2008年、2代目アウディRS6アバントが5L V10 FSIツインターボエンジンをひっさげて日本にやってきた。直噴+過給器という組み合わせはエンジンの主流になりつつあったが、とくにこのV10ユニットはその象徴とも言うべき存在だった。Motor Magazineではドイツ車特集の中で、このRS6アバントの試乗とともに、その後登場が予定されていたTTSクーぺ、A4アバント、S3スポーツバックの魅力について考察している。今回はその興味深いレポートを探ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
熟練した職人が丁寧に仕上げるRS6アバント
アウディのラインアップにおいて、「RS」は特別なグレードという意味合いを持つ。ラインアップのヒエラルキーを素直に解釈するならば、A6→S6→RS6というピラミッドが成り立つだろう。しかし、RS6は単にA6ボディラインの頂点というだけでなく、アウディの頂点という存在でもあるのだ。
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ここで紹介する最新型のRS6アバントの前には、現在も販売が続けられているRS4が登場しているが、歴代のRSを振り返ると、各ボディラインの頂点に留まらず、アウディの最新技術を集大成したのがRSというモデルなのであることがわかる。アウディのスローガンである「技術による先進」をもっとも強く感じられるのはRSモデルとなるのだ。
RS6アバントはネッカーズウルムで生産される。ここにはクワトロGmbHの工場があり、RS6アバントは仕上げられている。A6アバントと共通するボディやパーツは、通常のアウディの工場で組み立て、その途中でネッカーズウルムに移動する。大きく膨らんだフェンダー、左右にインタークーラー用のエアインテークが設けられたバンパー、エンジン、サスペンションの一部、ボディ補強などのRS6アバント独自のパーツは、ネッカーズウルムで職人の手によって丁寧に組み付けられるのだ。
2002年に登場した先代RS6のエンジンは、4.2L V8ツインターボから450ps/6400rpm、560Nm/5600rpmという強力なパワーとトルクを絞り出した。だが、新しいRS6は5L V10ツインターボから580ps/6250−6700rpm、650Nm/1500−6250rpmという、さらに強力なパワーとトルクを発揮する。
最大トルクを比べると16%しか向上していないように見えるが、その最大トルクを発揮するエンジン回転数を比べると大きな違いがあることに気付く。旧モデルでは5600rpmまで回さないと最大トルクが得られなかったが、新型はたった1500rpmからこの強烈な650Nmというトルクを使うことができるのだ。それもなんと6250rpmという高回転まで発揮し続けるのだから凄いエンジンだ。
これだけの太いトルクとハイパワーを発揮できるようになったのは、最新のFSIテクノロジーの成果だろう。ツインターボによる過給と直噴技術によって大きな力を引き出せるのだ。
ボクは、これからはターボと直噴の組み合わせがエンジンの主流になっていくと予想している。それはトルクとパワーを出す「パフォーマンス」と、燃費や排出ガスのクリーン化という「エコ」の両立が図れるからだ。アウディのエンジンラインアップではそれがもう始まっているのだ。
この組み合わせであれば、ターボによる過給でより多くの酸素をシリンダーに取り入れることができ、排気量以上のパワーが出せる。さらに直噴によって燃焼室を冷却する効果があるから、燃料の充填効果が高まり、よりハイパワーを出せる。それでいてパワーを必要としない時には通常の排気量分の燃料しか使用しないから環境にも良い。また、細かく制御された燃料噴射によりクリーンな排出ガスと低燃費を実現しているというわけだ。
650Nmを1500rpmから出せるということは、発進した直後から強烈な加速が約束されているということだ。それを証明するようにRS6の0→100km/h加速はたった4.6秒、0→200km/hは14.9秒という俊足だ。6速ATだから、アクセルペダルを床まで踏めば、誰でもこの加速を体験することができる。
富士スピードウェイで体感したRS6の実力
実際にこの加速力を富士スピードウェイの本コースで試した。アクセルペダルを踏み込んでもホイールスピンする気配はない。クワトロだからクルマは安定したまま、強烈な加速力だけが乗員に襲いかかってくる。2速に入っても加速力が衰える気配はなく、感覚的には2速でも1速と同じようにシートバックに背中が押しつけられている気がした。2速では110km/hを越えるところまで加速し、それから3速にシフトアップする。
