従来のエンジン式の乗用車に比べ、サイズが小さくて配置の自由度が高いバッテリーとモーターで構成される電気自動車は、はるかにデザインの自由度が高いはずだ。
SF映画やアニメに登場するクルマは、そんな未来を予感したようなデザインとなっているが、現行の電気自動車はそれほどガソリン車から離れたデザインとはなっていない。
クルマの電動化で今後はどうなる!? 激変するガソリンスタンド事情
その理由を清水草一氏に解説してもらった!
文/清水草一
写真/ベストカー編集部、Toyota、Subaru、Volkswagen、Mitsubishi、Tesla、SIM-Drive
[gallink]
■意外と保守的デザインばかりのEV
レクサス UX300e。SUVが世界的人気とはいえ、EVモデルにはSUVが多い印象だ
モーターとバッテリーは、エンジンと燃料タンクに比べると、配置場所の自由度が非常に高い。そのため電気自動車は、デザインの自由度が高いはずだが、実際の市販EVは、それほどガソリン車と異なるものとはなっていない。
現在主流になりつつあるのは、世界的に人気のSUVタイプだが、なぜSUVタイプのEVばかりなのか? もっとフォルム全体でEVであることをアピールできないのか?
内燃エンジンを積む乗用車の多くは、前方にボンネット部が大きく突き出ている。ここはエンジンをはじめとするメカの収納場所兼、クラッシャブルゾーンとして使われている。
しかしEVのモーターは、内燃エンジンに比べるとはるかに小さい。あんな巨大なボンネットは必要ないはずだ。
なのに、現在販売されているEVは、どれもこれも内燃エンジン車と同じようなボンネットを持っている。これはいかにも不合理だし、アピール性も弱いんじゃないだろうか?
クラッシャブルゾーンが必要なのはわかるが、もうちょっとボンネットを短くして、その分を居住スペースに割けるのではないか……と、誰だって思うだろう。我々が未来予想図で見てきたEVは、大抵そういう形をしている。
■未来的デザインのEVもかつては存在したが……
2004年に慶應義塾大学が中心になって開発したEV「エリーカ」。EVの長所を活かしたデザインだった
かつて我々が想像したEVの形状の、さらに上を行っていたのが、慶應義塾大学の清水浩教授(当時)が中心になって2004年に開発したEV「エリーカ」だ。
このクルマは、短めのボンネットと、かつてシトロエンDSのように長くゆったりしたキャビン、空気抵抗を低減させる低めの全高、そして8輪という、凄まじくユニークなデザインだった。
8個のホイール内側には、それぞれ別個のインホイールモーターが装備されている。その分、1個のタイヤ径と幅を小さくできる。それによって空気抵抗も低減できるし、居住空間も広く取れるという、まさにEVならではの設計だったのである。
このエリーカ、8輪駆動で最高速は370km/hに及ぶという、超絶すぎるスペックでも注目を集めた。これが市販化されれば、テスラなど問題にしないインパクトがあったはずだ。
エリーカは市販化を目指してベネッセやガリバーなどの大企業から出資を募り、シムドライブというベンチャー企業へとつなげたが、ついに市販化には至らず、4年前、シムドライブは解散した。
なぜエリーカや、その発展形の試作EVが市販化できなかったかというと、「市販化にあたって必要な信頼性、耐久性、安全性を証明できなかったから」だという。それには数百億円の資金が必要。そこまでの資金が集まらなかったのだ。
テスラのイーロン・マスク氏は、自身、ペイパル株の売却でかなりの資金を持っていたし、アメリカというお国柄もあって、さらなる資金を集めることに成功して、テスラを軌道に乗せた。しかし結局彼のEVも、デザイン的には従来の延長線上にとどまっている。
なぜEVらしい独自のフォルムを持ったクルマができないのか?
