時代が進むに連れてクルマの装備も変化する。そして現在は使われなくなったものも多い。だが、なくなってしまった装備の復活を願う人は意外に存在する。そこで今回は、できれば復活してほしい懐かしの装備を紹介していこう。アナタがいらいないと思っていても、実は支持する人も多いのだ。
文/長谷川 敦 写真/トヨタ、Newspress UK、ポルシェ、ホンダ、マツダ、MOMO、写真AC
乞う復活!! 今あったら絶対欲しくなる!! バカ受け確実な装備たち
なくなった理由は安全性? 「でも、あってもいいんじゃないか?」の装備3選
●見やすさならドアミラーより上!? 「フェンダーミラー」
1983年にドアミラーが解禁されるまで、国産車のサイドミラーはすべてフェンダーに装着されていた。これはこれで味のあるスタイルではあったのだが……
現在の国産車ではトヨタのJPN TAXIのみに装備されるフェンダーミラー。かつての国産車はこのフェンダーミラーが義務化されていたが、海外ではドアミラーがポピュラーで、これが輸入車への障壁になっていた。
そこで1970年代には輸入車においてドアミラーが解禁となり、国産車も1983年に装着が可能になった。これで見た目もスマートなドアミラーが一気に広まり、国内でもフェンダーミラー車はほぼなくなってしまった。
しかし、フェンダーミラーは目線の移動が少ないため後方の確認がしやすく、ボディ幅内にミラーが収まるので狭い道を走る際に有利になるなどの利点もある。実際JPN TAXIが現在でもフェンダーミラーを採用しているのはこれらが理由だ。
フェンダーミラーには、人通りの多い道路で歩行者と接触してしまう可能性がドアミラーより高いなどの難点もあって、おそらく“復権”は望めない。それでもフェンダーミラーを懐かしむ声があるのも事実だ。
●丸いクルマが増えた今こそ復活を! 「コーナーポール」
現行モデルでもオプションでコーナーポールが用意されるケースは多い。それだけ需要があるパーツと言える
右ハンドル車を運転している際に、どうしてもクルマの左前方は見にくくなる。特にクルマのフォルムが丸かった場合、左の“角”が把握できずにうっかり壁にこすってしまうなどといったケースも……。
そうしたトラブルを未然に防ぐ目的でフロントバンパーに装着されたポールがコーナーポール(フェンダーポール)だ。これがあれば車の前端までの距離が把握しやすくなり、事故防止にも役立つ。
だが、最近は「カッコ悪い」「運転下手に見られてしまう」などの理由もあってコーナーポールの装着例は減っている。しかし、ロングノーズボディや前端がすぼまっているフォルムのクルマにコーナーポールが有効なのもまた事実。
コーナーポールには商店街などの狭い道を走る際に歩行者と接触しやすくなるなどの弊害もあるが、もっと見直されていい装備のひとつだ。
●勝手にロックがかかるのは嫌? 「車速検知自動ドアロック」
クルマの速度が一定以上になると自動的にすべてのドアがロックされるのが車速検知ドアロック。以前は多くのクルマに搭載されていて、特に自分でロック操作ができない小さな子どもがいるドライバーには重宝された。
しかし、そのクルマが事故を起こした際にドアロックがかかっていると外部からの救出が遅れてしまうという問題もあり、この機能を好まない人もいた。
こうした理由と、コストの削減を目的に最近は車速検知自動ロックを装備しないクルマも増えていて、現在ではあまりメジャーな機能とは言えない。機能のオン・オフをドライバーが選べるのなら問題ないのだが……。
スタイルの良さなら抜群だけど、いろいろあって消えた機能2選
●スーパーカーの象徴も今はムカシ 「リトラクタブルヘッドライト」
国産車ではトヨタのAE86スプリンタートレノに装備されていたリトラクタブルヘッドライト。ライトが開くと若干ファニーな顔つきになるのは避けられない?
照明が必要な状況になるとフロントフェンダーがパカッと開いてヘッドライトが出現する。これがリトラクタブル式ヘッドライトだ。
かつては空気抵抗を減らしたいスポーツカーの多くで採用され、1980年代には一般車での装着例も多かった。だが、現在この機能を装備するクルマはほとんどない。
リトラクタブルヘッドライトの利点はなんと言ってもカッコよさにあるが、かつて国によってはヘッドライトの最低取り付け位置規定があったが、これをクリアするためにヘッドライトを高くしても空力面での犠牲が少なく、スマートな造形が可能になるのもメリットだった。
反面、開閉機構が重量増を招くことや、万が一機構が故障すると夜間の照明が得られないなどの問題も存在していた。また、アメリカではヘッドライトの高さに関する法律が変わって従来よりも低い位置にライトを装着できるようになり、リトラクタブルの必要性もなくなった。
この流れを受けて各メーカーも自社のクルマからリトラクタブルヘッドライトを廃止し、そのまま現在に至っている。メカ好きにはたまらない機能ではあるので、復活を希望する声も多い。
●ノスタルジーよりコストと性能? 「木製ハンドル」
近年はすっかり見かけなくなった木製ホイールのハンドル。好みが分れるところではあるが、雰囲気のある木製ハンドルを好むドライバーは根強く存在する
一般的なクルマのハンドル(ステアリングホイール)は金属製のスポークと樹脂製ホイールで作られていることが多いが、それ以前のホイールは木製が普通だった。だが、やがて安価な金属や樹脂製ハンドルが普及すると、木製ハンドルは廃れてしまった。
木製ハンドルは天然木の伐採にもつながってしまうためエコではないという意見もあるが、見た目の趣はあって、特に旧車ユーザーのなかには「木製じゃなきゃダメ」という人もいるほど。
このように現在でも木製ハンドルの需要はあり、実際に有名ハンドルメーカーでは現行品として木製ハンドルをラインナップしている。だが、エアバックや、エアコン&オーディオ操作などのスイッチを装着しづらい木製ハンドルはきわめて少数派になっている。残念ながら、木製ハンドルの復権はないか?
