後部座席から世界を動かす人のクルマ
リムジンにはさまざまな形があるが、サイズで言えばどれも大きい。ドライバーの満足度よりも、後席の快適性、広さ、豪華さが重視されるクルマだ。
【画像】高級車の中の高級車【ベントレー・ミュルザンヌとロールス・ロイス・ファントムを写真でじっくり見る】 全73枚
既製品のリムジンというものは少ない。リムジンのルーツが馬車であることを考えれば、そのほとんどがコーチビルダーによるオーダーメイドであることも納得がいく。しかし、自動車メーカーのラインナップに並べられているものも少数ながら存在する。
今回は、そうしたリムジンの中から特に優れた18台をピックアップし、年代順に紹介したい。
キャデラック75(1936年)
1936年、キャデラックのフラッグシップとして誕生した「75(セブンティ・ファイブ)」。その長いボディは後席乗員のために使われ、折りたたみ式のリアシートで最大8名、フロントで3名まで乗れるようになっている。1959年モデルには、サイズに見合ったフィンとクロームメッキが施され、栄華を極めた。
1987年、フリートウッドの生産終了とともに、75の歴史に幕が下りた。しかし、排気量7.0L(425立方インチ)という巨大なV8エンジンがわずか4.1L(249立方インチ)にダウンサイズされたときから、その栄光は絵に描いた餅のようになっていた。
それ以来、キャデラックは店頭販売用のリムジンを製造していない。編集部は、すっきりとしたラインのハンサムな1960年代バージョンの75が1万750ドル(約140万円)から売られているのを見つけた。写真:1938年モデル
ロールス・ロイス・ファントムV(1959年)
これほどエレガントなプロポーションと、王室とのつながりが明らかなロールス・ロイス・ファントムVだが、一般人でも手に入れることができる。12万5000ポンド(約2000万円)以下で販売されているものはほとんどないが、今でも大事に乗り継がれていることがわかる。
ロールス・ロイスは、HJマリナー、ジェームズ・ヤング、パークウォードといったコーチビルダーから標準的なボディを提供したが、同じものは2つとない。いずれもクリーミーな6.23L V8エンジンを搭載し、4速ATと組み合わされている。
合計で516台のファントムVが生産され、そのうちの数台は英ロイヤルファミリーをはじめ、世界中の国家元首の手に渡った。しかし、ビートルズのジョン・レノンは、アーティストのスティーブ・ウィーバーによってサイケデリックカラー(写真)にペイントしてもらい、話題を集めた。レノンの車両にはダブルベッドが設置されていたが、他のほとんどのファントムVはフォーマルなベンチシートとチップアップ式の補助席を備え、最大6人の乗客を乗せることができる。
チェッカー・エアロバス(1962年)
一般的なリムジンが豪華さと快適さを最優先するのに対し、チェッカー・エアロバスはできるだけ多くの乗客と荷物を乗せることに重点を置いていた。その理由は、車名の通り空港と都心の間を移動するために使われるからである。そこでチェッカー・モーターズは、象徴的なイエローキャブ(タクシー)のロングバージョンを開発し、6ドアまたは8ドア、ロングホイールベースモデルでは15席もの座席を備えて運行を開始した。
セダンとステーションワゴンが用意されたが、荷物の積載量が多い後者の方が人気があった。5.2L~5.7LのV8エンジンを搭載するが、スピードはあまり重視されていない。現在、チェッカー・エアロバスはクラシックカーとして人気があり、価格は2万ドル(約260万円)からとなっている。ただし、全長236インチ(5982mm)のため、駐車する場所が必要である。
メルセデス・ベンツ600プルマン(1963年)
1963年当時、ロールス・ロイス ファントムVの威厳に唯一対抗できたのはメルセデス・ベンツ600であった。「壮大な」という意味の「グロッサー」の愛称で親しまれ、標準ボディでも全長5450mmと、ほとんどの他車を圧倒していた。600プルマンを選べば、全長は6240mmに伸び、後部に2人分の座席を追加することができる。乗り降りを楽にしたい場合は、6ドアを選択することも可能だった。
487台のプルマンを含む2677台が生産され、そのすべてに評判の高い6.3L V8エンジン「M100」が搭載された。フューエルインジェクションを使用して最高出力250psを発揮し、最高速度200km/hに達する。また、ブレーキや窓、ドアロックなど、数多くの油圧システムにもエネルギーを供給する役割があった。