■現場のEVデザインはコストと相談した最適解か
トヨタbZ4Xの透視図。場所をとる上に重たいバッテリーを床に敷き詰めるには車高の高いSUVが適している
最大の理由は「お金がかかりすぎるから」ということになるだろう。
インホイールモーターにすれば、それだけでフロントボンネットは大幅に小さくできるはず。技術的には可能だが、コストの上昇は避けられない。ただでさえ割高なEVの値段が、さらに高くなる。ましてや8輪にしたら、操舵機能は大幅に複雑になり、これまたコストが上昇する。
従来の4輪だと、タイヤは小さくできない。タイヤを小さくすると、クルマはそれだけで大幅にショボく見えてしまうので、ルックス的にもタイヤは大きくしたいから、逆にますます巨大化している。
その巨大なタイヤを、操舵のために左右に旋回させるためには、それだけでかなり大きなスペースが必要で、その上を居住空間にするためには、全高を大幅に上げなくてはならず、バスや、最低限ミニバン的なフォルムになってしまう。
ならば、従来型の前方に突き出たボンネットのまま作ったほうが、あらゆる意味で有利。もともと全高が高いSUV形状なら、バッテリーを床下に敷き詰めるのがさらにラク。世界的にもSUVが大人気なのだから、これを使わないテはない。そういう答えが導かれる。
なんだか夢のない話だが、そういう現実を踏まえた上で、これまで我々が目にしてきた、主なEVのデザインを評価してみよう。
■清水草一氏が斬る! 現代のEVデザイン
●三菱 i-Miev
三菱 i-Miev
三菱の軽自動車「i」がベース。「i」自体、非常にユニークな未来的デザインで、ある意味EVっぽかったが、軽自動車として先行したため、EV化にあたってのデザイン的なインパクトは弱まってしまった。
●日産 リーフ(初代)
当初、アメリカ西海岸を主要ターゲットに、大量生産・大量販売を目指していたため、違和感を抑える目的で、あえて従来型のデザインを採用。これが裏目に出た。リーフの前身にあたるEV試作車の車体は、2代目キューブを流用していたが、そちらのほうがはるかにEVっぽくユニークに見えたのは私だけか?
●日産リーフ(現行型)
日産 リーフ(現行型)
初代リーフの販売が目標の数分の一にとどまったため、初代をベースに手直しした形で登場。決して悪くないが、フォルムも初代と似たようなものになり、その後の凋落の一因となった。
●日産 アリア
日産 アリア
スリークで都会的なSUVタイプだが、グリルに穴が開いてない程度で、EVらしさは薄い。
●ホンダe
ホンダ e
ドアミラーをカメラ化したこともあって、きわめてシンプルなフォルムは、未来を予感させる素晴らしいデザインになっているが、逆に従来の自動車として究極の基本形とも言えるので、いかにもEV! というイメージではない。
●マツダMX-30 EV
ガソリン車のMX-30がベースであり、EVならではのフォルムではない。
●トヨタbZ4X/スバルソルテラ
日産アリアとほとんど同じ路線。
●メルセデスEQA/EQC
メルセデス EQA
従来のSUV(GLA/GLC)をベースに作られている。より滑らかなパネル面や、穴のないグリル形状でEVっぽさを出しているが、それだけ。
●VW ID3
ゴルフの延長線上にあり、特にEVっぽくはない。
●VW ID LIFE(コンセプトカー)
ホンダeとまったく同じ路線。
●テスラモデルS/3
テスラ モデルS
従来のセダンから、フロントグリルの穴をなくしただけに近い。
●テスラモデルX/Y
従来のSUVのリヤドアをガルウィング式にしたことで特色を出したのみ。
●テスラサイバートラック
従来の自動車デザインを破壊しようという意図は激しく伝わってくる。極端に平面化&単純化されたフォルムは、一瞬で「異質な何物か」を連想させるし、触ると感電しそうな高電圧の電気製品もイメージさせる。ただし、それはあくまでイメージ的なもので、機能の裏付けはない。
* * *
このように見ていくと、EVが本来持つデザイン的なパフォーマンスをフルに発揮するのは、バッテリーのコストダウンが成功してEVが自動車の主流となり(なればだが)、様々な工夫をこらす余裕が生まれてから、ということになりそうだ。
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みんなのコメント
オチャラケばかりじゃないんですね。
久しぶりベストカーの記事で感心した。
個人的には三菱アイミーブ(アイ)が未来的なデザインなのに全く売れなかったのが市場の答えだと思います。あ、三菱関係者です。
道路運送車両法とか、各国法令があるから大幅には変えられない。