いつの時代もスポーツカーのお手本は911……だが
スポーツカーには、各ブランドごとの定義やさまざまな楽しみ方がある。サーキット走行で究極のパフォーマンスを味わうとか、ワインディングでひらりひらりと舞ってみるとか、ただそのクルマに乗っているだけで幸せな気分になるとか……。とはいえ、そんなすべてを満たすスポーツカーのベンチマークが911であるということに異論を唱える人はいないはずだ。果たして、2022年の現在でもそう断言できるのか!?
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【写真17枚】911に匹敵するスポーツカーは存在するのか⁉ 各国を代表するスポーツカーを写真で見る
艶やかなヴァンテージ
新型車が発表されると自動車メーカーはプレスリリースを配信する。いまでも鮮明に覚えているのは、アストン・マーティン・ヴァンテージの発表直後のリリースだ。そこには「仮想敵はポルシェ911」とはっきり記されていた。こういうことは非常に珍しい。プレスリリースでは他メーカーについて言及しないのが暗黙の了解というか紳士協定みたいになっているからだ。その文脈は、ポルシェというメーカーと911というスポーツカーに対するリスペクトがうかがえるものになっていて、やっぱり911は世界のスポーツカーメーカーのベンチマークになっているんだなとあらためて認識した。
ヴァンテージはDB11と共に登場したアルミ製のプラットフォームを流用しているものの、このモデルのためだけにわざわざホイールベースを約100mm短くして2704mmとしている(DB11とDBSは2805mm)。グランツーリズモとしての性能も大事にしているアストン・マーティンは、直進安定性や乗り心地を大きく損なわないようホイールベースが比較的長い。それでも911のホイールベースは2450mmだから、快適性は保ちつつ回頭性の向上を目指して、ホイールベースをギリギリまで詰めたそうだ。
ヴァンテージを運転していて「ひょっとしてこれも911を意識しているのか?」と思うのは、電子制御デバイスの介入方法だ。911の各種デバイスは決して出しゃばらず、ドライバーの運転リズムを邪魔しない。介入の直前には、この先はドライバー側でどうにかするか、デバイスがサポートするかを聞いてくる間が存在する。ドライバーの運転リズムを邪魔しない点においてはヴァンテージもまったく同様だ。ヴァンテージはアストン・マーティンとして初めてEデフが採用されたモデルである。このEデフの作動所作が秀逸で、ドライバーにはほとんどわからない。けれど本来なら自分の運転スキルでは到底無理なはずの旋回スピードを実現してくれる。「保険としてブレーキを使うトルクベクタリングも備えていますが、Eデフのセッティングがうまくいったので、トルクベクタリングが作動することはほとんどありません」とエンジニアも自負するくらい、素晴らしい制御である。
911にはなくてヴァンテージにあるものといったら、それは艶やかさかもしれない。スタイリングやインテリアの雰囲気が醸し出す独特の空気感は、どちらかといえば無機質な911とは対極的である。ヴァンテージに限らずアストン・マーティンはどれもそういう雰囲気を持っている。それはちょっとマセラティに似ていて、もしジェームス・ボンドがイタリア人だったら、きっとマセラティに乗っているに違いないと個人的には思っている。
【Specification】アストンマーティン・ヴァンテージ・ロードスター
■全長×全幅×全高=4465×1942×1273mm
■ホイールベース=2704mm
■車両重量=1530kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=510ps(375kW)/6000rpm
■最大トルク=685Nm(69.8kg-m)/5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/40 ZR 20:295/35 ZR20
■車両本体価格(税込)=23,500,000円
■問い合わせ先=アストンマーティン ジャパン リミテッド☎03-5797-7281
乗り心地のよいコルベット
今回の4台の中で、1台だけ「なんかコレだけサルーンに乗ってるみたいだな」と思ったのがシボレー・コルベットだった。とにかくいかなる速度域でも乗り心地がすこぶるいい。GMが長年育ててきた磁性流体を使ったダンパーの最新型、マグネティック・セレクティブ・ライドサスペンションの恩恵によるものである。「TOUR」と「SPORT」の2段切り替え式だが、「SPORT」でも極端に乗り心地が悪化することなく、ばね上の無駄な動きだけを見事に抑える。スポーツカーの中ではマクラーレンのPCC(プロアクティブ・シャシー・コントロール)に迫るトップクラスの乗り心地と言える。
だからといって操縦性に難があるわけではなく、むしろ誰が運転してもハンドリングの楽しさが容易に享受できる。他の3台ももちろん楽しいのだけれど、クルマとの対話の中で、どこかドライバーの運転が試されているような感じがあって、それが適度な緊張感にも繋がる。コルベットは走り出して間もなくいい意味で緊張感が和らぎ、リラックスした状態で運転を満喫できるのである。
コルベットは、ミッドシップレイアウトの物理的優位性は有効活用しながらも、独特の乗り味を生み出している。ニュルブルクリンクでも走行テストを重ねたようだけれど、おそらく一緒に走っていたであろう911などはまったく眼中になかったのではないか、と思えるくらい我が道を行っていて、そういうところがなんとも潔く気持ちがいいスポーツカーである。
【Specification】シボレー・コルベット3LTクーペ
■全長×全幅×全高=4630×1940×1225mm
■ホイールベース=2725mm
■車両重量=1670kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V/6156cc