現在では、標準的な600で10万ポンド(約1600万円)から、プルマンでは少なくともその2倍はする。しかし、後者を購入すると、友人・知人から重度の誇大妄想に陥っていると思われる危険性が高い。
デイムラーDS420(1968年)
24年という長きにわたって生産されたデイムラーDS420(ドイツのダイムラーとは異なる)は、メーカー純正リムジンの中で最も長く販売されたモデルと言える。また、全長5740mm(226インチ)という最長クラスのボディを誇り、その長さを生かした室内では、折り畳み式の中央シートを装着すると最大7席を確保することができた。また、セダンに加え、純正のランドーレット(コンバーチブル)仕様も用意されていた。4.2Lの6気筒エンジンを搭載し、英国の要人から愛された。
このエンジンによって驚くほど優れたパフォーマンスを発揮したが、1992年にラインナップから退いた時には、設計が旧式化していた。しかし、クイーンマザー(エリザベス皇太后)には好まれたようで、現在もロイヤルミューズに保管されている。ウェディングカーのような格好を気にしないのであれば、3000ポンド(約48万円)から誰でも威厳ある移動手段を楽しむことができる。
ZIL-4104(1973年)
1980年代の冷戦時代を舞台にした映画は、威嚇的な姿のZIL-4104なしには成立しない。ソビエト連邦の指導者のために作られたもので、生産されたのはわずか106台。車重3.4トン、全長6339mm(249.6インチ)という巨体を目の当たりにしたら、もう逃げ出すしかない。
しかし、その大きさ、重さ、堂々たる風貌とは裏腹に、装備はかなり手薄であった。革張りの電動シート、エアコン、カセットプレーヤーくらいのものである。防弾・防放射線ガラスを備えているというのは、車内の人間性を物語っている。また、7.7L V8エンジンの燃費に対応するため、120Lの巨大な燃料タンクもぶら下げている。
現在、ZIL-4104を手に入れることができれば、その価格は15万ポンド(約2400万円)からと予想されるが、祖国では100万ポンド(約1億6000万円)近い価格で取引されることもある。
メルセデス・ベンツV123(1976年)
メルセデス・ベンツが誇るW123のプラットフォームからは、セダン、クーペ、ステーションワゴンのほか、リムジンのV123が生まれた。フロント部分は標準的なセダンと同じだが、長いリアドアと跳ね上げ式シートを組み合わせ、7人乗りまたは8人乗りとしたものである。1976年の発売以来、世界中の葬儀屋や大使館の定番となった。
V123は、メルセデス社内では「ラング」バージョンと呼ばれ、フロントキャブのみのベアシャシーも用意された。救急車や霊柩車のボディを載せるために外部のコーチビルダーに供給されたほか、標準的なセダンのリアドアとボディ、ガラスの中間部を延長したリムジンもあった。
エンジンは240Dと300D、さらに洗練された250、そして少数の280Eも用意された。中には、5人乗りに続いて「シュトゥットガルト・タクシー」と呼ばれる名車も登場した。V123は1万3700台が生産され、現在では2500ポンド(約40万円)から購入することができる。
ジマー(1978年)
ジマー(Zimmer)は、その大きなクロームメッキのグリルと同じように、はったりとした力で意見を二分する、オーバー・ザ・トップかネオ・クラシック・ファンか。ニュージャージー州で製造されたジマーは、1978年にポール・ジマー氏によって、現在のすべてのモデルが踏襲される雛形が作られた。その後、1997年にアート・ジマーによって買収され、現在も富裕層や著名人、そして派手な人々にコンバーチブルの2ドアと4ドアモデルを販売している。
ロングホイールベースの4ドアサルーンは、5.0L V8エンジンとATを搭載したフォード・マスタングをドナーカーとして製作されている。外観はレトロだが、エアバッグなどの安全装備や、カリフォルニア州の厳しい排ガス規制をクリアしている。特に、多くの顧客がカリフォルニアに住んでいるため、後者は欠かせないのだろう。価格は35万7000ドル(約4700万円)から。
リンカーン・タウンカー(1980年)
