■トラクターから最新限定車まで、バラエティに富むポルシェのオークション
クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手のひとつである「RMサザビーズ」は、2020年6月3日から11日まで、欧州支社主体で「THE EUROPEAN SALE featuring THE PETITJEAN COLLECTION」と銘うった、オンライン限定のオークションを展開した。
世界に1台のトヨタ新型「スープラ」が2億3000万円 市販モデルの約40倍の価格で落札
出品車両は200台オーバーとけっこうな数に上ったが、実はたったひとりのコレクションでその半数が占められていた。
1960年代から1970年代にかけて、レーシングドライバーとしてサーキットレースやヒルクライムで大活躍し、現役引退後は自身の自動車ミュージアム開設を目指して、珠玉のスポーツカー/スーパーカーをはじめ、あらゆる乗り物を蒐集したフランス人コレクター、マルセル・プティジャン氏が出品したものである。
現役レーサーだったころのプティジャン氏は、「カレラ6(906)」などのポルシェを相棒に闘ったこともあってだろうか、このオークションに出品された彼のコレクションでは、ポルシェの充実ぶりが目立っていた。
オークションには、1964年型「904GTS(カレラGTS)」が70万から90万ユーロという推定落札価格で出品されたほか、1960年型「356Bカブリオレ」(推定落札価格8万から10万ユーロ)、1966年型「912」(推定落札価格3万から4万ユーロ)などのクラシック・ポルシェも登場した。
また、1984年型「911カレラ3.2」(推定落札価格3万から5万ユーロ)、1988年型「911ターボ」(推定落札価格7万5000から10万ユーロ)などの、いわゆる「ヤングタイマー・クラシック」たちもオークションリストに掲載されたほか、1万から1万5000ユーロという比較的リーズナブルな推定落札価格が設定された1971年型「914-1.7」など、とても興味深いポルシェたちが目白押しとなっていた。
一方、複数のオーナーから出品された「THE EUROPEAN SALE」では、「プリA」時代の最初期モデルながら3オーナーという1955年型「356スピードスター」(推定落札価格32万から38万ユーロ)から、1967年型「911」(推定落札価格10万から12万ユーロ)などの真正クラシック・ポルシェたちに加え、1993年型「928GTS」(推定落札価格5万から7万ユーロ)に代表されるヤングタイマーたちが登場。
さらにはアメリカの「パイクスピーク・ヒルクライム」で実際に闘った経歴を持つ1997年型「Ruf CTR2シュポルト」(推定落札価格64万から72万ユーロ)など、バラエティに富んだポルシェとその仲間たちが、RMサザビーズ社のオークションページを飾ることになった。
●ポルシェといえばマルティーニカラー
そんな数多くのポルシェたちのなかでも、事前のレビュー段階からスポットライトを浴びていたのが、「マルティーニ」カラーをまとった2020年型ポルシェ「935」(シリアルナンバー#02)である。
ポルシェ創業70周年記念車として開発された新型935は、最新の「911GT2RS」をベースに、ポルシェが自ら大規模なコスメチューンしたもの。世界限定77台のみ製作されるサーキット専用車である。
2018年9月に開催された、北米ラグナ・セカ・サーキット「レンシュポルト・リユニオン」にてワールドプレミアに供された直後に、限定枠のすべてが埋まってしまったこととでも知られている。
そして、まだ未走行という今回の出品車両には、「70」周年と創業年「1948」に引っ掛けて70万1948ユーロ(約8528万円)とされた新車価格を大幅に上回る、127万5000ユーロ(約1億5485万円)から137万5000ユーロ(約1億6700万円)という強気の推定落札価格が設定されていた。
■注目の935マルティーニは、1億6000万円で落札!
