新型EVである日産 アリアには、シャークフィンアンテナが1個のグレードと、2個付いて”猫耳”のようになっているグレードがある。
アンテナが2個のグレードは、プロパイロット2.0を搭載しており、運転席側にあるアンテナは準天頂衛星「みちびき」からの情報を受信するためにあるという。
他社は1個で成立!? 可愛く見えちゃう日産アリア「猫耳」仕様のメーカーが明かした意外な理由
スカイラインにもプロパイロット2.0は搭載されていたが、「みちびき」を利用していなかったので、1個から2個に増えても「そうか……」と思うのだが、他社で「みちびき」を利用しているシステムを採用しているホンダ レジェンド、スバル レヴォーグは、シャークフィンアンテナは1個しか搭載していない。
あえて1個にしなかったのか? 日産のシステム的に2個じゃないと成立しなかったのか? 日産、ホンダにそのワケを聞いてみた。
文/高根英幸
写真/NISSAN、ベストカー編集部
■ホンダ レジェンドが1つで、アリアが2つ必要なワケとは!?
日産 アリア。プロパイロット2.0を搭載しているグレードはツインシャークフィンアンテナとなる。猫耳グレード!?
日産の電動車が売れている。軽規格EVのサクラだけでなく、シリーズハイブリッドのe-POWERを採用したノートやキックス、セレナも人気で、安定して乗用車の登録台数で上位をキープしている。
そんな中、高級クロスオーバーEVのアリアも3月からデリバリーが始まり、徐々に納車が進められているようだ。しかし5月末時点で5000台近くのオーダーが入っており、最近契約した人は、いったい納車がいつになるかわからないケースも多く、1年待ちという人もいるようだ。
ところでこのアリア、プロパイロット2.0を搭載しているグレードだけがシャークフィンアンテナを2つ装備しており、そのスタイリングがまるで猫耳を付けているようでカワイイと噂になったのをご存知だろうか。
追加されているシャークフィンアンテナは当然、プロパイロット2.0のための装備であり、それはGNSS(全球測位衛星システム)を利用するためのものだ。
アリアのプロパイロット2.0は、正確な位置情報を得るために日本の準天頂衛星「みちびき」の電波を受信して利用するようになっている。そのためのアンテナらしい。
しかし、ホンダ レジェンドのホンダ・センシングエリートはレベル3の自動運転のために「みちびき」の電波を利用しているが、シャークフィンアンテナはルーフに1つだけだ。どうしてアリアは2つのシャークフィンアンテナを装備したのか、はっきりと説明した記事は見当たらない。
そこで日産とホンダにシャークフィンアンテナの謎について、改めて質問してみた。
まずアリアの2本のアンテナについて、それぞれのアンテナの機能とあえて2本にした理由を訊いた。答えてくれたのは日産自動車 電子技術・システム技術開発本部 AD/ADAS先行技術開発部 ECU開発グループ 主担 大埜 健(おおの たけし)氏だ。
後ろから見ると猫耳がよりはっきりとわかる。助手席側はラジオ受信用、運転席側にあるアンテナは準天頂衛星「みちびき」からの情報受信用となる
「助手席側はラジオ受信用、運転席側はGNSS受信用です。現実的な大きさのシャークフィン1つではラジオアンテナとGNSSアンテナの両方は収まらなかったため、2つにしています」
それに対してホンダはレジェンドのホンダ・センシングエリートでシャークフィンアンテナを1つにしている理由を以下のように回答してくれた。答えてくれたのは本田技研工業 広報部 商品・技術広報課 北川 優氏だ。
「ホンダ・センシングエリート搭載のレジェンドの場合、みちびきのSLAS/SBAS(1m以下の精度を実現する測位補強サービス)の測位を実現するため、一般的なナビ用よりもサイズの大きい、L1S/L1Sb信号に対応したマルチGNSSアンテナが内蔵されています。
またシャークフィンアンテナにはGNSSとオーディオラジオ用の受信機能が集約されており、そのほかのテレマティクスやTVなどのアンテナについてはそれぞれ別の場所に適切に配置しています」
「Honda SENSING Elite」を搭載したホンダ レジェンド。シャークフィンアンテナはひとつだ