リンカーン・タウンカーは、キャデラック、BMW、メルセデス・ベンツなどのロングホイールベース・セダンに対するフォードの回答である。タウンカーという車名自体は1950年代から存在するが、1980年に発売されたこのリムジンは、後部座席でくつろぎたい人たちのためのクルマである。操縦性よりも快適性を優先し、米国では長年にわたってお抱え運転手の主力として活躍し、結婚式でも花形となった。
米国車らしくエンジンはV8で、初期のモデルには4.9LのウィンザーV8が採用され、後の第3世代モデルでは4.6Lに変更されている。いずれにせよ、走りはゆったりとしたものだが、米国ではわずか1000ドル(約13万円)から購入できる純正リムジンの性格にはぴったりである。
マイバッハ62(2002年)
マイバッハの名は1909年以来、高級車の代名詞であり、1960年からはメルセデス・ベンツ・ファミリーの一員となっている。2002年に登場したマイバッハ62は、ラグジュアリーなクルーザーという雰囲気を醸し出している。全長6165mm、後部座席はあえて2席のみに限定された。個人タクシーのためのクルマというより、スーパーリッチな人たちのためのクルマだった。
マイバッハ62は、5.5L V12ツインターボ(最高出力605ps)のおかげで、0-100km/h加速を5.2秒で駆け抜けることができるなど、「タイム・イズ・マネー」のパフォーマンスを持つ。それでも売れ行き不振で、ショートホイールベース版の57も登場したが、世界的な不況の中で状況を好転させることはできなかった。
約3000台が販売され、2012年に生産が停止された。今日、このマイバッハを捜すとしたら、5万ポンド(約800万円)から購入することができる。
ベントレー・ステートリムジン(2002年)
贈り物として、ベントレー・ステートリムジンは最高の1台と言えるだろう。2002年、エリザベス2世のゴールデンジュビリーのために、ベントレーをはじめとする英国自動車業界が製作したもので、以来、この2台は英国王室で定期的に使用されているそうだ。礼儀として一度だけ使って、あとはクローゼットにしまっておくような贈り物ではない。
ユニークなデザインを持つステートリムジンは、ベントレー・アルナージのプラットフォームをベースに、830mm延長されている。ボディはマリナー部門による特注品で、女王が堂々と乗り降りできるよう、ベース車よりも高いルーフラインを採用し、リアドアも同じ理由で直角にヒンジが付けられている。また、大急ぎで宮廷の帰れるよう、アルナージRから移植された最高出力400psの6.75L V8ツインターボを搭載し、最高時速は210km/hに達する。動物好きな女王に配慮して、シートは革製ではなく布製だ。この車両は現在、チャールズ3世に受け継がれている。
ハマーH2(2002年)
ハマーH2は、高級SUVとして親しまれることは少なかったが、ストレッチリムジンのベースとして新たな生命を与えられている。中には全長12.3mにも及ぶものもあり、その重量とシャシーへの負担を考慮し、3つのリアアクスルが必要となっていまる。長大な後部座席には、最大で24人が座ることができる。
人気の理由は、パワフルなエンジンとシンプルなセパレートシャシーにある。切断や拡張が比較的容易なのだ。また、サイドボディもフラットな形状のため、新しいパネルや装飾を施すことも難しくない。都会での誕生日パーティーに必要なら、4万5000ポンド(約735万円)から売られている。
ロールス・ロイス・ファントムEWB(2005年、2017年)
標準車がすでに至高のリムジンなのに、ロング化したモデルを何と呼ぶか。ロールス・ロイスは、ファントム・エクステンデッド・ホイールベース(Extended Wheelbase)、略してEWBと命名した。2005年のジュネーブ・モーターショーに登場したファントムEWBは、後部座席から世界を動かす人たちの間ですぐに人気を博した。エンジンもパワフルで、6.75L V12から555psを発生する。
2012年のフェイスリフトでは、リアクッションが改良され、さらに快適なものになった。2017年、ファントムVIIからVIIIに世代交代し、EWBも標準車と同時に導入された。47万9090ポンド(約7850万円)からという価格設定にふさわしく、どこまでも豪奢なリムジンである。
ホンチーH7(2013年)
従来の高級車メーカーに負けないよう、中国のホンチー(紅旗)は国内のアウディA6Lのようなモデルに対抗するためにH7を開発した。運転席の乗り心地は快適だが、後部座席は3名まで乗車可能だ(2名乗車の方が快適)。シートヒーター、シートクーラー、マッサージ機能、インフォテインメント・コントロールを備えたドロップダウン式アームレストなどが用意されている。