■最高出力=502ps(369kW)/6450rpm
■最大トルク=637Nm(65.0kg-m)/5150rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35 ZR19:305/30 ZR20
■車両本体価格(税込)=15,000,000円
■問い合わせ先=GMジャパン70120-711-276
熟成を重ねたA110
アルピーヌA110は一部改良が施され、A110、A110GT、A110Sの3つのグレード展開となった。これまでのA110ピュアがA110に、A110リネージがA110GTに、そしてA110Sはそのままということである。しかし、エンジンやサスペンションのチューニングは改められている。
エンジン自体はこれまで通りのルノー製1.8Lターボで、A110はパワースペックにも変更はない(252ps/320Nm)。いっぽうA110GTとA110Sはいずれも300ps/340Nmにパワーアップされている。これはターボのブースト圧を上げてエンジン制御プログラムを刷新したことによるもので、ハードウェアの変更は基本的にないそうである。
サスペンションのセッティングは、A110とA110GTが同じで、A110Sが専用。具体的には、フロントのばねレートを30N/mmから47N/mmに、リアを60N/mmから90N/mmに、前後のアンチロールバーは径を太くすることでフロントは17N/mmから25N/mm、リアは10N/mmから15N/mmにそれぞれ剛性アップが図られている。またタイヤサイズも、A110/A110GTはフロント205/40R18、リア235/40R18、A110Sはから215/40R18、245/40R18に変更されている。
新生A110は2017年のデビューなので、早5年の月日が経っている。今回の改良はまさしく「熟成」という言葉がふさわしいもので、同時にアップルのカープレイやアンドロイドオートにも対応するなど、時流の変化をとらえたアップデートも行なわれている。
A110Sに乗って痛感するのは、「軽量化は万病に効く薬である」ということだ。自動車の開発では至極当たり前のことなのに、スポーツカーを名乗るクルマでさえも現実的には1.5トン超えや2トン前後のものさえ数多く存在する。車両重量が軽ければ、エンジンパワーが強大でなくてもそれなりの加速は得られるし、ばね上の動きのコントロールもしやすくなり、容易に制動できるようになる。A110Sの無駄な動きのないピュアで正確なハンドリングや望外な乗り心地のよさなどはこの車重のおかげである。そしてこの軽快感だけは、さすがの911も手も足も出ない。そしてもうひとつ、911が完敗なのは価格である。1000万円以下という価格は、A110シリーズの圧倒的なアドバンテージなのである。
【Specification】アルピーヌA110S
■全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
■ホイールベース=2420mm
■車両重量=1110kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1798cc
■最高出力=300ps(221kW)/6300rpm
■最大トルク=340Nm(34.6kg-m)/2400rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=215/40R18:245/40 R18
■車両本体価格(税込)=8,970,000円
■問い合わせ先=アルピーヌ・ジャポン☎0800-1238-110
やはり基本と基準の911
911以外の3台には明確な”独特の乗り味”が存在し、たとえ911を意識していたとしても911になろうとは思っていないところにエンジニアのプライドが感じられる。当の911は、相変わらず特別なことはやっておらず、自動車工学の教科書に書いてあるような物理の神様に著しく逆らわない、正しく走り曲がり止まるを忠実に再現している。この”当たり前”が実は相当に難しく、各メーカーともに苦慮している点でもある。なぜなら彼らにはそれぞれの都合があり、分かっていても実現できない事情があるからだ。それは歴史やヘリテージ、販売側からの強い要望だったりする。それらを全部盛り込もうとすると、道に迷って自らの立ち位置が不明になりかねない。そんな時、いったん立ち止まり、スポーツカーのあるべき姿を彼らがあらためて見つめ直すために参考にする存在が、依然として911であることはおそらく間違いないと思う。
【Specification】ポルシェ911カレラGTS
■全長×全幅×全高=4520×1850×1303mm
■ホイールベース=2450mm
■車両重量=1500kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981cc
■最高出力=480ps(353kW)/6500rpm
■最大トルク=570Nm(58.1kg-m)/2300-5000rpm
■トランスミッション=7速MT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35 ZR20:305/30 ZR21
■車両本体価格(税込)=18,680,000円
■問い合わせ先=ポルシェジャパン70120-846-911
アストンマーティン公式サイト
シボレー公式サイト
アルピーヌ公式サイト
ポルシェ公式サイト
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みんなのコメント
みーーーーんな流行り合わせと言う儲け重視でこだわりのない開発してるからでFMCするたびに別物になる。
そう言う意味では911やゴルフの様に中身から熱心に開発し続けている車種はとても希少で、だからこそ他社から目標や参考にされる存在となれた。
ポルシェだって他の車種で儲けて、それを新型911開発に注ぎ込んでるわけだし。