3速になってもまだグイグイと相当な加速をしていくが、1速2速に比べるとギア比が高くなっている分と、高速になって空気抵抗が増える分、若干おとなしくなっているように感じた。175km/hで4速にシフトアップする。4速の加速力は意外と強い。3速と大きな差はないという感じである。4速で加速する範囲は広く、230km/hまで引っ張ることができる。富士スピードウェイのホームストレッチの後半で5速に入った。第1コーナーの手前のブレーキング開始地点までに250km/hまでスピードメーターの針が上昇する。何ラップしても250km/hをマークできた。
ここからこの重量級のボディをいかに減速させるかが問題だ。フロントブレーキはドリルドベンチレーテッドの390mmで、キャリパーは対向8ピストンという強烈なスペックだ。そして第1コーナー入り口までに予想以上のブレーキングパワーを発揮してくれた。数周のハードブレーキングではフェードの兆候も見られず安定したブレーキングパワーを発揮していた。
ただしブレーキペダルのストロークは少し深いところを使う。通常のブレーキングではもっと浅いところで十分効くのだが、超高速域からのハードブレーキング時には深いところでのペダルコントロールを必要とする。これはフェードやベーパーロックという問題ではなく、最初から同じである。
コーナリングでは重量級のボディだということを感じる部分はあるが、それもステアリングを切るスピードを遅くして丁寧なドライビングをすればあまり感じない程度。RS6アバントは、スパッとステアリングを切っても、同じようにスパッと動いてくれるわけではないようだ。
ボクが試乗するときにはタイヤに熱が溜まってグリップが落ちていた。冷間時の軽荷重での指定空気圧は前後2.6だが、ピットに戻ってチェックしたら3.5まで上昇していた。これをホット状態で2.9まで落とすと、グリップするようになった。
コーナーの出口でアクセルペダルを踏み込んでいくと少しアンダーステアを感じるが、さほど強くはない。ここでも丁寧な操作がスムーズなドライビングを作ることになる。
ステアリングを切った状態でのアクセルオフでタックインする。コーナー入り口でタックインを待っていると曲がりすぎるから、いいタイミングでパワーをかけるとうまく曲がれた。ヘアピンの手前100Rの出口ではアクセルコントロールが必要。ここではアクセルペダルを戻しすぎず、踏み込みすぎないところで、ラインを修正する。ここではステアリングコントロールよりアクセルコントロールの方が有効である。
また、RS6アバントには良い乗り心地を保ちながらロールを抑えるダイナミックライドコントロールに、ダンパーの減衰力コントロールが加わったDRCプラスがオプション設定されている。試乗車に装着されていたので試してみた。コンフォート、ダイナミック、スポーツという3種類のモードが選択できるが、サーキット走行でも、ダイナミックで十分だと思った。
ESPにもスポーツというモードが加わった。通常RS6アバントのESPはエンジン制御とブレーキ制御をするが、スポーツモードではエンジン制御は行われず、オーバーステアやアンダーステアの時だけブレーキが制御される。サーキット走行ではこのモードが走りやすかった。
技術による先進によって生み出されるモデル
さて、「技術による先進」はこのRS6アバントだけでなく、TTのバリエーションに加わったTTSにも盛り込まれている。
エンジンはRS6アバントと同じようにターボとFSIの組み合わせである。2L直列4気筒エンジンから272ps/6000rpmと350Nm/2500−5000rpmのパワーとトルクを発揮する。ベースエンジンのインテーク、エキゾーストの内径を広げている。さらにターボのタービンをIHI製からボルグワーナー社製に変え、タービン径も大きくなった。シリンダーヘッドブロックに使用されるアルミ合金の材質も強度の高いものに変更される。TTのラインアップで最強のパワーを持つモデルだ。
これだけのパワーは2輪駆動では受けとめられないため、TTSはクワトロが標準となる。横置きエンジンだから、メイン駆動は前輪となるが、必要に応じて素早く後輪も駆動する。つまりアクセルペダルを踏み込んで前輪がホイールスピンするときにはもう後輪に駆動力が伝わっている。このクワトロの助けもあって0→100km/hを5.2秒で走り抜ける実力を持つ。
