モータージャーナリスト塩見智が10年ぶりにレースに挑戦するストーリー。なぜもういちど挑戦しようと思ったのか? かつて同レースに参加した際の、ほろ苦い思い出とともに語るのであった。REPORT◎塩見智(SHIOMI Satoshi)PHOTO◎B-SPORT
縁あって今週土曜、9月1日の「第29回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」に、映像メディア『Start Your Engines』と『MotorFan.jp』の混成チームから出場することになった。
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同レースに出るのは(多分)10年ぶり。私には苦い経験があった。自動車雑誌『NAVI』編集部にいた私は、2000年代後半、NAVIチームで同レースへ参戦していた。結果的に最後となったレース。日が暮れてヘッドランプが必要になるかならないかといった時間帯、私は快調に飛ばしていた。体感的にはNC型ロードスターと一体化していた。乗れている! そう感じていた。
しかし、ほどなくその底の浅い自信が木っ端微塵に砕かれる時がきた。第2ヘアピン。前を行く車両がコーナーへ進入するその内側へ、自らの車両の鼻先を差し込んだ。1台分開いていたから。抜ける! 次の瞬間、蹴飛ばすようにブレーキペダルを踏んだが、まったく速度が落ちなかった。完全にブレーキングが遅すぎたのだ。何度もクリアできていたヘアピンコーナーだが、(幻想なのだが)順位を上げられそうな場面がおとずれ、完全に舞い上がったのだろう。
前の車両がどんどん近づくが速度は落ちきらない。ドーン! 前の車両の運転席側のドア付近に自らの車両の左前部が衝突した。衝突の衝撃で前の車両は左へずれて停止したが、すぐにまた発進した。脇を何台もの車両が通り過ぎる。相手チームにはあとで謝るとして、私も再発進しなければ! エンジンをかける。かかった。ギアを入れてアクセルを踏んだ。何かが引っかかったような感じがあって進まない。ステアリングを切ると明らかにフィーリングがおかしい。
マーシャルの人が他の車両に向けて黄旗を振りながら注意深く近づいてきて「けがはないですか?」と聞いてきた。いや、けがなんて全然してなくて、早く再発進しなきゃ……といったことを主張したような気がするが、嫌な思い出なのでもうだいぶ記憶が薄れた。結果的にはダメージは左前輪にまでおよんでいて、タイロッドがおかしくなっていた。作りかけのプラモデルみたいに左右の前輪がハの字みたいになってそれぞれ反対方向に切れていた。マーシャルの人がすごく優しかったことは鮮明に覚えている。
ちなみに当時どこもそうしていたと思うが、ガラケーを車載し、確か自動的に着信する設定にして、必要な時にはイヤホンで指示を受けていた。しかし衝突を知らないチームからは連絡がない。戻ってこないなとは感じていたはずだ。そのうちフルコースコーションになったはずだから何かやらかしたと考えていたかもしれない。私は2ヘアのガードレールの外側からピットのチームに電話をかけた。「すみません、ぶつかって走行不能になりました」。チームからしてみれば走行中のドライバーから電話がかかってきて驚いただろう。簡単に経緯を説明して切った。何を言われたか覚えていない。
(つづく)
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