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悩ましきジャガー Fタイプのトランスミッション選択。速さをとるか旨味をとるか? 【Playback GENROQ 2016】

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悩ましきジャガー Fタイプのトランスミッション選択。速さをとるか旨味をとるか? 【Playback GENROQ 2016】

JAGUAR F-TYPE S COUPE M/T × COUPE A/T

ジャガー Fタイプ S クーペ M/T × クーペ A/T

悩ましきジャガー Fタイプのトランスミッション選択。速さをとるか旨味をとるか? 【Playback GENROQ 2016】

M/Tに見るジャガーの思惑

2ペダル全盛の現代、「M/T」の復権はあるのか? 連綿と繰り返されてきた「M/T」対「A/T」の構図に、メーカーとして一石を投じたのがジャガーである。新たに既存のFタイプに敢えて「M/T」を投入したのだ。果たしてその意図は何処にあるのだろうか?

「自動車は機構的な面において懐古趣味は一切含まない。唯一の例外がM/Tだ」

デュアルクラッチ(DCT)の登場でこれ以上は不可能と思えるほどの変速スピードに到達した感のある近年の変速システムだが、その興奮が一段落ついた昨今は興味深い潮流も見られる。ひとつはDCTに対抗するかのように賢さを身に着け、上質なタッチという点においてDCT以上という評価を獲得したA/T、そしてM/Tの再評価である。

自動車のテクノロジーはスピードの要求や環境性能のルールによって変化するが、一貫して前進あるのみ。時折デザインの面では「昔風」を装うことがあるものの、機構的な面において懐古趣味は一切含まない。唯一の例外を除いては・・・。もちろんその例外が、今回の主役たる3ペダル、のジャガー Fタイプ S クーペだ。

Fタイプ S クーペに用意されたM/Tモデルは、ここ30年ほどの間に正規輸入されたジャガーとしては初の「手こぎ」である。すでにデビューしている車種にM/Tモデルを追加するという流れは、昨年のメルセデスSLKのような前例もある。世の中には今なお「手こぎでスポーツ・ドライビングをしたい!」と思っているドライバーが確実にいるのだ。

「レバーポジション以外の部分においてFタイプ S クーペのM/Tは完璧」

外観からは全く変速機の違いなど判るはずもない2台のジャガー Fタイプ。さっそく興味本位にM/Tモデルをチョイスして走り出す。バング&オルフセン的に生活感がないFタイプのコクピット内にあって、金属的締結(ワイヤー経由だが)がなされたシフトレバーは実に生々しい。

この生々しさはアストンのV8ヴァンテージにも通じているのだが、ヴァンテージとFタイプともに、MTを第一義としてデザインされていないためにセンタートンネルの上面が高く、シフトレバーの操作性は良好とは言えない。左ひじから手先にかけてをトンネル上に載せてシフトする様は「カウンタックみたい」といえば聞こえはいいのだが・・・。

レバーのポジション以外の部分においてFタイプ S クーペのM/Tは完璧と言っていい。具体的には、ABCペダルの位置が適切でヒール&トゥがしやすく、クラッチも締結は確実だがフィーリングにトゲトゲしたところがない。だからヘタクソに扱ってもスナッチが収まらないなんてこともない。アイドリング付近から十分なトルクがあるのでエンストもしにくく、最近のアイドリングストップが付いたクルマは万が一エンストしてもクラッチを踏むだけで大丈夫だから恥ずかしさも最小限で済む。そして何より大事なのは、ペダルとシフトの連携がいい。こればっかりは、ダメなクルマはどうやってもダメで、いいヤツはいきなりスパッと上手いシフトダウンを敢行できる。Fタイプは確実に後者だった。

「A/Tモデルに乗り換えると、とたんにM/Tモデルに“?”マークが灯りはじめた」

だがショートトリップの途中で従来のA/Tモデルに乗り換えると、とたんにM/Tモデルに「?」マークが灯りはじめた。はっきりと遅いのである。ちなみにM/Tモデルが用意されているのは380ps版のSで、A/Tモデルは素の340ps。ともにエンジンは3.0リッターV6スーパーチャージドである。つまりM/Tの方が40ps増しなのに、体感は遅いのだ。筆者の手こぎが最新鋭のZF8速A/Tの変速スピードに敵わないことは当然として、単純にエンジンパワーが足りないと感じられるのである。