H7はトヨタ・クラウンのシャシーをベースにしており、2.0L 4気筒ターボ、2.5Lおよび3.0L V6が設定された。6速ATが頑張ってくれているが、パフォーマンスはそれほどダイナミックなものではなく、4万ポンド(約650万円)というロープライスをもってしても、ライバルを心配させることはなかっただろう。
メルセデス・マイバッハSクラス・プルマン(2015年)
この公式画像からも明らかなように、メルセデスはSクラス・プルマンを、かつての600プルマンに非常に近いポジションに置いている。エンジンは最高出力455psの4.6L V8ツインターボと、530psの6.0L V12ツインターボの2種類が用意された。全長は6499mmで、標準的なマイバッハより1.0m以上長い。
電動パーティションで隔てられた後部スペースは、向かい合う4席の座席配置など、さまざまなレイアウトが選択できる。新車価格は50万ユーロ(約7180万円)で、世界中に数台の中古車が存在するが、いくらで売ってくれるかは、よほど慎重に尋ねなければわからないだろう。
ベントレー・ミュルザンヌ・グランドリムジン(2016年)
グランドリムジンには、標準のミュルザンヌ・エクステンデッド・ホイールベースから1000mm延長されて全長6575mmとなったボディなど、多くの魅力がある。これは、ベントレー純正のリムジンとしては史上最長クラスのもので、2組の後部座席が向かい合うようにするためだ。ウッドパネルのピクニックテーブルや革張りのハンドステッチなど、伝統的なラグジュアリーにこだわっている。
一方で、運転席と後部の間にあるガラス製パーティションには、現代的な技術も盛り込まれている。ボタン1つでスモークをはるエレクトロクロミックガラスとなっており、後席のプライバシーを確保することができる。ベントレーは性能を公表していないが、標準のミュルザンヌEWBと同じ最高出力512psの6.75L V8ツインターボを使用する。価格を気にする人には買えないだろう。
アウルス・ステートリムジン(2018年)
ソビエト時代のリムジンは、西側諸国のリムジンと比べて少し不格好に見えるかもしれないが、最新のアウルス(オーラス)はそんなことはないだろう。このステートリムジンは「プロジェクト・コルテージ」の名で開発され、車重6000kg、全長7.0mの金属と複合装甲の塊であると同時に、最先端の移動通信司令センターでもある。また、考えうる限りの贅沢品を装備しており、非常に洗練されている。
デザインも構造もすべてロシア製であるにもかかわらず、搭載する4.4L V8ツインターボはポルシェ製だ。約600pspを発揮し、他のアウルス・リムジンには、800psのV12の搭載も計画されているそうだ。
大統領専用車(2018年)
トランプ元大統領は前任者とあまり仲良しではなかったようだが、オバマ政権が2013年に1600万ドル(約2100億円)をかけて発注し、2018年に納車された2台の大統領専用車(Presidential State Car)には驚いたに違いない。「ザ・ビースト」と呼ばれる巨体の重量は9072kgと、並みの自動車ではない。
キャデラックらしい外観とエンブレムを身に着けているが、GMCのトラック用シャシーをベースに改造され、分厚い装甲と自衛装備による重量に対応している。装備の中には、自動消火装置、酸素供給装置、ランフラットタイヤ、防弾・防爆ガラスなどがある。2018年9月、ニューヨークで初めて姿を現した。
その大きさと重さにもかかわらず、キャデラックに与えられた課題の1つは、機動力の確保であった。これには、テロリストによる待ち伏せや道路封鎖といったシチュエーションから大統領を脱出させる場合に、高速でUターンを行えるようにする、という要求も含まれる。
2台のビーストは常に同時に使用され、ナンバープレートも同一であるため、どちらに大統領が乗っているかわからない。また、大統領がヘリコプターで移動する際にも、襲撃者を撹乱するためにこの作戦がよく使われる。現在、大統領専用車は引退後も、その秘密が明かされないよう破壊されることになっているため、中古車を探すことはできない。
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