ちょっと古いクルマに若いひとが乗っているのを見かける機会が多くなったような気がする。でも上手に修理してもらえないと、楽しいはずのクラシックカーライフも灰色に……。
メルセデス・ベンツをはじめ、ちょっと古いクルマのオーナーの頼りになるパートナーが「ヤナセ クラシックカーセンター」だ。1915年から輸入車販売を手がけてきたヤナセのノウハウを活かし、さまざまな古いクルマを修理してくれる。
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場所は第三京浜の港北インターチェンジそば(神奈川県)だ。以前からヤナセの販売店やサービス工場が並ぶ一帯にヤナセ クラシックカーセンターもある。しかし偶然見つけけるというのはまず不可能で、隠れ家的な存在だ。
ヤナセといえば、1980年~1990年代まではメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディ、キャデラックをはじめとするゼネラルモーターズなどのクルマの輸入総代理店だったし、また、バブルの頃は「YANASE」というステッカーが一種のステータスシンボルだった。リアウィンドウに張られたヤナセの文字は、最高の品質保証だったのだ。
そんなヤナセが旧車の整備やレストアを手掛けるというのだから、多くの人は気になるはずだ。
クラシックカーセンターは2018年4月にオープンした。ヤナセのさまざまな部署で経験を積んだエクスパートを中心に、古いクルマのメインテナンスを専門業務とする。
「モットーは”乗って楽しむクラシックカー”です。ミュージアムピースでも投資の対象でもなく、古いクルマを楽しむ文化の一助になりたいと考えています」
株式会社ヤナセオートシステムズの取締役で、クラシックカーセンター事業を担当する梶浦誠治さんはそう語る。
「どう直すかは、もちろんお客さまのご要望第一ですが、毎日のように使うのを目的とするなら、“それにあった部品”や軽い改造をお勧めするケースもあります」
“それにあった部品”とは、クオリティを高めた対策済みの部品や、「ジェネリック・パーツ」と呼ぶ、手ごろな価格の社外品などだ。
また軽い改造については、たとえばラジエターの冷却能力を高めるためのコア増しや、電動ファンの追加、また、ディストリビュターのフルトランジスター化など多岐にわたる。
持ちこまれるのは、1970年代の「Sクラス」や「SL」、「190E」といったコンパクトクラスなど味のあるメルセデス・ベンツが多いようであるが、シトロエンの「H」バンや、アウディのビッグクワトロなどマニアックなモデルも引き受ける。なお、ヤナセの販売モデルに限らず、あらゆる輸入車を受け入れるという。
ちなみに、筆者がもっとも勧めたいのは、ヤナセが取り扱ったクルマのメインテナンスだ。
ときとしてクルマは、設計や素材に起因するトラブルに見舞われる場合がある。するとメーカーでは、トラブルのもとになったパーツの代替部品や、修理のメソッドなどを発表するものの、それが一般に知られるケースはほぼない。
ヤナセは、クルマを売るだけでなく直すのも専門とするため、代理店を務めてきたブランドの商品について、上記の情報を豊富に持っているからだ。
とりわけ輸入総代理店時代のクルマは、じかにメーカーとやりとりをおこなうなかで蓄積されたノウハウが豊富にある。
その一例が、港北の修理工場で見せてもらった部品用のキャビネットだ。一部には油が付着し、かつ塗装のはげた部分もあるが、じつはこれこそが宝の山であり、対策部品のストックなのだ。
ひとつ引きだして開けてみると、細い金属のスプリングワッシャーが並んでいる。別の引きだしには小さなコイルスプリング、といった具合だ。これら小さな部品ひとつで、たとえばトランスミッションの変速ショックが低減したりするという。
「街には古いクルマの修理をおこなうサービス工場はたくさんありますが、対策部品を持っているのはヤナセぐらいでしょう。古いクルマの現役時代からメインテナンスをおこなってきたからこそ集まったノウハウです」
続けて梶浦さんは「将来は、クラシックカーセンターでフル整備した昔のメルセデス・ベンツなどを販売していきたいと考えています」と、述べる。当面は顧客が持ちこんだクルマを、長いあいだ乗っていられるように整備するのを主業務とするそうだ。
工場では、現在のメルセデスAMGモデルに匹敵する高性能セダン「300SEL6.3」や、国家元首も乗ったリムジン「600」、1970年代の2シーターオープン「SL」(コードネームR107)、その後継モデル(R129)といった一般的に人気の高いモデルが整備されていた。
「メルセデス・ベンツは、W124(1985~95年のEクラス)、W201(82~93年の190シリーズ)、それにW126(79年~91年のSクラス)といった、私たちが呼ぶところの“ヤングタイマー”の人気が高いです」と、梶浦さんは言う。
続けて「20~30年前のメルセデスも、もはや一般の工場では修理が難しいと言われています。しかし、クラシックカーセンターには、それらのクルマが現役だったころから働いてきたメカニックがいますので心配は不要です。整備では勘どころをうまく捉えるのがコツなので、その点で、我々にしかない強みがあると思っています」
筆者は先日、「S124」というコードネームを持つメルセデス・ベンツのステーションワゴン「300TE」を、古いクルマの販売店で見つけた。乗り味もいいし、機能的だし、新車時にはとてもいいクルマだった。
300TEは値段もこなれていたので魅力的だった。しかし、走行距離10万km超、1991年登録という30年ちかく前のクルマだ。整備を考えて、結局あきらめた。
その話をしたら、「購入してクラシックカーセンターに持ってきていただいたらよかったのに」と、梶浦さんに言われた。私も取材が終わったあと、そう思った。おそらく足まわりがしゃきっとした、かなりいい状態に戻っただろう。そういう説得力のある場所だったのだ(Vol.2に続く)。
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