※この記事は2007年9月に発売された「VW GOLF FAN Vol.13」から転載されたものです。
TSIにベストマッチするゴルフ・ファミリーを探せ!!
「VWゴルフTSI再検証」GT TSIはT-FSIを積むGTIにどこまで迫れたか?【VW GOLF FAN Vol.12】
2L直噴ターボがTSIとして加わったことにより、ゴルフの名を冠したモデルでTSIユニットを搭載するのは、ゴルフ、ゴルフ・トゥーラン、ゴルフ・ヴァリアントの3車型7モデルへと拡充した。ここでは、その7モデルを比較。TSIユニットとの“ベスト・カップリング”を探る。
新たに2L直噴ターボもTSIファミリーに
ゴルフ・ヴァリアントの導入とともに、VWでは直噴+過給器システムのガソリン・エンジンを全てTSIと呼称することになった。
すなわち、ゴルフGTTSIで初登場したツインチャージャーのみならず、ゴルフGTI/GTXから採用されている2.0L直噴ターボもTSIの一員となったのである。このゴルフの3グレードに加え、ゴルフ・トゥーランのトレンドライン(140ps)とハイライン(170ps)、ゴルフ・ヴァリアントのTSIコンフォートライン(170ps)と2.0TSIスポーツライン(200ps)の7車種がゴルフTSIファミリーということになる。エンジンは3種類。今回はそれぞれのエンジン、およびボディタイプによって、どれがマッチングに優れているかを考察してみたい。
ゴルフ・ファミリーなら140ps仕様でも十分
それにしても、1.4LツインチャージャーのゴルフGT TSIが、ここまで日本市場で好調なセールスを記録するとは予想がつかなかった。日本では、税制にしてもモータースポーツのクラス区分にしても排気量に重きが置かれており、車格のイメージをも左右している。1.4Lという小排気量は決してヒエラルキー的に高いとはいえず、Cセグメントカーのユーザーからみれば物足りなく映ると思われていたのだ。それは、VGJもたいへんに心配していたことで、いくらツインチャージャーによって十分な動力性能があるとはいっても、一般的にはなかなか受け入れられないのではないかという危惧があった。
GOLF GTI/GTX(TSI-200ps) ところが蓋を開けてみれば、それは杞憂に終わった。GT TSIは、セールスがいまひとつ伸びきらなかった2.0L FSIのGTにかわり、バックオーダーを抱えるほどの人気グレードとなったのだ。また、ゴルフ・トゥーランもTSIモデルの導入とともにグンと売り上げを伸ばした。ガソリン価格の高騰や1.5L以下ということで税制が有利になるという経済的なメリットもさることながら、おそらくVWユーザーは想像以上に環境意識が高いという表れなのだろうと感じている。燃費を良くしつつ、走りも楽しめるという賢い回答を出したVWの考えに共感する人が多いのだ。
また、日本人は基本的にメカ好きでもあるのだろう。贅沢にも、ターボとスーパーチャージャーの両方を使うことに、クルマ好きが子供の頃に夢みてたメカへの探求心が刺激されるのも事実だ。
実際に170psバージョンのTSIユニットは、1.4Lという排気量が信じられないほどに厚みのあるトルク感を披露する。アイドリング+αの低回転から中回転域にかけては、むしろ2.0L NAよりも力強く感じる。スーパーチャージャーが車両を押し出していく感覚は特有のもので、一度これを味わってしまうとNAでは物足りないほどだ。
過去に、2.0FSIの従来型ゴルフGTと、ゴルフGT TSIを様々なシチュエーションで乗り比べたことがあるのだが、燃費を意識した低回転中心の走りではGT TSIの優位性はそれほど大きくなかった。それよりも、スーッと巡航速度まで加速してやり、あとは流して走るというようなパターンのほうが、燃費の伸びしろが大きく、またドライバビリティ的にもあっている。どうやら、GT TSIは日常的な走行になるほど威力を発揮するようなのだ。
GOLF GT TSI(TSI-170ps) ゴルフ・トゥーランでは、その特性がより活きてくる。重いミニバンだからこそ、巡航速度に乗せるまでは力が求められるが、GT TSIと同じエンジンのハイラインでは、トルクの分厚さが武器となってストレスのない加速が可能になっている。対するトレンドラインもスペックから考えれば立派に走るが、比べてしまうとハイラインよりも意識的にアクセルを多めに踏み込むシーンが増えている。1.4Lという小排気量を感じさせるのだ。マッチングという点ではハイラインがベストだろう。
