たとえばディーゼル。石原都知事時代に大気汚染の元凶であるかのように喧伝され、一時日本国内に国産ディーゼル乗用車は走ってないんじゃないかというような状況にまでなったが、いまでは国から購入補助金を受けられるほどクリーンなエネルギーとして認知されている。時が経つにつれ評価がガラッと変わった好例といえるだろう。
実際変わったのは、“イメージ”か、メーカーの努力による“事実”か、それとも世のなかの“常識”だろうか? 時とともに評価がガラリと変わった(あるいは変わってしまった?)クルマ界の様々なモノ・コト、その度合いを検証してみた。
ハイエースレジアスと“変わり種”大物新車 ベストカー 9月26日号
※本稿は2018年1月時点のものです。
文:鈴木直也、渡辺陽一郎、伊達軍曹、ベストカー編集部
写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2018年2月10日号
【20年前までは?】 中国のクルマはパクリばかりで質も悪い!
〈以前の評価〉
中国のショーで見かけるのは各国の名車のソックリさんばかり。しかも似てるのは外見だけで、中身はヤバイ!?
〈最近の評価〉
私が初めて中国に行った2009年時の中国車はパクリカーのオンパレード。インパネはテカテカ、得体のしれないエンジンなど、お笑い状態。それが昨年(2017年)11月の広州モーターショーで見た中国車は、素直にカッコいいクルマや内装も上々というクルマがゴロゴロ。パワートレーンも現代的と劇的に進歩していた。これで耐久性&信頼性、安全関係に問題なければ恐ろしい存在と断言できる。
(永田恵一)
※こちらの記事もどうぞ!→日本車を越える日は来るのか!? 急成長する韓国、中国車の現在地(2018.1.25)
【20年前までは?】 「輸入車はオシャレだけど、やっぱり壊れるね」と言われていた
〈以前の評価〉
一部車種では「乗ってる時間より修理に出してる時間のほうが長い」との伝説が。
〈最近の評価〉
1990年代半ばまでは「確実に壊れるね」と恐れられていたが、2000年頃からは各部品が合理化され、いい具合になっていった。だが2005年頃にメルセデスがSBC(電子制御式油圧ブレーキ)で盛大にやらかしたため「やっぱ壊れるね」という評価に。
その傷もある程度癒えた2010年頃から「意外と大丈夫」との見解が広がったが、やはり傷は浅くはなかったようで、世間全体の評価をガラリと変えるところまではいっていないようだ。
(伊達軍曹)
【5年前までは?】 ATよりCVTのほうがイイぞ! とされていた
〈以前の評価〉
「CVTはエンジン効率がいい回転域を維持するから、燃費面で有利!」
〈最近の評価〉
JC08モード燃費計測のような低速ストップ&ゴーが、CVTに最も適したシチュエーション。この特性は今でも変わっていない。ところがステップATの多段化などで、そこでのアドバンテージが少なくなったのが痛い。それ以外、高速域での効率のよさやリズミカルな変速特性などでは、以前からステップATの評価が高かったわけだから、モード燃費でも追いつかれちゃったら、立つ瀬がないよね。
(鈴木直也)
【5年前までは?】 カーシェアリングは自動車販売の敵だ!と言われていた
〈以前の評価〉
「クルマ離れが進む若者はクルマが必要な時はレンタカーやカーシェアリングを利用する。だから新車が売れない!」
〈最近の評価〉
ソニー損保が1000人の新成人を対象に行った2017年の調査によると、レンタカー利用経験者のマイカー所有率は22.1%、カーシェア利用経験者では40.8%となり、利用未経験者(それぞれ14.6%、15.6%)より高いという結果が出た。レンタカーやカーシェアを利用しているうちに自分のクルマが欲しくなった可能性があり、一概にカーシェアやレンタカーが新車販売の敵とは必ずしもいえないのだ。
(編集部)
【18年前までは?】 日本で乗るならやっぱ5ナンバー車がベスト!
〈以前の評価〉
「日本の道は狭いんだから、幅の広い3ナンバー車なんかもってのほか!」
〈最近の評価〉
以前は排気量にかかわらず全幅が1700mmを超えると自動車税が年額8万1500円以上になり「日本で乗るなら5ナンバー車」だった。この税制が1989年に排気量に応じた課税に変わって、3ナンバー車が増えた。
今人気のSUV車は大半が3ナンバー車だが、今でも売れ筋は軽自動車を含めた5ナンバー車。3ナンバー車には海外向けが多いが、5ナンバー車は日本向けに開発されたから支持も厚い。サイズだけの話ではなくなっているのだ。
(渡辺陽一郎)
【10年前までは?】 ボッシュって、あの高いワイパーブレード売ってるとこ?
