ドライバー2020年3月号からスタートした新連載「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。日本全国をSUVで駆けまわり、かわいい動物や最高の絶景を撮影してしまおう!という企画です。第24回は北海道で撮影にチャレンジした「モモンガ」。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材ウラ話をいろいろと紹介します。
さすがは北海道…冬タイヤの規則が緻密すぎる! 地方によってさまざまな冬タイヤ規則事情
野性動物の知恵は本当にスゴい
帯広空港に向かう飛行機から見下ろす景色は、オイラが頭の中で持っている北海道のイメージとピッタリくる。
それは、シンプルに広い景色。
ラリーで何度も訪れた場所でもあるので、北海道で一番なじみ深いのだ。空港のまわりの広い畑の中に整然と並ぶ防風林のある景色が生み出す独特の雰囲気がたまらない。
運がいいと、市内までの雪原でキタキツネやエゾシカなどを見ることができる。こんな真っ白な雪原でも何か食べ物を見つけることができる野生動物の知恵は本当にスゴいといつも思うのだ。
今回のお目当てのエゾモモンガも冬眠しない動物だ。冬を越すための野生の知恵を持っている。冬になるとひとつの巣穴に数匹が集まり、体温を落とさないように“おしくらまんじゅう”状態で暮らしているのだ。
唯一のシャッターチャンスを狙え!
帯広の大きな公園のモモンガが生息しているとおぼしき枯れ木の前にスタンバイ。
木の根元にはポロポロと小さなフンが散らばっているので、中に入っていることは間違いなさそうだが、通りかかる地元の人に聞いてもあまりいい情報はない。それでも日没時間ぐらいになるとカメラや双眼鏡を持った人たちが十数人集まってきて、期待は確信に変わる。
この巣穴のある木の脇には街灯があり、日没後でもそれが照明となってモモンガを写すには絶好の条件なのだ。
モモンガと同じような生態のムササビ。その一番の違いは大きさだ。体を広げて滑空するときはハンカチ(モモンガ)と座布団(ムササビ)ぐらいの差があり、モモンガはだいぶ小さい。
また、出巣時間もムササビがほぼ日没して30分後くらいなのに対し、モモンガは15分ぐらいで出てくる。彼らの体内時計の正確さには驚かされるが、これを逆手にとってモモンガとムササビを同時に観察している人がいて驚いた。
ムササビは北海道にはいないが、モモンガは本州にもいて、生息エリアがかぶっていることも多い。あるムササビ観察の達人はおおよそ15分差の出巣タイミングを利用して、モモンガが飛翔するのを見届けてから移動し、ムササビの登場を待つというのだ。野生動物の本能の正確さをデータで追及して利用する人類の知恵もなかなかのものだ(笑)。
話を元に戻すと、モモンガたちは巣からスルッと出てくると、しばらくジーッとしている。
まるで外の世界に体を慣らすかのように一点を見つめ微動だしない。もしかすると、まわりに危険がないかとか森の気配を探っているのかもしれない。
このときがシャッターチャンスだ。木の幹を移動するときの動きはとてつもなく速く、規則性もないので、スローシャッターで流し撮りをするのは無理である。
巣があるこの枯れ木の脇には街灯があり、その明かりでAF(オートフォーカス)が機能し、正確なピント合わせができるのはとても助かるし、大きくつぶらな瞳にキラリとキャッチライトにもなってくれる。
そして、十分にモデルをしてくれたあと、スルスルと木の上のほうに登り、夜空を滑空するのだ。
毎年3月ごろ、モモンガたちには昼間から活動する特別な日があるようだ。いわゆる「恋の季節」だ。明るいうちから飛んだり跳ねたり、追いかけっこをするらしい。いつかそんなタイミングに出会ってみたいと思う。
暗いなか、ダメもとで滑空写真を狙ってみた。都合よく自分の正面を並行方向に飛ぶことはほとんどないだろうから、スローシャッターで流し撮りは無理だ。また、小さなモモンガが7~8mの距離で飛ぶとものすごいスピードなので、カメラを振るにしてもかなり高いシャッタースピードが求められる。
そこで、ISO感度を目いっぱい上げて、絞りは開放。シャッタースピードは少しアンダー気味の露出ながら1/500に設定した。
荒れた写真だがブレているよりマシだし、日没直後の群青の空でモモンガが映えた。
ラリーストでも雪道はおっかなビックリ
冬の北海道がシーズン初の雪道走行であることが多い。だから必要以上に慎重に走り出す。スタッドレスタイヤのグリップレベルを確かめるようにコーナーではていねいにステアリングを切り込んでいくし、北海道の見通しのいい直線だっておっかなビックリ、ゆっくりと走る。
すると、ガンガンあおられる。そして、そのうちほとんどのクルマに抜かれる。右側を走り抜けていくクルマとのスピードの違いに、乾いた舗装路の街から来たオイラは驚くのだ。