個人的には、TTSはあえてターボラグを感じさせるようにした気がしている。あとから引っ張られるような加速感はターボ独自のものだが、それを楽しむ遊び心を持っていると感じるのだ。ただし、通常走行に必要な低速トルクは十分にあるから、この時はターボラグはまったく感じずに走ることができる。トルクが盛り上がるところだけ、ターボラグがある感じだ。またパドルシフトでシフトダウンした時や、ATのSモードで走行するときにはエンジン回転数が高くなるので、この時もターボラグは気にならなくなる。
また、TTSには専用サスペンションが組み込まれている。車高は10mm下げられ、重心位置が下がっただけでなく見た目の迫力も出ている。これにアウディマグネティックライドが組み込まれている。瞬時に減衰力を切り替えることができるこの機構は、走行状況によりこれを変化させ、乗り心地とハンドリングを高いレベルで両立させている。しなやかで乗員の揺れが少なく、ダンピングも良いので快適だ。さらにコーナリング時のロールは小さくふらつき感もない。アウディマグネティックライドの熟成はかなり進んだようだ。
クラッチを2つ持つ、DCTのSトロニックも進歩している。変速時間がこれまでより短くなり、スムーズでダイレクトな感触になった。
日本に導入されるかどうかは未定だが、TTのディーゼルモデルも魅力的と言える。インゴルシュタット周辺で6速MT車に試乗したが、1750−2500rpmで350Nmという強大なトルクを発揮するエンジンは、スポーティな走りも得意とする。ちなみに0→100km/hは7.5秒である。静かでスポーティなディーゼルエンジンは、導入されればきっと日本でも多くのファンを獲得できると思う。
さらに期待のモデルとして、7月29日に日本でも発表されたA4アバントがある。もちろんA4セダンをベースにしているから、フロントアクスルが前進して前輪が働きやすい環境を創り出しているのも同じだ。A4に搭載されるクワトロは、イニシャル時40対60という前後トルク配分となる。必要に応じて前輪が最大65%、後輪が最大85%にまでトルク配分を変えられるセルフロッキング式のデバイスを持つ。
アバントの場合はラゲッジルームの荷物によって後輪荷重が増えることも考えられるが、このクワトロシステムなら柔軟に対応できるから、スムーズなドライビングが可能だ。
A3とA3のスポーツバックも、最近欧州でフェイスリフトされたから、近々日本に2009年モデルとして導入されるはず。豊富なエンジンラインアップの中でも注目は1.4TFSIだろう。ゴルフTSIトレンドラインに搭載されるものと基本的に同じエンジンながら、3psアップの125psを発揮する。これには7速のSトロニックが組み合わされる。その他160psを発揮する1.8TFSI、200psの2.0TFSIがラインアップ、1.8TFSIには1.4TFSIと同じく、7速Sトロニックが組み合わされる。2.0TFSIはクワトロ専用となり、こちらのトランスミッションは6速Sトロニックとなる。また、日本に導入される可能性は少ないが、1.9TDI、2種類のチューニングを持つ2.0TDIエンジンが本国では用意されている。
さらに、25mm車高が低くなるスポーツサスペンションを備えた本格的なアスリートであるS3にもスポーツバックが設定された。これにより、いよいよ日本にもS3スポーツバックが導入されるかもしれない。搭載されるのは、強化された2.0TFSIエンジンで265psを発揮する。現状では6速MTしか設定がないが、Sトロニックも今後設定を予定している。
A3スポーツバックは、全車でデュアルクラッチのSトロニックを選ぶことができ、トルコンATは姿を消し、アウディマグネティックライドも選べるようになるなど、プレミアムコンパクトのセグメントでもアウディらしい技術をアピールしている。「技術による先進」はこれからも持続しそうだ。(文:こもだきよし/写真:永元秀和)
アウディ RS6 アバント 主要諸元
●全長×全幅×全高:4930×1890×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:2160kg
●エンジン:V10 DOHCツインターボ
●排気量:4991cc
●最高出力:580ps/6250-6700rpm
●最大トルク:650Nm/1500-6250rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:1660万円(2008年)
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