コストパフォーマンスに優れた1台だった
今の時代、走り屋ビギナーが新車でスポーツカーを買おうと思ったら、トヨタ「GR86」/スバル「BRZ」か、マツダ「ロードスター」(ND型)か、スズキ「スイフトスポーツ」あたりが順当だが、いずれも高価(スイフトスポーツの200万円は超お得)。しかし、1990年代は走り屋向けのクルマの種類も豊富で、しかも価格がお手頃だった。そんななか、とくにコスパが優れていたのが、トヨタの4代目「スターレット」=EP82だ。
トヨタ「スターレット」で52歳単身「パイクスピーク」にチャレンジ! なぜ200馬力の非力なマシンで挑戦するのか?
ターボエンジンを搭載したGTの新車価格は124万円
1.3Lのスターレットは、もともとトヨタの最安価車種でエントリーモデルとして、若いユーザーを支えてきた。最後のFRだった2代目スターレット(KP)の頃からボーイズレーサーとして愛され、FF+ターボになったEP71=「かっ跳びスターレット」からその地位は不動に。そして1989年、日産「スカイラインGT-R」(R32型)やユーノス「ロードスター」と同じ年に登場した4代目=EP82はまさに「青春のスターレット」だった。
EP82は、プラットフォームこそEP71からのキャリーオーバーだったが、エンジンはハイメカツインカムIIと呼ぶ4バルブDOHCエンジン、4E-Fを新投入。先代の2Eは3バルブのSOHCだったが、2Eに対しボアを1mmアップして排気量を36cc増やし1331ccに。ヘッドをDOHC化することで、ターボモデルの「GT」は135ps、NAのSiでも100ps、お買い物仕様のソレイユでも82psを誇った。
もちろん走り屋に人気があったのはターボの「GT」で、新車価格はなんと124万円。インタークーラー+ターボなのに、車体価格がエンジン出力の数字を下まわるのだから驚きだった。しかもオプションで、レカロシートやモモのステアリング、ABSまで選べた。
その代わりといっては何だが、エンジン出力とシャシー性能の釣り合いが取れておらず、少し力強くアクセルを踏み込むと簡単にホイールスピンをしてしまった。
この頃のトヨタはカタログスペックを重視してか、比較的脳天気に大パワーを与える傾向があり、初期のSW20(2代目「MR2」)のターボがその筆頭。「マークII」(X80系)の2.5GTツインターボもフル加速するとTCSが働きっぱなしになるぐらいトラクションがかからないクルマに仕上がっていた……。
2LターボのシルビアK’sよりも速かった
EP82のGTは、先代と同じく2モードターボシステムが採用され、LOモードにすれば最高出力は125psだったが、足まわりの完成度は正直低かった。そういう面では、NA100psのSiの方がバランスのいい走りが楽しめた。さらに面白かったのは、ソレイユ。中期型からEFI仕様になって、エンジンは100ps。車重は740kgと超軽量なので、テンロククラスのスポーツカーをカモれるほどのパフォーマンスを持っていた。しかも新車価格が61万9000円だった。
さらにサスペンションとスタビライザー、スポーツタイヤを入れるだけで、NAの「シルビア」よりも速く走れた。またチューニングで化けるという意味では、ターボの「GT」も大したもので、フニャフニャな足を硬めて、LSDを組んだだけでも筑波サーキットで12秒台をマーク。1.6L最強の「グランドシビック」(EF)どころか、2Lターボの「シルビアK’s」よりも速かった。
さらにエンジンは排気系とブーストアップだけで、180psまでパワーアップすることが可能で、EP82からブレーキが四輪ディスクになったのも、走り屋たちには歓迎できたポイントだった。安くて、軽くて、速くて、イジりがいがあった。そんなクルマに育てられ、モータースポーツの世界にどっぷりはまっていった人たちにとって、EP82は今でも忘れられない1台だ。
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