新型GRカローラの発表会場には、豊田章男社長が初めて購入した4代目カローラが展示された。このカローラに詳しいモータージャーナリストの日下部保雄が、“ナナイチ”を振り返りつつ、新しいGRカローラへの期待を綴った。
“ナナイチ”との思い出
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新型GRカローラの発表会場には、四角い4ドアセダンが展示されていた。“TE71”だ! 「カローラ1600GT」と呼ぶより“ナナイチ”のほうが、馴染みある。
TE71は当時の全日本ラリー選手権のメジャープレイヤーで、とくに1980年から1981年にかけてはパワーのあるいすゞ「ジェミニZZ」との激しい鍔迫り合いが印象に残る。軽量で、コストがかからず、同モデルのチューニングを得意とするガレージが多数あったため、TE71はプライベーターにも人気だった。
タイヤ開発の兼ね合いもあって、自分のラリー車も必然的にTE71だった。さらに、日常の足にももう1台持っており、時としてスペアパーツ取りのクルマとなったこともある。
思い出すのはあるラリーでの夜明けの最終ステージ。富士山麓の岩だらけの悪路で順位を上げようと、とにかくアクセルを踏み続けた。道から外れようとも踏んでいたからたまらない。とうとうリアアクスルを岩にぶつけてもげてしまった。ブレーキオイルは抜け、駆動力も伝わらない。幸い下りだったので山からは降りられたが、これ以上走るのは無理。逆転どころかリタイヤである。
レスキューに来たタスカエンジニアリングのメカニックに事情を説明し「壊れた」と、申告したが、一言「壊したんだべ~」と、一蹴された。
その通りだからグゥの音も出ず、サービスポイントに引き上げた。
そういえばナナイチは、よく水温が上がった。大学の化学研究室にいた友人にモノは試しと「水の代わりに冷却に優れた液体はないか?」と、尋ねてみた。友は素人にも分かるように懇切丁寧に「そんなものはナイ」ということを解説してくれた。
それでは、と冷却ファンに手をいれたところ、確かに水温こそ冷えたもののエンジンパワーはガタ落ち。登りでは「遅い!」と思わず口にしたほど登って行かず、エンジン・レスポンスも悪くなり、すぐに元に戻した。それはつまり「ドライバーが頑張りなさい」ということだったように思う。
こだわりのGRカローラ
GRカローラの発表会場では、モリゾウさんからのビデオメッセージで「最初の愛車はカローラGTで、このクルマが運転する楽しさを教えてくれた」と、スピーチされていた。確かに955kgのボデイに115psの最高出力を誇る自然吸気エンジン、リア固定軸の後輪駆動は素直なハンドリングでドライビングをマスターするにはうってつけだったと思う。
モリゾウさんの運転の原点にナナイチ、カローラ1600GTがあってGRカローラが誕生した。トヨタの礎を築いたカローラへの愛着と、カローラをスポーツモデルとして復権させたいという強い想いがGRカローラには詰まっている。
エクステリアにしても迫力あるブリスターフェンダーと3本出しのマフラーなどによって、これまでのカローラの歴史の中でひと際異彩を放ったスポーツカーに仕上がっている。
さらにモリゾウエディションはGRカローラRZのドレスアップバージョンではない。ブーストアップで最大トルクを上げ、それに見合うギア比と強化ギアが組み込まれている。トルクアップに伴いギヤの強度も増しており、タイヤもサイズアップされたミシュランのパイロットスポーツカップが採用された。
しかもベースのRZが5座なのに対して、それを取っ払った完全に2シーターとすることによって軽量化と共に有効で便利なラッゲージスペースを生み出したのだからすごい。
モータースポーツだけ考えればおなじエンジンを搭載したコンパクトな「GRヤリス」に分があるが、ホイールベースが長く相対的の前後重量配分が改善されたGRカローラの安定感には惹かれるものはある。とくにサーキットでの長くて速いコーナーでの安定性は武器になるに違いない。
個人的にGRヤリスは、コンパクトなディメンションゆえに、時としてピーキーな挙動を見せることもあるが、それをカバーしてタイムに結び付けることにこそ価値があるマシンであると想う。いっぽうのGRカローラはグランドツーリングカーの要素が強く、スポーツカーのピュアなパフォーマンスと日常性の両立を目指したモデルのように見える。
モリゾウさんのこだわりに触れられるのは今年の秋以降になりそう。GRヤリスが発表以来ブラッシュアップを続けているようにGRカローラも日々進化していくようだ。いろいろと楽しみな1台である。
文・日下部保雄 写真・小塚大樹
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みんなのコメント
GT赤バッジが誇らしいですね。
軽くて面白かった。