼ります。現在の携帯電話で使われる4G通信網は、通信速度はスペック上は十分ですが、それはあくまでベストエフォートでの話。
通信速度は有線に比べて不安定で、混雑時はデータ通信が極端に遅くなることもあり得ます。これを考慮して、大半のナビアプリはデータをできるだけ軽い状態で使えるプラットフォームで設計されています。
たとえば街区表示は必要最低限にとどめ、交差点拡大図もほとんどはスケールアップで対応しているのがほとんど。音声案内は基本的にTTS(Text to Speach)による合成音。車載カーナビでは常識の、道路の高低差認識にも非対応です。
さらにアプリによっては大型施設の入口情報に非対応で、入口とはまったく違う場所に案内されることだってあります。ナビアプリでは、これらのデータを最小限とすることで送信しやすくしているわけです。
高速通信を謳う5Gになれば、これらの問題は解消する可能性はありますが、残念ながら5Gは、移動体であるクルマで対応するためには、アンテナをいままで以上に高密度で整備する必要があるのです。つまり、クルマで5Gのメリットを活かすには、半端じゃない投資が必要になります。
遅々として5Gの整備が進まない理由も、じつはここにあります。仮に地図データを充実させればそれはコストに跳ね返るわけで、アプリが無料で使えなくなる可能性だって考えられます。
スマホナビが測位を基本的にGPSだけに頼ることも、差を生む要因となっています。
トンネル内ではGPSによる測位を継続できなくなるし、高架下やビルの谷間でも不安定になりがち。その上、地下駐車場や立体駐車場では出口で自車位置を見失っていることがほとんどで、駐車場から出た際にはどちらへ進んでいけばいいのかわかりません。その点、車載ナビは、車速パルスやジャイロセンサーを併用しているからこうしたエラーがほとんど発生しません。これはナビとしての使い勝手で大きな違いです。
こうした状況を踏まえると、ちまたでよくいわれる「スマホナビは初心者向け」という考え方は当てはまりません。むしろスマホナビは、正しい位置が測位できなくても、頭の中でその補正ができる熟練ドライバーでこそ使いこなせるもの。その意味で初心者こそ常に安定した測位をする高精度な車載ナビの方が向いているともいえるでしょう。
そしていま、車載ナビはその役割を運転支援の一部として重要性を高めつつあります。
とくに自動運転をサポートするには、高精度化されたたデータとロケーション能力が欠かせないため、その能力を十分に引き出せるのもやはり車載ナビでしかないのです。いまやカーナビは、単にルート案内をするためのものだけではなくなっているのです。
一方でスマホナビは、今後も身近な存在として発展していくのは間違いありません。つまり、スマホナビと車載ナビは、それぞれの特徴を活かしながら、独自の発展を遂げていくことになります。カーナビはいま、そんな時代を迎えているのです。
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