当時の誰もが驚いたカウンタック
1970年の冬、ミドシップ・スーパーカーの祖先といえる、ランボルギーニ・ミウラの後継モデルが決定した。その鮮烈な姿に、イタリア・ピエモンテ州のなまりが混ざった「クンタッチ(カウンタック)」という叫びが、デザインスタジオへ響いたらしい。
【画像】運転したい衝動へ駆られる カウンタックからアヴェンタドールまで 最新レヴエルトも 全153枚
スタッフの1人が口にした、心からの驚嘆だった。同社を創業したフェルッチオ・ランボルギーニ氏ですら、スタイリングには衝撃を受けたという。1971年のジュネーブ・モーターショーで発表されると、主役級の話題をさらった。
ランボルギーニ・カウンタックは、今でも信じられないほど低い。ナイフで面を削り出したようなウェッジシェイプは、魅力の塊といえる。
マルチェロ・ガンディーニ氏らしい、上端がストレートにカットされたホイールアーチと、多角形のサイドウインドウが呼応する。リアエンドは、僅かにカーブを描く。
自社開発のV型12気筒エンジンは、キャビンの後方へ縦置き。トランスミッションは前方へ伸びる。鋭利なドアは、上方へ優雅に開く。
カロッツエリアのベルトーネ社も、コンセプトカー、ストラトス・ゼロを彷彿とさせるモデルが量産されることには驚いたらしい。最高速度300km/hが主張され、同じくコンセプトカーだったアルファ・カラボ譲りのシザーズドアを備えて。
このカウンタックは、ランボルギーニの進むべき道を照らした。完璧なグランドツアラーを作るという、フェルッチオの当初の夢は大きく成長し、サンタアガタの工房から前衛的なスーパーカーが連綿と生み出されることになった。
大量の注文が寄せられるものの株式は売却
前例のないデザインが故に、カウンタックの量産仕様が完成したのは、1973年のジュネーブ・モーターショー。納車が始まったのは、1974年だった。
シンプルだったボディサイドには、三角形のNACAダクトが開けられた。インテリアはシンプルになり、フロントノーズも現実的な処理へ。プロトタイプが掲げていた、LP500というサブネームは消えていた。
縦方向に積まれたエンジンは、ミウラ譲りの3929cc V型12気筒。サイドドラフト・ウェーバーキャブレターが6基載り、最高出力380psがうたわれたが、予算の厳しさを物語っていた。事前に宣言されていた、300km/hの最高速度には届かなかった。
それでも、捌ききれない注文が寄せられた。1970年代のランボルギーニ、イタリアにおいては、需要に応える数を生産すること自体が、大きな課題の1つだった。
大規模なストライキが頻発し、失業者は増加。オイルショックとインフレ、政治的混乱が重なり、ランボルギーニの経営にも大きな影響が及んでいた。月産10台という目標すら、叶えることは簡単ではなかった。
フェルッチオは、最終的に自らが保有していた49%の株式を売却。有能な技術者も、サンタアガタを離れてしまう。
そんな苦悩を横目に、フェラーリは年間数1000台という大量のモデルを販売していた。アメリカには空前のスーパーカー・ブームが到来し、カウンタックの注文も止まらなかった。多くのスタッフが、工房には残ってもいた。
運転してみたいという衝動へ駆られる
真っ先に初期のカウンタック LP400を購入した1人が、カナダの富豪でF1チームを所有していたウォルター・ウルフ氏。しかし、自らの望む性能には届いておらず、ジャンパオロ・ダラーラ氏へ依頼しチューニングが施された。
ウイングとオーバーフェンダーで見た目を整え、V12エンジンは5.0Lへ換装。ランボルギーニ側も仕上がりへ影響を受け、カウンタック LP400Sとして提供することに。リアには345/35R15という、極太のピレリ・チンチュラートP7 タイヤが履かされた。
しばらく不安定な体制にあったランボルギーニだったが、1980年にフランスの実業家、パトリック・ミムラン氏が買収。事業資金として300万ドルが拠出され、1987年までは比較的落ち着いた時期が続いた。
2023年に目の当たりにするカウンタックは、混迷のランボルギーニを支えた、確固たる意志のようなものを感じる。今回ご登場願ったのは、1984年式の5000S。クルマ好きなら、運転してみたいという衝動へ駆られるはず。
陽光を反射するホワイトのボディが、4台の中で際立つ。幾何学的なシザーズドアを持ち上げると、幅のあるサイドシル越しの低い位置へ、ブルーのインテリアが姿を表す。乗降性は悪いものの、開口部は大きい。
シートは地面へ付きそうなほど低い。グラスエリアが広く、フロントガラスは頭上まで伸びる。ダッシュボードが、高いスカットルから続いている。
想像以上にカウンタックの中は快適。シートは柔らかく、掛け心地が良い。暑い日差しに備えて、エアコンも備わる。
目が覚めるほど鋭いコーナーへの侵入
バンク角60度のV12エンジンは、いかにもバランスが良い。設計は、フェラーリのF1用1.5Lユニットの開発へ関わった、ジョット・ビッザリーニ氏。クワッドカムで、滑らかに吹ける。
6基のキャブレターから、控えめに吸気音が共鳴する。1982年に発売された5000Sでは、排気量が4754ccへ拡大されている。
オイルサンプを貫通するドライブシャフトを回す、5速MTはシートの間に納まる。シフトレバーのタッチは良好ながら、レーシーなクラッチは低速走行を好まない。一般道を流せば、周囲からの熱い視線を感じずにはいられない。
多くの例にはスポーツエグゾーストが装備されたが、こちらはノーマル。V12エンジンの、メカニカルな響きをより鮮明に鑑賞できる。バルブトレインのビートが、エグゾーストノートと重なり合う。レッドラインは7500rpm。少々控えめな設定に思える。
コーナーへの侵入は、目が覚めるほど鋭い。僅かにアンダーステア傾向ながら、しっかり路面が掴まれる。AUTOCARの読者なら、このウィングはダウンフォースを生まない飾り物だとご存知かもしれないが、リアタイヤも安定している。
4バルブ・ヘッドのクアトロバルボーレは、1985年に登場。同年に5167ccへ拡大されつつ、Kジェトロニック燃料噴射とインパクト・バンパーが与えられ、北米の規制へ対応した。欧州には、461psのキャブレター仕様が残った。
時速200マイル(321km/h)という壁は破れなくても、北米市場での人気は更に上昇。英国でも需要は高く、1988年のカウンタック 25thアニバーサリーも、30台の割り当て台数がすぐに埋まったという。
この続きは、ランボルギーニ 歴代4モデルを比較する(2)にて。
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みんなのコメント
物語はそこから始まりましたからね(笑)