フルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツの新型「Eクラス」を、今尾直樹が解説する。あわせて、セダンの未来も考えた!
古典的なエクステリア、ハイテクなインテリア
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4月25日に本国で発表されたメルセデス・ベンツ新型Eクラスは、2016年に登場した現行型(社内コードW213)のデジタル化をさらに推し進めた正常進化版だと考えられる。
ただ、そのデジタル化はかなりクセが強い、と申しますか、ITオンチのおじさんには、ちょっと進みすぎているかもしれない。
まずもって、新型のボディ・サイズはW213の日本仕様と較べると、全長は9mm長くなり、全幅は30mm拡大、全高は13mm高くなっている。ホイールベースは2cmのびて2961mmになったと発表されている。ごく大雑把に申し上げれば、ちょっと大きくなったけれど、ほとんど変わっていない。
外観で目につくのはEVのメルセデスEQモデルを連想させる、ツルツルピカピカの黒いパネルをつけたフロント・マスクだ。ラジエターグリルには発光する仕掛けがオプションで用意されている。
個人的にはグリルの周囲が光るのではなくて、スリーポインテッドスターが燦然と輝いたほうがウケると思うけれど、それだとイヤミでしょうか……という個人の感想はともかくとして、このEQモデル風の新しいフロントマスクこそ、伝統とモダニティを結びつけるものだ、とメルセデスは主張している。モダニティとはデジタライゼーションのことである。
一方、プロポーションはロング・ノーズ、ショート・デッキで、キャビンを比較的後ろに配置する古典的なものだ。スポーティな後輪駆動モデルの典型ともいえる。同時に、4ドアセダンと4ドアクーペとの境界線があいまいになってきている、というか、セダンがクーペにどんどん近づいているようにも思える。おかげでCd=0.23と、空力面で良好な数値を誇る。
インテリアの特徴はダッシュボード全面がディスプレイで覆われていることだ。このディスプレイは「MBUXスーパースクリーン」と呼ばれ、「ティックトック」とゲームの「アングリーバーズ」、それに「ズーム」のアプリ等があらかじめインストールされている。自撮り用のカメラも装備しており、動画を撮ることもできる。
音楽に合わせて室内のライトを点滅させる「アクティブ・アンビエント・ライトニング」というシステムをオプション設定してもいる。サウンドを視覚化するというこれは、速いビートのときは素早く光を変化させ、スローな曲のときにはメロウな雰囲気を醸し出すという。運転時間が長くなると、自動的にドライバーをサウンドとヴィジュアルで元気づけるシステム、「エナジング・コンフォート」は筆者も現行「Sクラス」の試乗時に体験して気に入っておりますけれど、その最新版を採用していたりもする。
YouTuberの方とかは、これらの様子を自撮りして、ライブ中継することも、おそらく可能だろう。特に資料には書いてないけど。
パワートレインは、プラグイン・ハイブリッドもあるけれど、主役は内燃機関のマイルド・ハイブリッドで、ディーゼルとガソリン、両方のISG(integrated starter-generator)付きの設定がある。
足まわりではエアサスとリヤアクスルステアリングを備えているから、快適な乗り心地と敏捷なハンドリングは約束されている。
セダンの可能性は無限大だけど、このようなハードウェアのお話はメルセデス・ベンツにとってはもはや強調する必要もないことなのかもしれない。
メルセデス・ベンツ=高級車、Eクラス=エグゼクティヴサルーンというようなことはすでに世界中で定着しており、いまさらハンドリングがどうのこうの、と主張するまでもないと思っている雰囲気が資料から漂っている。
それより、iPhoneとアップルウォッチがクルマのキーになります、というガジェットのほうを訴えたい。というメーカーの気持ちも、わからないではない。ユーザーは新しいモノを求めている。
その意味では「自動バレーパーキング」という、いわゆるレベル4のシステムも要注目かもしれない。現時点では使用不可能ながら、自動運転の時代に備えて準備万端だそうで、詳細は不明ながら、もしもクルマが自動で駐車してきてくれたら……と、想像すると、ものすごく便利である。
このようなデジタル化によって、自動車の主流だったセダンはどこへ行くのか?
あらためて考えてみると、セダンで残っているのは、いまやプレミアムブランドと、アメリカでベストセラーのホンダ「シビックと」同「アコード」、日産「アルティマ」、そしてトヨタ「カローラ」と同「カムリ」ぐらいである。それと、テスラの「モデル3」。
メルセデス・ベンツに話を絞ると、メルセデスの昨年の全体の販売台数は204万3900台で、最も売れたモデルは「GLC」だった。その販売台数は34万2900台というから、メルセデスの6台に1台はGLCだったことになる。
もっとも、Cクラスも好調で、29万9100台が納車されたというから、少なくともメルセデス・ベンツにおいてセダンは依然重要なポジションを占めている。
新型Eクラスのワールドプレミアではネット上で動画が公開されている。ものすごく忙しいビジネスマンが新型Eクラスに試乗させて欲しい、と、ディーラーにやってくる。でもって、セールスマネージャーと一緒にドライブに出る。すると、そのビジネスマンが新型Eクラスを運転しながら、突如、なぜかは知らないが、いろんなタイプのひとに次々と変身する。技術オタクになったかと思えば、超保守的なひとになり、ヒッピーがかったスピリチュアル系のひとになったかと思うと、飛ばし屋になってぶっ飛ばす……。新型Eクラスはあらゆるタイプのドライバーに対応することができる。と、いいたいらしい。
実際、そうだろう。と、筆者は思うのである。フロントにエンジンがあって、キャビンがあり、その後ろに独立したトランクがついている。静粛性が高くて、おとなが最大4人、短時間なら5人が乗れて、それぞれのある程度の荷物も一緒に快適に移動できる。SUVやミニバンほど広くはないにしても、乗り心地もハンドリングも燃費も優れている。運転もしやすい。
つまるところ、内燃機関車の基本は後輪駆動のセダンなのだ。オーセンティックな高級車メーカーはそう考えている。だからこそメルセデス・ベンツもBMWもジャガーもアルファ ロメオも、まずはセダンをつくり、そのプラットフォームを使ってSUVを仕立てている。よいセダンをつくれるメーカーは、よいSUVをつくることができる。よいSUVのメーカーがよいセダンをつくったという話は、あまり聞いたことがない。
メルセデス・ベンツがセダンを続けている限り、セダンの可能性は無限大である。メルセデスが進んでいる道こそ、自動車界の王道なのだ。セダンの可能性は無限大。ということは、自動車の可能性は無限大、というのと同義。
デジタル化によって、セダン=自動車はますます自由な個人の移動空間になるのである。
文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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デカいだけで薄っぺらな日本車セダンに未来はない