◆ブランド名が世界で統一されました
まさか日本でヒョンデ ネッソに乗れるとは思わなかった。多くの人は、「ヒョンデ?」、「ネッソ?」といった感じだろうが、「Hyundai NEXO」と書けば、韓国の自動車メーカー「現代(ヒュンダイ)自動車」のクルマであると気付いてもらえるだろう。現在ブランド名は、本国韓国での読みに近い「ヒョンデ」に世界で統一されている。
ヒョンデはかつて、2001年に日本市場へ進出し、02年に発売したBセグメントハッチバック「TB」が人気を博したが、その後は販売が低迷。10年に乗用車の販売を終了し、現在は観光バスの販売を続けている。ちなみに神奈川県横浜市のみなとみらい地区にある開発拠点はそのままだ。
そのヒョンデが19年の東京モーターショーに出展する予定であることが明らかになり、「日本再上陸か!?」と思われたが、夏には不参加が決定。動向が解らなくなっていた。
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◆電動化をアピールするために
ところが20年6月、突然ツイッターにヒョンデの日本語アカウントが開設。ブランドアンバサダーである韓国の男性ヒップホップアイドルグループ「BTS」を起用して、積極的に情報発信を始めたのである。
このような経緯を見るかぎり、ヒョンデは日本市場への再進出を検討しているのは間違いなさそうだ。だが単純にフルラインアップを持って来たのでは、最終的に撤退に終わった前回の二の舞になりかねない。そこでヒョンデは、ブランド名を刷新するとともに、「電動化」を前面に押し出したブランドとして再上陸を目指していると言われている。
具体的な再上陸計画はまったくの未定だというが、日本国内でのマーケティング活動はすでにスタートしている。9月16~22日には東京都渋谷区の代官山T-SITEで「NEXO Terrarium(ネッソ・テラリウム)」と銘打たれた、ヒョンデ ネッソの展示イベントが開催。早速取材を申し込むと、特別にヒョンデの最新FCV(水素燃料電池車)であるNEXO(ネッソ)に試乗させてもらえる事になった。
◆なんとも気合の入った日本向け仕様の試乗車
ネッソは、18年1月にCES(※)で発表されたミッドサイズSUVのFCVで、01年に登場したサンタフェFCEVと、12年デビューのix35 FCE/ツーソンFCEVに続く、3世代目のFCVである。FCVとしてはトヨタ ミライやメルセデス ベンツGLC F-cellとともに、数少ない一般消費者が購入できるモデルで、18年3月に韓国で発売。同年夏にはヨーロッパでも発売され、19年春には米国カリフォルニア州にも導入。現在はオーストラリアでも販売されている。
(※=コンシューマー・エレクトロニクス・ショー 毎年北米で開催される電子機器の見本市)
今回試乗した車両は、なんと右ハンドルである。しかもウインカーレバーも右側だ。当日現場で説明してくれた現代自動車ジャパンのキム・キョンファンさんによれば、「オーストラリア仕様に近いですが、日本向けの特別仕様です」とのこと。カーナビの地図はまだ入っていないが、インフォテイメントシステムは日本語に完璧に対応していた。
ポップアップ式のドアハンドルを引いて運転席に乗り込むと、ドライバー正面からダッシュボード中央にかけて、メルセデス・ベンツ顔負けの横長のディスプレイが目に飛び込んできた。メーターパネルは7インチTFTカラー液晶ディスプレイで、中央は12.3インチの高解像度タッチディスプレイとなっている。
大型のセンターコンソールには、エアコンやオーディオ、カーナビ操作パネル、電動パーキングブレーキ、そしてボタン式シフトセレクターを含む様々な物理スイッチが備わる。タッチディスプレイに機能を集約する最近のトレンドとは異なるデザインだが、メタリック塗装やブルーのバックライトなどが上品な雰囲気を醸し出している。直線基調にデザインされたインパネ全体も、ウッドやレザーを多用しているわけではないが、とても上質感のある仕上がりだ。
◆ドイツ製プレミアムカーと比べても
スタートボタン、Dボタンの順に押して発進すると、大柄な車体が軽々と滑り出す。ネッソは、70Mpa、52.2Lのカーボン製水素タンクを、リヤシート下に2本、ラゲッジフロア下に1本の計3本(計156.6L)搭載し、その上に蓄電容量1.56kWh、出力40kWのリチウムイオンポリマーバッテリーを搭載。フロントに432個のFCスタックを直列に繋いだ出力95kWの燃料電池システムと、最高出力120kW(163ps)と最大トルク395Nmの永久磁石型同期モーターを積む。駆動方式は前輪駆動だ。
