英国に数多くあるチューニング・ガレージ
トヨタやマツダ、フォードといった自動車メーカーは、驚くほど高額な予算を準備し、精鋭の技術者を囲い入れ、数年を掛けて1台の量産モデルを開発している。実施される走行テストは、述べ数100万kmに及ぶという。
【画像】BBR GTiにマウンチューン、リッチフィールド 英国チューナーが手掛けた3台 ベース車も 全78枚
それほどの労力が注がれたクルマを、街角の小さな工場に頼んで手を加えてもらうという考えに、疑問を抱く人もいらっしゃるだろう。少なくない金額を工面して。
英国には、小規模ながら多くの支持を集めるチューニング・ガレージが数多く存在する。彼らの技術を信じ、愛車を持ち込む大勢のドライバーがいる。
生産工場からラインオフしたままの状態も素晴らしい。だが自動車メーカーは、可能な限り効率的に量産し、環境負荷に対する目標を達成し、企業を存続させる利益も得る必要がある。
量産モデルを手にするユーザーは幅広い。定期点検の重要性を理解していなかったり、手荒くメカニズムを扱うドライバーに乗られることも想定されている。AUTOCARの読者には、そんな人はいないと思うが。
つまり、量産モデルには多少の「ゆとり」が残されている。そこで今回、英国編集部はリッチフィールドのトヨタGRヤリス、マウンチューンのフォード・フォーカス ST M365、BBR GTi の3代目マツダ MX-5(ロードスター)2.0という3台を集めてみた。
365psまで増強させたマウンチューン社
ベースとなっているGRヤリスとフォーカス ST、ロードスターは、異なるコンセプトで仕上げられた魅力的なクルマだ。3ドアの四輪駆動ホットハッチと、5ドアの前輪駆動ホットハッチ、2ドアで後輪駆動の2シーターオープンと、性格付けも幅広い。
そこへ、英国のチューナーが独自のモディファイを施している。基本的には、一層の速さを求めたアップデートといっていい。独自のクルマに対する哲学も落とし込まれている。量産モデルがどう料理されているのか、その成果に気持ちがはやる。
マウンチューン社のレシピは、3社の中では1番シンプル。フォード・フォーカス STというホットハッチも、シンプルなクルマではあるけれど。
同社は長い歴史を持つエンジン・ビルダーだ。様々なモータースポーツに合わせて、パワーユニットの性能アップを得意としている。フォーカス ST M365の核心といえるのも、チューニングされた2.3L 4気筒エンジンとなる。
本来280psだった最高出力は、365psまで高められている。内部構造は基本的に手つかずで、吸排気系のアップデートとエンジンECUの書き換えで実現されている。
ちょっとしたコンパクト・ハッチバック1台ぶんの馬力が上乗せしてある。ピーキーな特性を想像してしまうが、そこはマウンチューン社だから心配ご無用。フォードも、本来この程度の最高出力を想定していたように思えるほど、自然だ。
あからさまなオーバーパワーは楽しい
エコブーストという名の4気筒ターボは、即時的なアクセルレスポンスと粘り強い扱いやすさで、ドライバーが求めたパワーを線形的に生み出してくれる。それでいて、穏やかに運転すれば燃費は14km/L前後まで伸びる。
一方で、能力を解き放たれたエンジンに対応しきれていないのが、フォーカス STのシャシー。最新のホットハッチとして素性に優れ、大パワーを受け止める余力も備わっているはずだが、365psは少々手に負えないようだ。
ノーマルより幅の広いアルミホイールに、ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を履いていても、フルスロットルを与えるとフロントタイヤがスリップし始める。路面がドライでも。ウェットなら、4速でも気は抜けない。
トラクションの限界までは、息を呑むほど爽快に運転できる。しかし、英国郊外の一般道ではすべてのパワーを発揮することが難しく、少しもどかしい気持ちになる。あからさまなオーバーパワーは、正直なところ楽しくもあるのだが。
シャシーにもマウンチューン社は手を加えているものの、不充分なようだ。ローダウン・スプリングが、グレートブリテン島の西部、ウェールズ地方の傷んだアスファルトとの親和性を高めているわけではない。
ホイール・オフセットが変化し、タイヤのグリップ力も増し、ワダチの起伏に影響されるようにもなっていた。これは、ノーマルのフォーカス STにはない仕草といえる。
サスペンションがキモのリッチフィールド
続いて、リッチフィールド社によるトヨタGRヤリスへ乗り換える。彼らは多面的に手を施し、日産GT-Rでは800馬力を超える場合もあるそうだが、この例ではサスペンションにキモがあるという。もちろん、パワーアップもしてある。
出発してすぐに、今回の3台では1番チューニング度合いが高いと実感する。エンジンの振る舞いからして、明らかにノーマルとは違う。
最新のトヨタ車としては不自然なほど、ターボラグが目立つ。アクセルペダルを急に放すと、身悶えるように回転数が落ちる。本域の回転数へ高まるほど、想像以上に激しいエグゾーストノートが放たれる。
リッチフィールド社は、マフラーをアクラポビッチ社製へ交換したと説明する。まともなサイレンサーが付いていないように、うるさい。ディーゼルエンジンのように聞こえる人もいるだろう。
フォーカス ST M365の排気音も静かではない。だが、リッチフィールドGRヤリスが通過すると、ウェールズ地方の草をはむ羊も迷惑そうに目線を送ってきていた。
過剰なサウンドだけでなく、リッチフィールド社の味付けは非常にエキサイティング。最高出力は260psから314psへ、フォーカス ST M365より穏やかだが、向上している。パワーデリバリーは線形的で、3000rpmを過ぎた辺りからモリモリ力が湧いてくる。
そのまま、7000rpm目がけて勢いは増す一方。GRヤリスは、もともと1980年代のラリー・ホモロゲーション・マシンのようだった。それが、実際のパワー面でも達成されている。
この続きは後編にて。
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