今回の「THE EUROPEAN SALE featuring THE PETITJEAN COLLECTION」オークションはオンライン限定ということで、通常の対面型オークションのように1台につき数分で決してしまうことはない。6月3日から出品ロットナンバー順に競売がスタートし、6月11日の締め切りまでの一週間にわたって、事前登録してあれば世界中からいつでも入札できるシステムとなっていた。
世界のポルシェ・エンスージアストたちがオークションの進行を注視していた新型935マルティーニは、序盤戦の6月4日(現地時刻)の段階で64万ユーロ、中間地点の7日には76万ユーロまで上昇し、あっという間に新車価格である70万1948ユーロを上回ってしまった。
そして、最終日の締め切り直前3時間で競売はヒートアップし、85万ユーロから120万ユーロまで上昇したところで終了。オークショネア側の手数料も加えれば、エスティメート(推定落札価格)に達する132万ユーロ(約1億5950万円)で落札された。
また、前述の1955年型356スピードスターは35万7500ユーロ(約4320万円)。1967年型911は10万6700ユーロ(約1290万円)。1993年型928GTSは5万7200ユーロ(約691万円)。そして、1997年型Ruf CTR2シュポルトは68万2000ユーロ(約8240万円)と、大方のポルシェたちがエスティメートに届く価格に到達。無事落札となった。
●904GTSは、締切間近に8500万円まで上昇!
一方「プティジャン・コレクション」の904GTSは、締め切り4時間前の段階で46万5000ユーロまで上昇。さらに最後の1時間でビッド合戦となり、最終的にはエスティメートに肉薄する69万3000ユーロ(約8450万円)で、新しいオーナーが決した。
また、7万1500ユーロ(約864万円)で落札された1960年型356Bカブリオレも、エスティメートにはいま一歩のところで到達しなかったものの、その傍らで1966年型912は4万700ユーロ(約495万円)で落札。
加えて、もとより控えめな価格設定だった1971年型914-1.7は1万3750ユーロ(約166万円)、1984年型911カレラ3.2は3万7400ユーロ(約455万円)、1988年型911ターボも9万7900ユーロ(約1190万円)に達し、いずれも無事に落札されることになった。
新型コロナウイルス禍による景気の先行き不安や、対面型オークションに比べると少々高揚感に欠けるオンライン限定オークションでは、この数年間ですっかり高値安定が定着していたポルシェであっても大幅な価格下落は免れないとする予測があり、筆者も概ねその見方に同意であった。
ところがフタを開けてみれば、コロナ禍以前と大きく変わらない堅調ぶりに瞠目させられる結果となった。
やはりポルシェは、いつの時代も確たるファンによってガッチリ支持されている。今回のオンラインオークションでも、その事実が揺らぐことはなかったようである。
●ポルシェ製トラクターは苦戦
ところでいささかの蛇足ながら、今回の「THE EUROPEAN SALE featuring THE PETITJEAN COLLECTION」では、スポーツカー/レーシングカーではないポルシェも出品されていた。1950年代から1960年代に「ポルシェ・ディーゼル」のブランド名で製造された、農業用トラクターである。
プティジャン・コレクションからは1950年型「A111」(推定落札価格1万ユーロから2万ユーロ)と1956年型「Allgaier AP22」(推定落札価格1万5000ユーロから2万ユーロ)が出品。
しかし、それぞれ3960ユーロ(約48万円)および4180ユーロ(約51万円)という、少々厳しい価格で落札されることになった。
またプティジャン・コレクション以外でも、ポルシェ・ディーゼルとしては最終期にあたる1963年型の「Super Export」(推定落札価格3万ユーロから5万ユーロ)が出品されたが、こちらも貴重な農耕用オプション満載ながら2万2000ユーロ(約267万円)という、こちらも出品者にしてみれば不本意な落札価格に終わってしまった。
このシビアなオークション結果は、たとえ「ポルシェ」の名を冠していようとも、クラシックカー以上に購買層が限定されるクラシック・トラクターのマーケットが、コロナ禍の影響もあって足踏み状態にあることを示している……、とも考えられるだろう。
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