車両重量は1870kgもあるが、発進時から最大トルクを発揮する電気モーターのおかげで、街なかではまったく重さを感じない。それどころかアクセルペダルを軽く踏み込むだけで、とてもパワフルで豪快な加速を披露する。もちろんエンジンノイズは無いので、キャビンは極めて静か。ロードノイズもしっかり抑えられている。ちなみにCd値は0.32だ。
ブレーキフィールもまったく違和感がなく、とてもコントローラブルだ。パドル操作で回生ブレーキの効き具合を3段階で調整できるのだが、もっとも効きを強くしても運転しづらくなるようなこともない。ドライビングモードは、ノーマルとECO、ECO+の3段階あり、ノーマルはレスポンス重視だが、ECOではモーターの出力が制限され、ECO+ではエアコンまで止めて航続距離を伸ばす制御となる。
乗り心地もとてもフラットかつ上質で、ドイツ製プレミアムカーにもまったく負けていない滑らかさ。ハンドリングは、代官山周辺に限定された今回の試乗コースでは結論づけることはできないが、かなりよさそうな印象。まったく渋さのない滑らかなステアリングフィールは、完全に高級車のレベルで、245/45R19サイズのハンコック製「ventus S1 evo2 SUV」という大径SUV用タイヤも履きこなしている。とにかく運転が気持ちいいのだ。
◆満タンでそんなに走れるの?
水素が満充填状態での航続距離は、ヒョンデの自社測定値では820kmとなっているが、実際には600km強といったところらしい。満タンで1000kmのロングレンジを誇る、今どきの高性能ディーゼル車やPHEVには負けるが、満充填1回で東京から大阪まで走れるのだから、実用上の問題はまったくないだろう。
先進的な運転支援システムの充実ぶりも目を見張る。衝突軽減ブレーキやレーンキーピングアシスト、ブラインドスポット衝突回避制御、ストップ&ゴー機能付きのACC、車線中央を維持するレーンフォローイングアシストなどを搭載する。ウインカーレバーを操作すると、ドアミラー下部に備わるカメラが、車体側方の死角をメーターパネルに映し出すブラインドスポットビューモニターまで装備している。
さらには、車外からスマートキーのボタン操作で、縦列駐車&出庫と並列駐車、前進・後退が出来るリモートスマートパーキングシステムも搭載。その制御もとても洗練されている。もはや世界トップレベルの先進性を備えてると言えるだろう。
◆FCV購入はネッソを待ってからでも遅くない
ちなみにネッソのドイツ市場での車両価格は、16%の付加価値税込みで7万7008.4ユーロ(約950万円)と安くはない。もし日本に導入されたとしても、同じくらいの価格設定になるだろう。だが、燃料電池車には国や自治体の購入補助金が交付されるので、日本でも650万円程度で購入できると思われる。2020年8月現在で、全国に133カ所の水素ステーションが利用しやすい環境にある人にとっては、魅力的な選択肢になるかもしれない。
バッテリーEVも同じだが、経済性とインフラ、そしてクルマの商品力が揃わなければ普及は進まない。ヒョンデ ネッソは、少なくともクルマの商品力は相当に高い。まずはヒョンデが日本再上陸を正式発表するのを期待したい。
<文=竹花寿実 写真=ドライバーWeb編集部>
■ヒョンデ ネッソ(FF・ー) 主要諸元【寸法・重量】全長:4670mm 全幅:1860mm 全高:1640mm ホイールベース:2790mm トレッド:前1614/後1625mm 最低地上高:162mm 車両重量:1870kg 乗車定員:5人 【パワートレーン・性能】モーター型式:FM12 モーター種類:永久磁石型同期モーター 最高出力:120kW(163ps) 最大トルク:395Nm(40.3kgm) バッテリー種類:リチウムイオンポリマー 使用燃料・タンク容量:圧縮水素・156.6ℓ 一充填走行可能距離(自社測定値):820km 最小回転半径:5.68m 【諸装置】サスペンション:前ストラット/後マルチリンク ブレーキ:前Vディスク/後ディスク タイヤ:前後245/45R19 【価格】未定
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