あれば便利、でも需要が少なくなってしまった装備3選
●ETC普及が消滅を招く 「コインホルダー」
かつてのクルマには当たり前のように装備されていたのに、時代の変化によって淘汰されてしまった装備の代表格がコインホルダーだろう。
ハンドルの脇あたりに装備されていたコインホルダーに小銭を入れておくと、有料道路での支払いの際に便利で、クルマを停めて自動販売機で飲み物を買う際にも活躍した。
そんなコインホルダーを駆逐してしまったのがETCの出現だ。現金のやりとりが不要なETCならスムーズに料金所を通過することができ、通行料金もお得。加えて世の中のキャッシュレス化が進行していることもあって、コインホルダーは不要な装備になった。
キャッシュレス化は今後ますます進むことが予想され、車外から現金が見えるというセキュリティ面での難点もあるコインホルダーは、やはり復活できない可能性が高い。
●エアコンがあれば不要な機能か? 「三角窓」
Aピラーの直後に設けられていた三角窓。換気用としての能力は高かったが、エアコン装備車が増えている現在では、あまり需要のない装備になってしまった
ムカシのクルマは、前側サイドウインドウの前に三角形の小さな窓があったのを覚えていないだろうか? 日本国内ではその見た目どおりに三角窓と呼ばれていたこの装備は、ウインドウ前方から空気を取り入れて車内を冷やすためのもの。
日本では三角窓と呼んでいたが、英語圏では「ベンチレーション(通風)ウインドウ」と言うことからも、その機能が理解できるだろう。
かつては高級品の代名詞だった車内エアコンだが、現在はほとんど標準の装備になった。それに伴って自然風で車内を冷やす必要がなくなり、三角窓の存在意義も薄れていった。
開閉式の三角窓を装備すれば、それだけ製造コストも余分にかかり、デザイン上の制約も増す。さらには壊しやすい三角窓を利用した自動車盗難などの犯罪もあった。これらの理由が三角窓の絶滅を引き起こしてしまったのだ。
エアコンを好まない人や、レトロなデザインを望む人からは三角窓復活の希望もある。果たして、この三角窓を復活させるメーカーはあるのか?
●オートキャンパーが望む復活 「オートフリートップ」
マツダが2006年まで販売していたミニバンのボンゴ フレンディ。最大の売りがオートフリートップで、写真のようにルーフが持ち上がって室内空間を拡大した
目的の場所に到着するとおもむろにルーフが開き、普通のミニバンがキャンピングカーに変貌する。これがオートフリートップの能力だ。
ポップアップトップとも呼ばれるこの機能があれば、本来狭いはずの車内に余裕のある空間が生まれて、車内での食事や宿泊がラクになる。そのため以前は多くのクルマにオートフリートップが装備されていた。
このオートフリートップを装備するためには車体上部に開閉機構を搭載する必要があり、ノーマルのクルマよりもルーフの剛性を上げなくてはならない。これが何をもたらすか? そう、クルマの製造コスト、ひいては車両価格の高騰だ。
キャンプ趣味のないユーザーには不要なオートフリートップの需要はそこまで多くなく、やがてメーカー側でもこの機能を廃止するケースも増えていった。オートフリートップも一部に復活を望む強い声があるが、それが叶うのかは不明だ。
日本が誇る技術の復活を! 「ロータリーエンジン」
おむすび型のローターが回転して動力を生み出すロータリーエンジン。実用化までは数多くの障壁があったが、マツダは見事それを乗り越えて市販車に採用した
最後に紹介するのは、世界の自動車メーカーのなかで日本のマツダだけが完全実用化に成功したロータリーエンジンだ。
ピストンの上下運動を回転運動に変えて動力にするレシプロエンジンと比較して、おむすび型のローターがエンジン内を回転するロータリーエンジンが優れている点も多い。そのためマツダが困難と言われた技術上の課題を克服して実用化を成し遂げたのだが、ロータリーゆえの難点もあり、レシプロエンジンに対する優位性を完全には確立できなかった。
実際に燃費面などの不利があって、マツダ自身も現在ロータリーエンジン搭載車をラインナップしておらず、当面の間、動力用エンジンとしての復活はないかもしれない。
しかし、マツダは2023年3月までに登場予定の電気自動車(EV)・MX-30 EVモデルの発電用としてロータリーエンジンを採用すると公表した。動力用ではないものの、マツダ車にロータリーエンジンが搭載されるのは11年ぶりとなり、これが動力用ロータリーエンジン復活のきっかけになる可能性もある。
世界中にロータリーエンジンのファンは多く、もちろんそのファンたちは復活を強く願っている。この声にマツダが応えるかは不明だが、将来的に難点を解消したロータリーエンジンの出現もありえない話ではない。今はただ、静かに動向を見守るほかはない。
マツダが販売するMX30 EVモデル。写真では外部電源から充電を行っているが、2023年3月までに発電用ロータリーエンジンを搭載したモデルが登場するという
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