サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1963年式)
オーナー:ジャスティン・ハリントン氏
【画像】大型バスからトライアンフまで ハリントン コーチビルダー・ボディの英国クラシックたち サンビーム・タイガーも 全132枚
「名字が同じなのは、偶然ではありません。トーマス・ハリントン&サンズ社の創業者、トーマス・ハリントンはわたしの曽祖父なんです」。とジャスティン・ハリントン氏が誇らしげに話す。
彼が所有するレッドのハリントン・アルパインは、1963年式のシリーズC。その年にサンビームがアルパインをフェイスリフトしたため、製造期間は非常に短い。フロントガラスの形状が変更したことで、独自のルーフはフィットしなくなってしまった。
その後のシリーズDは更に希少で、生産数はたった6台。そのまま、廃業を迎えている。
「親族という縁がなければ、これを所有することはなかったかもしれません。70年近く続いた会社でしたが、廃業から60年が経過しています。いわば、一家の歴史を物語る象徴。時が来たら、息子へ受け継ぐつもりでいます」
このクルマは、ジャスティンが所有する2台目のハリントンらしい。もう1台は、ワークスチーム用として1962年に3台だけ作られた、ル・マンのレーシングカー。その年にル・マン24時間レースを戦っている。
「アルパイン・シリーズCへ乗るのは、イベントの時だけ。年末には、ヨークシャー州で開かれる定期イベントにも参加しようと思っています」
「数1000kmは毎年走ります。クラシックカーは使った方が状態を保てます。クルマを劣化させる手っ取り早い方法は、乗らないことでしょうね」
サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1963年式)
オーナー:アンディ・ゴールドスミス氏
ハリントンが手を加えたサンビーム・アルパインは、多くのサンビーム・ファンからコレクターズ・モデルとして珍重がられている。実際、アンディ・ゴールドスミス氏のように、古くからのマニアが大切にしている場合も多い。
レッドのハリントン・アルパイン・シリーズCへは、1980年代初期に開かれたオーナーズ・ミーティングで出会ったという。その後20年ほど行方不明だったが、2021年にオークションへ出品され、念願叶って落札に至った。
「アルパインのスタイリングが好きです。後期のハリントン・ボディは特にね。ル・マンも人気ですが、歴代で唯一、ハッチバックでリアにフィンがあるシリーズCが自分では1番です」。と話す彼は、標準のアルパインも2台所有している。
当時のハリントンは、ノーマルのエンジンのほか、3段階のチューニング仕様もオプションとして設定していた。「これには、ステージ2のエンジンが載っています。実際、ノーマルよりパワフルなようです」。とアンディが説明する。
同じハリントン・アルパインは2台とない
「雨がちの日には、非常に頼りになります。妻もハリントンの方が気に入っているようです」。サンビーム・ハリントン・ル・マンと異なり、ルーフ後方へ通気孔が備わるため、走行時は空気を流し換気できる。雨でも、窓は曇りにくい。
コーチビルダーによる少量生産ということで、ハリントンは顧客の要望へ可能な限り応えた。オプションも幅広く用意され、まったく同じハリントン・アルパインは2台とないと考えられている。
「これはバケットシートが装備され、ドアの内張りにはパッド付きの膝当てが追加されています。快適で優れたオプションだと思います」。オープンボディのサンビーム・アルパインより、静かだとも話す。
「オリジナルのステアリングホイールは、過去に紛失してしまったようです。恐らく、カルロッティ社製だったはず。クラクションのセンターボタンがない、唯一の設定でしたから」
サンビーム・ハリントン・ル・マン(1962年式)
オーナー:グレン・ブラッケンリッジ氏
多くのハリントン・アルパインは、レストアを受け大切に運転されているが、ハリントン・マニアのグレン・ブラッケンリッジ氏は違う。長年のレース・キャリアを保つべく、レッドに塗られた1台でサーキットを巡っている。
「以前のオーナーは1980年代にこのクルマでラリーを始め、1990年代には本格的なチームを組んでいました。ラリー・モンテカルロ・ヒストリックに5回も出場したといいます」。とグレンが説明する。
「その後は共同保有になり、ラリーイベントを数回戦っています。最高で2位に輝いています。多くのサンビームより、モータースポーツでの戦歴は多いと思いますよ」
グレンがこのクルマを発見した時は、ボロボロの状態だったらしい。立ち上げ当初からのサンビーム・アルパイン・オーナーズ・クラブのメンバーとして、復活作業へ挑むのは自分しかいないと考えたという。
周囲のクラブメンバーは、改造されたハリントン・ル・マンへ興味を示さなかった。しかしレーシングドライバーとして経験を積んできた彼は、ハリントンでイベントへ参加する計画を立てていた。むしろ好都合だったようだ。
エンジンは2000年代までイランで現役だった
「実際のところ軽くはなく、サーキットよりラリー向き。上位に食い込むことはありませんが、ラップタイムを削るのが面白い。整備を自分でこなせるので、リタイア率が高いイベントで完走できた時は、特に充足感が高いですね」
過去には、部品の入手が困難だった時代もあったとグレンは振り返る。だが近年はハリントンの価値が見直され、一部の部品が再生産されだし、状況は改善しつつあるという。
「サンビーム・タイガーのオーナーズクラブが、助けてくれました。タイガーの部品が復刻され始め、ハリントンも恩恵を受けています。2000年代まで、エンジンはイランで現役だったことも大きいですね。そこから輸入したこともあります」
トライアンフGTR4 ダヴ(1964年式)
オーナー:ゲイリー・スコット氏
ハリントン・アルパインとハリントン・ル・マンの生産は、1963年に384台目がラインオフしたところで終了する。しかし、1966年に廃業するまで小規模プロジェクトが複数進められた。
サンビーム・タイガーをベースにした、ハリントン・タイガー・クーペは1台、デイムラーSP250のクーペは3台が製造されている。また、トライアンフのカーディーラー、LFダヴ社と契約を結び、トライアンフTR4のハードトップボディも提供されている。
その頃、標準のTR4は968ポンドで購入できたが、クーペのトライアンフGTR4 ダヴには1250ポンドが付けられた。割高ではあったが50台から55台が生産され、一定の成果は残したといえる。
「以前は、トライアンフTR4を所有していました。特にハリントンの知識はなかったのですが、GTR4 ダヴならベビーカーを荷室に積み、子供をリアシートに載せてドライブできると考え購入したんです」
「クラッシュした状態で、標準のTR4なら手は出さなかったでしょう。でも、ハリントンが手掛けたボディや部品の状態は良かったんです。それが決め手でした」。と振り返るゲイリーは、1984年に購入。3年をかけてレストアを仕上げた。
この個体は、GTR4 ダヴとして製造された最後のクルマに当たる。つまり、ハリントン最後のクルマであることも意味する。
固定のルーフと2+2のシートだけでなく、オーバードライブと81L入るガソリンタンクが標準装備。エンジンもチューニングを受けているのが特徴だ。「車重は増えていますが、空力的に優れることも手伝い、最高速度は通常のTR4より大幅に高いんです」
ゲイリーがオーナーになってから、35年以上が経つ。過去にレストアした部品を、再びリフレッシュさせている途中だという。「過去に自分で締めたボルトを、今は順番に外しているところです」
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