つまりレジェンドのほうは、センシングエリートのためにシャークフィンアンテナを専用開発して搭載しているのに対し、アリアはプロパイロット2.0非搭載グレードと共通のシャークフィンアンテナに収まるように、アンテナユニットを2つに分割して搭載している。
アンテナを分割することで得られるメリットは、アンテナユニットの金型開発費用などのコスト削減と、空力性能への影響だろう。
実際、レジェンドでは1つのシャークフィンアンテナに収めるようGNSSアンテナとラジオ用アンテナも小型化するなど、シャークフィンアンテナだけでも結構な開発コストがかけられている。
そもそも赤字覚悟で世界初の自動運転レベル3を実現したレジェンドと、少しでもユーザーの負担を減らしてクロスオーバーEVの普及を図りたいアリアでは、目的がまるで違うのだ。
あとはデザインへの影響、これはデザイナーや開発主査のこだわりと言ってもいい部分だ。
トランクリッドがあるセダンのレジェンドは、車格的にも少々シャークフィンアンテナが大きくても気にならないが、SUVのアリアではリアゲート前のルーフエンドに装備されるシャークフィンアンテナは少しサイズアップしただけで存在感が出て目立つことになる。
またトランクリッドをもたないアリアのほうが、リアウインドウ付近で発生するカルマン渦(空気の乱流)が大きいので、シャークフィンアンテナを2つにすることでボルテックスジェネレーターのような整流効果も期待できそうだ。
シャークフィンが2つで「猫耳」と呼ばれたのはカワイイが、もし1つでサイズアップされていたら「チョンマゲ」とでも呼ばれてカッコ悪い(これは好みの問題だが)と評判になったかもしれない。
■アンテナが増えても呼び方はプロパイロット2.0のワケ
リアスポイラーの直前に位置するアリアのツインシャークフィンアンテナ。前部が絞り込まれたシャープな流線型だが、前後から見たシルエットはかわいい猫耳となる
もうひとつアリアで疑問なのは、スカイラインのプロパイロット2.0では「みちびき」は利用していないが、アリアは同じ2.0でも「みちびき」を利用するなど進化している印象だ。社内もしくは対外的にも、両者に呼称の違いはなくプロパイロット2.0なのだろうか?
「はい、おっしゃるとおり進化しておりますが、呼称は同じ「プロパイロット2.0」です」(大埜氏)
レベル2のハンズフリーという機能は変わらないため、呼称は変えていないようだ。個人的には2.1にしてもいいのでは、と思うが販売の現場が混乱する恐れもあるので、2.0のままにしているのだろう。
ちなみに「みちびき」は準天頂衛星と呼ばれる種類の、GNSSのなかでもちょっと特殊な軌道をもつシステムで、特定のエリアの上空に留まることで、電波障害を抑え精度の高い測位も実現するもの。
クルマのように移動する乗り物では限界があるが50cm位までは現在精度として追求できるほか、システムとしてはセンチメートル単位での測位を可能にしている。
厳密に言えばグローバルではないが測位衛星を用いた衛星測位システムであり、より精度が追求できるものなのでGPS(米国による全球測位衛星システム)を補完して精度を高めるためにも利用されるのだ。
「みちびき」は地球の上空を周回しているが、地上から見ると日本とオーストラリアの上を8の字を描くように周回(現在は4機のうち1機は赤道上の静止衛星)している。
しかも日本の上空の滞在時間(およそ8時間)が長くなるように日本のほうが短い軌道(その分ゆっくり移動するようになる)を描くようになっているのだ。
GNSSを利用しているのはクルマだけではなく、スマホなどで位置情報を利用するだけでなく、地形の変化なども計測することで地震予知などにも用いられている。「みちびき」の本格運用が始まったのは、2018年11月とまだ最近のこと。これから対応機器の普及により色々なサービスの充実も期待できる。
もちろんクルマの自動運転システムも、自車位置の検出精度が高まることにより、高精度な三次元地図とカメラやレーダー&レーザーセンサーによる障害物認知と合わせて、レベル3以上のシステムが安定して動作することが可能になったのだ。
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