慣れの問題もあるが、あのスピードでは何かあれば即事故につながるだろうな~と漠然と思う。たぶんこの感覚を持ったまま運転していれば、雪のない場所から来ても事故を起こさないのだろう。
だんだんと雪道に慣れたような気がして、地元の人のスピードにまぎれて走るようになると危険だ。なぜなら、そんな簡単に低μ路のアイスバーンに慣れるわけがないからだ。
地元の人はどこが凍って滑るか、皮膚感覚に似た感触で覚えているのだろう。毎日、氷雪路を走っていれば自然と身に付く。それを数日走っただけで理解したつもりで同じスピードで走れば、間違いなく落とし穴にはまる。
安全を担保するには、路面を把握しながらゆっくり走るしかないのだ。これが40年間ラリーを走って、数えきれないぐらい痛い目にあったオイラの真理だ(笑)。
大自然が生み出す氷の宝石
帯広から南東に下って行くと、十勝川の河口近くの豊頃町(とよころちょう)の大津海岸に着く。
ここはジュエリーアイスと呼ばれる氷が海岸に打ち寄せられる場所だ。十勝川の氷が一度海に流れ出て、今度は海岸に打ち上げられるのだ。方角的に海から太陽が上がってくるので、天気がよければ強い光が逆光で氷に差し込み、キラキラと輝く姿はジュエリーのように見える。
■ジュエリーアイス 豊頃町観光協会公式ホームページ
オイラが行ったときはやや雲が厚く、大きくきれいな氷もまだなくて残念だったが、自然現象の神秘さには触れることができた。
軽なのに長距離移動も快適!
今年は北海道の降雪量が例年以上に多いようで、除雪が追い付かない道が多いと聞く。もともと片側3車線の道が1車線での通行。対面通行の道がまるで1車線の一方通行の道であるかのような写真も目にした。
こんな場面こそ軽自動車の車幅がジャストフィットである。山の中や狭い場所で取りまわしのよさが光るのだ。タフトはまるで野に分け入るために生まれたような直線的でヘビーデューティなデザインで、見ているだけでワクワクしてくるクルマだ。
機能の充実ぶりにも驚かされた。
スマートアシストという言葉に集約される全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)などの各種予防安全装備、シートヒーターをはじめとした快適装備など、欲しいものが満載なのである。
走りで一番印象的なのは、スタート時の出足のよさだ。排気量の小さい軽自動車とは思えないトルクフルな走り出しで、ストレスがないどころか速さを感じる。
高速道路でACCを使用すると、さすがに減速したあとの加速ではもどかしさを感じるが、長距離移動での疲労軽減という面でACCの恩恵は大きい。
ステアリングはやや重めの設定だが、山道やワインディングで軽快なフットワークを見せてくれた。
リヤシートを畳むとフラットで使いやすいラゲッジスペースができ、撮影機材を並べるのに便利でうれしい。
ジンギスカン料理ならここ
帯広に行くたびにラリー仲間と訪れたジンギスカンの店がある。ここを知る前は羊肉がウマいと思ったことはなかったのだが、それが一変!
とにかく、安くてジューシーでウマいジンギスカンに驚いた。締めにホルモンを焼きながらうどんをぶち込むともう最高なのだ。
ただ、全身がジンギスカン臭でコーティングされるので、着替え一式が必須である(笑)。
ラリー北海道の時期になると、誰かが必ずSNSでここでの食事をアップする。それを見てどうしても食べたくなって通販で肉を取り寄せたことがある。しかし、残念ながらあの感動はなかった。やはり仲間とワイワイ鉄鍋を囲むのがいいんだな~。
有楽町
北海道帯広市西二十三条南1-39
TEL:0155-37-2805
営業時間:11:00~20:30(ラストオーダー20:00)
定休日:火曜日、月曜日(月2回・祝日を除く)
「今回の機材」
カメラボディ:SONY α9
レンズ:FE 24-105mm F4 G OSS
撮影モード:マニュアル
シャッタースピード:1/500秒
絞り:F4.0
ISO:25600
「オススメのSUV……ダイハツ タフト」
■Gターボ 主要諸元
(CVT/FF)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1630mm
ホイールベース:2460mm
最低地上高:190mm
車両重量:840kg
エンジン:直3DOHCターボ
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6400rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3600rpm
燃料/タンク容量:レギュラー/30L
WLTCモード燃費:20.2km/L
価格:160万6000円
〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
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