逆に考えれば、軽いハッチバック・モデルだったら、トレンドライン同様の140ps仕様でも不満のない走りをしてくれそうだ。GT TSIは望外にスポーティで、人によってはトゥーマッチなほど。あそこまでの動力性能はいらないから、燃費をさらに稼ぎたいという人には、140ps仕様のゴルフがあれば食指が動くはずだ。
GOLF TOURAN TSI Highline(TSI-170ps) ゴルフGTI/GTXとゴルフ・ヴァリアント2.0TSIスポーツラインが搭載する2.0L直噴ターボは、ツインチャージャーに話題をさらわれて、やや陰が薄くなったような印象さえあるが、改めて乗ってみると相変わらず魅力あるエンジンだ。低回転域では、圧縮比の高さと排気量で一際高いトルクを感じさせるし、ツインチャージャー以上にナチュラルな感触。しかも、回りはじめてからの迫力は圧巻。DSGが自動アップシフトしなければ、レブリミットを何度も叩いてしまいそうなほど鋭く吹け上がっていく。 特にゴルフGTIで乗ると、シリーズの中でも飛び抜けてハイレベルなシャシー性能と相まって、スポーツ性を存分に味わい尽くせる。パワースペック的にはこれを上回るエンジンはいくつもあるが、DSGの効率の良さ、シャシーのポテンシャルなど車両トータルでみれば一線級。フォロワーも多いが、いまだにホットハッチのベンチマークであり続けているのがゴルフGTIなのだ。
直噴ターボは、先進的なガソリン・エンジンのトレンドとなりつつあるが、その先鞭をつけ、しかもデビュー当初から高い完成度を誇っていた、この2.0L直噴ターボ。さすがに燃費では1.4Lツインチャージャーに敵わないが、それでもパフォーマンスに対しては十分に高燃費だ。楽しむときには胸のすく加速を堪能する代わりに、抑えるべきときは抑える、という使い方をすれば、後ろめたい思いをしないで済むだけの燃費ポテンシャルを備えている。
GOLF TOURAN TSI Trendline(TSI-140ps) ゴルフ・ヴァリアントでは、2.0L直噴ターボと170psバージョンの1.4Lツインチャージャーが用意されるが、これが一番選択に悩むところかもしれない。ただ、いくらスポーツラインがハンドリングに優れる足回りとタイヤを備えるとはいっても、ゴルフGTIほど飛び抜けてスポーティというわけではない。それだったら、コンフォートラインでも十分以上という気はしている。車重もそれほど重くないから、170psでも走りには不満はないのだ。
TSIの価値観を象徴するのはやはりゴルフ
あれやこれや考えてみても、7車種、3エンジンのゴルフTSIファミリーは、どれもそれぞれに魅力はあって、買ってはいけないモデルなど皆無なのだが、一応ベストマッチを探すという趣旨に従って結論を出さねばならない。
まず、TSIの出現によって、大いに魅力が増したのはトゥーランだろう。小排気量ながらトルクが太いという恩恵が、重いミニバンにもっとも有効に働くからだ。さらにいえば、170psバージョンのほうが、その思いが強い。ゴルフ・ヴァリアントでも170psがオススメだが、これは2.0L直噴ターボじゃなくてもいいね、という消去法的な選び方による。
GOLF VARIANT TSI Comfortline(TSI-170ps) 問題はハッチバック。ゴルフGT TSIはあらゆる面で考えたときのバランスが素晴らしいのだが、シャシーまで含めるとやはりゴルフGTIも捨てがたい。また、同じTSIでも140psバージョンがあったらどうなのだろう? という思いもある。環境に気を遣うことが求められてきている昨今、ことによるとクルマで楽しむという行為が否定されかねない状況まで考えられ、クルマ好きはだんだんと肩身が狭くなってきているが、そんな中でも後ろ指さされず堂々と楽しめるのがTSI。未来を明るく照らしてくれる救世主なのだ。そういった、燃費と操る楽しみをしっかり両立させたというTSIの新たなる価値観が、もっとも活かされているモデルといえば、やはりハッチバックのゴルフGT TSIになるのだろう。
GOLF VARIANT 2.0TSI Sportline(TSI-200ps) ちなみに、欧州では乗用車のディーゼル比率が50%を超えており、CO2排出量削減の決め手のようにいわれているが、今後は少し状況が変わりそうだ。というのも、次期規制をクリアするディーゼルはコストがかかるゆえ、2.0L以下のクラスでは非現実的な価格になりそうなのである。となると、直噴と過給器を組み合わせたガソリン・エンジンが、小排気量車では主役になる可能性が大。TSIは、すでに未来を見据えたユニットでもあるのだ。
リポート:石井昌道/フォト:宮門秀行
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