〈以前の評価〉
「ボッシュって、カー用品店でワイパーとかバッテリー売ってるよね、あのチト高いやつ」。
〈最近の評価〉
創業130年を誇るボッシュは、自動車関連部品の超老舗。エンドユーザーにはワイパーや電動工具の会社に見えるかもしれないが、世界中のメーカーと取引があるメガサプライヤーなのだ。最近自動運転がらみでその名前をよく聞くのは、技術開発の最前線がそこにあるから。同じドイツのコンチネンタルが、その分野で先行しているだけに、ボッシュにとっても負けられない戦いというわけです。ただのワイパー屋じゃないよ!
(鈴木直也)
【15年前までは?】 トヨタはどうもスポーツモデルがイマイチだ
〈以前の評価〉
「トヨタは量販車を作らせると上手いけど、スポーツカーとなると、どこか突っ走りきれてないモデルが多いような……?」
〈最近の評価〉
自動織機がルーツだけに、トヨタにとってクルマは基本的に実用品。割安で使い勝手がよくて壊れない。これがイチバンというDNAを持っている。それゆえか、スポーツカーみたいな“道楽”はあんまり得意じゃない。スポーツカーなんてものは、基本的に遊び道具。儲けは二の次、好きだから作るというマインドがないとやってられない。ブランド戦略上必要という動機だけでは、クルマ好きを感動させるのは難しいと思うなぁ。
(鈴木直也)
【5年前までは?】 マツダは「職人気質で商売下手」。
〈以前の評価〉
「マツダってクルマのデキはいいけど、どこか野暮ったいイメージ、ディーラーの販売も下手なような……」
〈最近の評価〉
かつてのマツダは不器用で職人気質。走りのメカを中心に、技術的に優れた商品を丹念に製造していた。この印象が先代CX-5が発売された2012年以降違ってきたと感じるが、本質に変わりはない。熟成を図り選択と集中を行っただけ。変わったのは商品の周辺で、店舗はオシャレになりブランド構築も入念に行う。ただし肩に妙な力が入り、初期のレクサスに似た理屈っぽさを感じる。気軽さが消えた。
(渡辺陽一郎)
【15年前までは?】 クラウンってオヤジが喜んで乗るクルマでしょ?
〈以前の評価〉
「いつかはクラウン」路線でオヤジが金を貯めて買うクルマ。乗ればいいけど、外見にワクワクすることはない。
〈最近の評価〉
昭和には分別のある本当の大人が多かった。だからクラウンも子供には太刀打ちできない大人のクルマで、子供達は「オヤジグルマ」と陰口を叩いた。しかし今は、私を含めて50代でも進歩の乏しい「幼い大人」が増えた。もはや「勝てないオヤジ」は存在せず陰口も叩かれない。クラウンは幼い大人を対象に忠実に開発され、2003年のゼロクラウン以降は走りも楽しい「普通のよいセダン」になってしまった。
(渡辺陽一郎)
※こちらの記事もどうぞ!→【王者の苦悩】クラウンはなぜ「おっさん向け」と言われてしまうのか?(2018.7.30)
【20年前までは?】 スカイラインはスポーティなクルマの代名詞!
〈以前の評価〉
「若者にはシルビア、その上にスカイライン。スポーティさと大人っぽさを併せ持つ、まさに日本の名車だぜ!」
〈最近の評価〉
今の日本市場ではセダンとスポーツカーのシェアはずっと低空飛行。そういう意味では、スカイライン本来の持ち味だったスポーティセダンというジャンルは、すでにオワコンということ。スポーツカーなら86かロードスター、プレミアムセダンは輸入車、そして安いセダンならマークX。スカイライン独自の魅力に欠ける。日本市場に踏みとどまるには抜本的なコンセプト再構築が必要だと思います。
(鈴木直也)
【番外コラム】 今は高評価。でも将来大丈夫? EVと電池
バブルと表現したいほどのEVブームだが、その成否の鍵を握るのは電池の性能。トヨタが全固体電池の技術を発表して話題になったように、大きな技術革新がこれからひと山もふた山もありそうだ。
しかし、「まだまだ伸び代がある」というのは、技術的には夢があるが事業としては難しい。
EV時代が本当に到来したら、必要となる電池はケタ外れに拡大する。そのためには大規模な生産設備が必要となるが、ある日、画期的な新電池が発明されたりすると、莫大な投資がアッという間に不良資産化する。
電池の自社生産で先行した日産は、すでに生産子会社を売却して撤退。VWなんか「6.5兆円分の電池買うから、自信のあるサプライヤーは応募してきて!」なんて異例の逆オークションをやってる。
このあたりがEVが本当にテイクオフするためのネック。みんな大規模投資にビビってるから、大量の電池が必要となった時の供給体制にメドが立たないのだ。
そういう意味では、自前主義を貫いているテスラは立派といえば立派。ただし、大きな技術変動が来ていちばん損害を被るのも、やっぱりテスラなんだけどね。
(鈴木直也)
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