新型「カムリ」、10代目が担うセダンのいま
トヨタのミドル・セダンの「カムリ」が10代目へと進化を果たし、これに試乗する機会を得ました。日本ではクルマ好きの方以外にはウケが悪いセダンも、北米では立派な主力車種。そして「カムリ」は、そのセダンウォーズの渦中にあって、長年トップグループを走り続けている実力者であり続けています。
そんな「カムリ」を見て、まず誰もが思うのは、明らかにそのルックスがアカ抜けたことでしょう。ボンネットに走るエッジの効いたキャラクターラインは明らかに流行の先端を行っているし、水平基調の大型グリルはボリューミーなフロントマスクを間延びさせない強烈なアクセントとなっており、全体的なシルエットも伸びやか。
そしてこれらは若者ウケを狙ったデザインかと思いきや、ボク(山田弘樹:モータージャーナリスト)の周りでは50代以上の先輩たちにも概ね好評。「これ『カムリ』だろ? いい感じだよな!」とすでにその存在をチェック済みだったり、「カムリ」とは知らずともそのセダンとしての存在感に興味を示したりする人がほとんどでした。
そして新型「カムリ」は、その大胆奇抜なデザインに負けないほど、走りもいいです。
北米育ちのゆったりとした乗り心地をベースとしながらも、飛ばしてよし、曲がってよしの高いバランスを持ったセダンとなっているのです。
その走りを支えるのは、現在のトヨタ車における技術的な骨子である「TNGA(TOYOTA New Global Architecture)」です。TNGAはクルマの骨格(プラットフォーム)として語られることが多いですが、もともとはクルマを構成する全ての要素を効果的に配置して、その運動性能を高めるというコンセプト。
そしてこの新型「カムリ」は、ついにトヨタとして初めてパワートレインまで含めた、「オールニューTNGAモデル」として作り上げられたのです。
そのキーワードは「低重心」。モジュール構造で設えたTNGAプラットフォームはエンジン、モーター、トランスミッションといったパワートレイン系のみならず、ドライバーズシートの位置をも低く設定しています。これにあわせてシフトやペダル類などの操作系も、緻密にキャリブレーションが取られています。
それらの効果は運転席に座るとすぐにわかります。
新型「カムリ」はセダンなので、いわゆるSUVモデルのようにアイポイントを高めているわけではないのですが、見晴らしが凄く良いのがわかります。これは広いフロントウィンドーがもたらす良好な視界と、たっぷりとしたストロークを持つサスペンションによる車高が、緻密にバランスしているからでしょう。
またSUVやミニバンなどに対し、新型「カムリ」ではドライバーが低い位置に座らされているから、カーブでは頭が振られることが少なく、必要以上に足回りを固めなくてもロールを感じにくく、総じて市街地から高速道路まで、ストレスなく運転できます。
パワートレインも優秀です。
日本仕様の新型「カムリ」は、先代同様ガソリンモデルが存在せず、ハイブリッドモデル一本の割り切った構成となっています。しかしこのパワーユニットが、日本の道路事情においては、「カムリ」の車格に相応しい質感を与えてくれます。
ハイブリッドというと真っ先に思いつくイメージは「低燃費性能」ではないでしょうか。新型「カムリ」の燃費は最大で33.4km/L(グレードは「X」)、今回試乗した「Gレザーパッケージ」でも28.4km/LをJC08モード燃費で記録しています。
しかしこれと同じくらい評価したいのは、2.5リッターという排気量を持つ、直列4気筒エンジン(178ps/221Nm)の出来栄えなのです。これが通常領域では103.4mmのロングストローク性能をもって粛々と低中速トルクを紡ぎ出し、高回転では可変吸気機構「VVT-iE」と、14という高い圧縮比を持ってストレスなく吹け上がります。
そしてここに、システム自体を小型化し、高出力化を達成した最新のハイブリッドシステム「THSII」(TOYOTA Hybrid SystemII 120ps/202Nm)が、極めて賢く絡み合い、全域で高い協調性を見せてくれるのです。
最近は純EVモードでの走行距離が長いEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)の注目度が非常に高く、モーターのみで走るその独特な静寂感に話題が注がれがちになってます。対して小排気量エンジンのガサツさが目立つハイブリッドは、新鮮味に欠ける傾向が強いのですが、新型「カムリ」はエンジンそのものの排気量が大きく、かつ直噴式の自然吸気式としていることで、ハイブリッドの良さが際立ちます。
また「プリウス」以来の伝統でもあるパワーフローを可視化したアニメーションや、燃費グラフを見ながら運転できるのもトヨタのハイブリッドの良い点です。数字だけ追いかければダウンサイジング・ターボやディーゼルターボの燃費性能も確かに見逃せませんが、運転中でも常に自車のエネルギーフローを確認できるトヨタのハイブリッドシステムは、ドライバーが自発的にエネルギーセーブをし、かつ自己責任としてガソリンを使うことができるから、運転の楽しさが奥深いのものとなるのです。
乗り心地とコーナリング、高いレベルにあるがゆえに…?
もし新型「カムリ」に言い及ぶことがあるとすれば、それは運動性能にさらなる連続性を持たせて欲しい、ということだけでしょうか。
前述の通り、乗り心地は極めてトヨタ的。かつ北米ユーザーに好まれそうな、ふんわりとした優しいライド感を持っています。そしてこれがカーブになると、車体がピシッと安定して、ちょっと驚くくらい高いGを維持したまま旋回してくれます。
その味わいは、欧州列強の威圧的なほど高いスタビリティを軸とした走りとはまた違い、確かさと軽やかさが高い次元でバランスした走り、あえて言うなら現在のBMWに近い乗り味だと思います。
ただその「ゆったりライド」と「スポーティライド」の切り替わる瞬間が、シームレスにつながらない感じが少しだけあります。具体的にはステアリングを切り込んで、フロント2輪のタイヤにかかった荷重が外側2輪へと移行するとき、ゲインが急に立ち上がって「ヨイショ」と一呼吸置く動きが目立つ。それぞれの性能は極めて高いのですが、それゆえに目立つのです。
新型「カムリ」には、可変ダンパーが装着されていないため、乗り心地性能とコーナリング性能を両立しようとしたときにこの動きが出るように思います。また次世代の自律運転をにらんで強化される電動パワーステアリングのモーター制御も、まだまだコンフォートとスポーツの間をほどよく制御しきれていないようです。その証拠にACC(アクティブ クルーズ コントロール)をアクティブにした領域では、非常に節度感のあるステアリングフィールとなります。
また個人的には高級車としての動的質感を表現する上で、こういうときにこそ後輪からトルクを押し出すFR(フロントエンジン・リアドライブ)と、前輪で車体を引っ張るFF(フロントエンジン・フロントドライブ)の差が出るのだと感じました。クラスこそひとつ上ではありますが、そういう意味でトヨタの「クラウン」はやはり偉大であるし、次期型がTNGAで作られることにさらなる期待感を持ちました。
ともあれ新型「カムリ」は、非常に高い次元でバランスが取れたセダンです。自動車が普及した今、ミニバンがオカーサンの要求を満たし、SUVが若者を中心にカジュアルな人気を集めるようになりましたが、世のオトーサンの手が届くセダンとして、フォーマルを気取れる気高さをしっかりと維持し、走りの性能に磨きをかけてきました。
新型「カムリ」をして「セダン復権!」などというありがちな言葉で締めくくる気はないですが、いまだにこのジャンルが日本でも生き残ってくれていることは、とても嬉しく思います。ニッポンのオトーサンたち、ぜひ一度、新型「カムリ」に試乗してみてください。
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