M/TとA/T、2台のジャガー Fタイプの勝負でわかるのは(あれ、勝負だったの?)最新A/Tの完璧なまでの立ち振る舞いである。しっとりとインテリジェントで、変速スピードも驚くほど速く、もはや「トルコンの滑り」なんて感じる隙もない。特にシフトダウン側は顕著で、悔しいことにブリッピングの音もM/Tのブフォーン、ブブッより、フォン、ボボボボというA/Tの「電子的にプログラミングされた音」の方が断然キレがイイときている。

「5000rpm以下では、どんなにしゃかりきになってもSのM/Tが遅い」

再びM/Tモデルに乗り換えると、それはもう竜宮城から帰ってきた浦島太郎状態で、やっぱり遅い。今どきでは考え難いことだが「これはエンジンがハズレなのでは?」なんて考えたりもしたのだが、答えのヒントはカタログにちゃんと出ていた。

3.0リッターV6スーパーチャージユニットのパワーカーブをチェックすると、5000rpmあたりまでは340ps版も380ps版もほぼ同じで、Sのプラス40psが炸裂するのはそれ以降だったのである。しかもギヤの段数はM/T6速、A/T8速という、以前の「M/T5速、A/T4速」みたいな時代から考えると大逆転現象が起きているので、A/Tのほうがギヤ比もクロスしている。

だから5000rpm以下でシフトアップしている限り、どんなにしゃかりきになってもSのM/Tが遅いのは当たり前の話なのである。ちなみに0-100km/h加速も、JC08燃費に関してもM/TモデルはA/Tに負けている。スペックに関しては全敗ということになる。

「スピードより“旨味”で勝負! FタイプのM/Tは懐古趣味ではない」

だからここから先は「クルマは速さだけじゃない!」という人のための読み物になる。そういうオーナー予備軍がいると考えたからこそ、インポーターもM/Tを入れたのだ。ちなみに、M/Tモデルの型式認定取得はA/Tの「ついで」というレベルではなく、かなり面倒くさいらしい。

Fタイプに限らず、M/Tモデルの長所は「やることが多い」点にある。エンジンのおいしい回転域を使えるし、シフトダウンにもテクニックが必要になり、はっきりと個人の技量が現れる。ドライバーのウデの差がわかるのは、加速でもコーナリングでもなく、減速がほとんどだと言い切っていい。そのドライビングのキモを機械にやらせてしまったら、ウデの見せどころがなくなってしまう。特に昨今の2ケタ近くまで多段化されたA/Tはエンジンの感触を隠すことに長けている。だから直4かV6か、NAかターボか、なんていう基本的な構造すら看破させないクルマが昨今は意外に多いのである。

これらは全てFタイプにも当てはまっていて、SのM/Tは無印のA/Tに比べてはるかに情報量が多く、彩りに溢れたクルマといえる。特にFタイプのアルミモノコックシャシーは金属製のボディとしては最も強固な剛性を誇っているし、V6スーパーチャージド・エンジンも高回転でパワーが炸裂する、味わいのあるエンジンだ。だらしないシャシーとエンジンならA/Tで隠した方がベターだが、Fタイプのような秀作の「旨味」をA/Tでろ過してしまうのはもったいない。このクルマに関して、M/Tは懐古趣味ではないのである。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小宮岩男(Iwao KOMIYA/iZM)

【SPECIFICATIONS】

ジャガー Fタイプ S クーペ M/T〈Fタイプ クーペ A/T〉

ボディサイズ:全長4470 全幅1925 全高1315mm
ホイールベース:2620mm
トレッド:前1600 後1650mm
車両重量:1720kg
エンジン:V型6気筒DOHCスーパーチャージャー
ボア×ストローク:84.5×89.0mm
圧縮比:10.5±0.5
総排気量:2994cc
最高出力:280kW(380ps)/6500rpm〈250kW(340ps)/6500rpm〉
最大トルク:460Nm(46.9kgm)/3500rpm〈450Nm(45.9kgm)/3500rpm〉
トランスミッション:6速MT〈8速AT〉
駆動方式:RWD
ステアリング形式:電動パワーアシスト付きラック&ピニオン
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム径):前245/40ZR19(8.5J) 後275/35ZR19(9.5J)〈前245/45ZR18(8.5J) 後275/40ZR18(9.5J)〉
最高速度:275〈260〉km/h
0-100km/h加速:5.5〈5.3〉秒
燃料消費率(JC08モード):9.6〈9.8〉km/L
車両本体価格:1079〈887〉万円

※GENROQ 2016年 3月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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