■幻の6気筒カタナ!? 「ストラトスフィア」とは
2005年に開催された第39回東京モーターショーで、スズキは「ストラトスフィア (STRATOSPHERE)」と名付けられたコンセプトモデルを電撃的に披露しました。
ストラトスフィアとは「成層圏」を意味する言葉で、その名にふさわしく当時の最先端技術を結集した野心的なモデルでした。
当時の社長である津田紘氏はカンファレンス時にこのモデルについて「我々が研究してきた要素技術の集大成」と述べており、まさに同社の技術力を示すショーケース的な存在だったと言えます。
当時スズキの二輪フラッグシップといえば1999年発売の「GSX1300R『隼』」が世界最速マシンとして君臨していましたが、突如発表されたこの6気筒コンセプトは「次世代の隼」あるいは伝説的名車「カタナ」の再来になるのではと国内外で大きな注目を集めました。
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ストラトスフィアのスタイリングは、一目でスズキの名車「GSX1100Sカタナ」を連想させる洗練されたデザインが特徴です。
流麗なカウルからタンクにかけては、叩き出し製法によるアルミ素材のパネルを採用。ラジエーター側面カバーには、独特の地紋が特徴のダマスカス鋼を用いたパーツが組み合わされるなど、素材の質感を活かした高級感ある造形となっていました。
往年のホンダ「CBX1000」やカワサキ「Z1300」といった重量級の6気筒市販車とは一線を画し、車体は可能な限り引き締められてコンパクトにまとめられています。
オートバイに直列6気筒エンジンを搭載するのは1980年代のCBX1000やZ1300以来の挑戦でした。しかも排気量1100ccというスペックは、かつてのGSX1100Sカタナと奇しくも同じ数字です。
搭載されたエンジンは、1100ccの水冷直列6気筒DOHCという構成で、極限までコンパクト化し横幅を抑えた専用設計により同クラス4気筒エンジンに匹敵するスリムさを実現しました。
実走テストでは非常に滑らかかつ高回転まで淀みなく吹け上がる、4気筒とは一味違うフィーリングを発揮したといいます。6気筒ならではの滑らかな加速感は、このコンセプトモデルの大きな魅力です。
ストラトスフィアにはパワフルなエンジン以外にも、多彩な先進装備が盛り込まれていました。
ウインドスクリーンの高さは電動で調整可能。ハンドルバーの位置も可変式となっており、ライダーの体格や好みに合わせてポジションを自在に調整できます。Bluetooth対応のGPSナビゲーションを車体に内蔵するなど、快適装備も充実していました。
さらにクラッチ操作を自動化したオートシフト(自動変速)機構も備え、ライダーの負担を軽減しつつ操作の楽しさも損なわない工夫がなされています。
公表された車体寸法は全長2100mm×全幅720mm×全高1150mmと、一般的な大型スポーツツアラー並みのサイズです。実際にスズキのテストコースを力強く走行する実車映像も公開され、その完成度の高さから「市販化も間近ではないか」と期待する声も上がりました。
しかし、大きな期待を集めたストラトスフィアも最終的には市販に至らないまま姿を消しました。背景には、隼が確立したスズキのフラッグシップ像(圧倒的な最高速性能と流麗なフルカウルデザイン)が既に定着していたことがあるようです。
スズキは検討の末、6気筒という新路線よりも隼のコンセプトを継続発展させていく道を選んだのです。
結果的にストラトスフィアは“幻のバイク”となりましたが、スズキが生み出した非常にユニークで魅力的なコンセプトモデルとして、現在でも語り継がれている存在です。
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