メルセデス・ベンツ本社のあるシュツットガルトには、メルセデス・ベンツ 博物館もある。ここには歴代モデルやレーシングカーなどはもちろん、救急車のような「はたらくクルマ」も展示されている。そんな中から、1937年製の320 救急車にスポットライトを当ててみたい。
ドイツでも昔の救急車は、現代のものとけっこう違う
1937年に製造された、W142型メルセデス・ベンツ320の救急車は目立たないグレーの塗装で、現在の標準とは大きく異なる。博物館に同様に展示されているスプリンター(メルセデス・ベンツの商用バン)をベースにした2001年の緊急救急車は、青い点滅灯(ドイツでは赤でなく青)やサイレンを備え、おなじみの明るいカラーリングだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
320 救急車が登場したころは、20世紀半ばから標準となった「回転ビーコン」や「ツートーン ホーン」のような視覚的および聴覚的な警告機能が、まだなかったのだ。その代わり、フロントウインドーの上にシンプルな赤十字のサインを点灯させていた。
1937年に発表された320 救急車は、78馬力の3.2L 6気筒エンジンを搭載し、後部にサイドヒンジ付きの観音開きドアを備えていた。左側に2人の患者用のストレッチャーが上下に並んでいる。下部ストレッチャーは、レールで案内されたローラーに取り付けられたボギー上にあるため、迅速かつ穏やかに患者を積み降ろしできる。
右側のベンチシートは、おそらく付き添い用で、折りたたみシートも備える。しかも、最新の救急車サービスが全国的に導入されるまでは、救急隊員が運転手としても機能し、後部の患者に目を光らせていた。これを「バックミラーレスキュー」と呼んでいた。
さまざまな種類の駆動システムを備えた車両を使用
320 救急車が発表された今から86年前、事故やその他の医療上の緊急事態が発生した場合、重要なのは事故現場での応急処置ではなく、病院や診療所への迅速かつ確実な輸送だった。しかし、少なくとも救急車は、途中で緊急治療の選択肢を提供してくれた。320 救急車の中には、おそらく酸素吸入用のボンベと思われる円筒形の物体のホルダーが備わる。運転席に面した仕切りのコンパートメントには、キドニーディッシュ(膿盆)がある。
今やおなじみの構造と車両を備えた今日の緊急サービスは、1970年代以降にドイツで体系的に構築された。だがそれ以前の19世紀以降、さまざまな先行組織が存在していた。これらには、公的、自発的、および民間の救急車サービスプロバイダー、および独自の救急車サービスを提供する企業が含まれる。1890年代以降、こうしたプロバイダーや企業はさまざまな種類の駆動システムを備えた車両を救急車として使用してきた。
ちなみに1937年製の救急車のボディは、特許取得済みのシステムに従って、ボーフムにあるメルセデス・ベンツをカスタマイズする「Lueg社」によって製造された。高さと長さを最大限に活用し、患者の搬送に特化して設計されている。フロント部分はオリジナルのメルセデス・ベンツ 320と共通だが、運転席の後ろに患者と介助者用のコンパートメントがある。
コンパートメントには、助手席後ろのサイドドアからもアクセスできる。その後、ロングホイールベースのEクラスのシャシを用いた「ハイ & ロング タイプ」の救急車も製造されるようになった。
現代では、緊急救助のニーズに対応するために、多種多様なメルセデス・ベンツのベース車両がある。エステート(ワゴン)モデル、SUV、およびバンは救急車として使用されるが、特殊なボディを備えたバンおよびバン用シャシも、救急車として使用されるという。スリーポインテッドスターを冠したトラックやバスは、大型の救急車や集中治療車などのベースにもなっている。
そして、こうしたクルマたちの重要な使命は今もなお変わらない。緊急支援を迅速かつ確実に提供することなのだ。
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