『10年10万キロ・ストーリー』の著者が購入した718ボクスターが、最初の車検を迎えた。果たして、クルマ知能化時代ならでのは新種の費用がかかったのだが、それはなんだったか?
気になっていたことがあった
たて続けにパンクや幌を内側から引っ張るテンションロープが切れるといったトラブルに見舞われた我が718ボクスターも購入から3年が近付いてきて、車検を迎えることになった。
最近の自動車ディーラーは念入りというか、コントロールが厳しいというか、車検の予約を1か月以上前に求められる。
【前話】「初トラブルと、イヤな予感」
「ピッタリその通りじゃなくても構いませんよ~。ご都合のよろしい、だいたいの日にちを教えて下さい」
担当のSさんの鷹揚な昭和っぽい対応には、いつもホッとさせられている。これが、今っぽい杓子定規な対応だったらギスギスしてしまうだろう。
車検では法律で定められた項目を点検し、修理や部品交換が必要ならば執り行われる。予約と同時に、不調だったり、気になるところなどがあったら確認を頼むつもりだったが、特にない。絶好調だからだ。現代のポルシェの新車が3年で調子悪かったら困る。
その代わりに、確認しておいて欲しいところがひとつあった。それは、床下の様子だった。11月に、1960年型のファセルヴェガ・ファセリアというクルマの持ち主を訪ねた際に、山道で擦ってしまったからだ。
落ち葉が道にたくさん積もって、段差を覆い隠してしまい見えなかった。停まりそうなくらいのスピードで走っていたけれども、ガサッという音を立てて地面が718ボクスターの床下を擦った。その時は舗装路に出て、すぐに覗き込んで確かめたが特に異常は認められなかったけど、リフトアップしてみないと安心できない。
ファセリアは素晴らしかった。持ち主がオランダで購入し、ドイツのレストアラーに預けて徹底的に仕上げさせただけあって、新車のように輝いていた。ファセリアは、「HK500」や「ファセル2」などのファセルヴェガとは違って、オリジナルエンジンを搭載し、ひと回り小さなボディが架装された別ラインのクルマだ。それでも、特徴的なフロントグリルとヘッドライトはひと目でファセルヴェガだとすぐにわかるし、内装の工作と仕上げの上質さも兄貴たちと変わらない。
アールデコ様式を彷彿とさせるリアフェンダーと一体化したテールライトや、一見すると天然の木目のように見えるものの、専門職人によって描かれたフォーボア技法による木目を持つダッシュパネル、そして、精妙に配置されたメーターなど、贅を尽くした仕立てに感嘆させられた。
その素晴らしいファセリアを撮影する場所を探すために、718ボクスターに乗り、欲張って「もう少し奥へ、もう少し奥へ」と細い山道を上って行ってしまった挙句のことだった。
「アプルーブド保証」とは?
ポルシェセンター浦和で担当のSさんに車検用の点検と一緒に床下チェックもお願いし、自賠責保険代金2万1500円と重量税2万4600円、印紙代1000円などを現金で先払いして718ボクスターを預けた。
代わりに貸してくれたのが、代車の718ケイマンS。僕の住む集合住宅の機械式駐車場に駐めることができるのは全高が1500mm以下のクルマでなければならなかった。
「毎日乗るわけではないので、代車はなくても構いませんよ」
そうは言ってみたのだが、Sさんは優しく貸してくれたというわけだ。
「郵送でもお送りしていると思いますが」とSさんが取り出したのが、「ポルシェ アプルーブド保証」のリーフレットだった。
聞き馴染みがない。
「新車から3年間付いている保証を延長できるものだとお考え下さい」
消耗品以外の、エンジンやトランスミッションなども含む故障を修理するための代金が保証される。初年度登録から15年まで延長可能だ。代金は718ボクスターの場合だと、1年間で10万2300円、2年間だと18万7000円。
結構な金額だし、自分の718ボクスターには故障など起きる素振りも伺えないから、検討することもない。その前に11年13万km乗ったボクスターでも、壊れたのは助手席側のパワーウインドウの昇降に関連する小さなパーツだけだったから、その気にもならない。はたして、加入する人がいるものなのだろうか?
「ウチでは、まだいらっしゃらないのではないでしょうか。私のお客様にはいらっしゃいません」
ただ、このアプルーブド保証は「スタンドアローン」というタイプも用意されていて、そちらは保証が切れたクルマやポルシェ認定中古車以外の中古車が対象となっている。718ボクスターの場合は、1年間で14万5750円で、2年間で23万450円だ。年数が経過したポルシェに乗っている人は検討したくなるのかもしれない。現に、993型911に乗る知人に話したら「それはいい。すぐに入りたい」と言っていた。
1週間後、車検完了の連絡が来た。途中経過の報告を待っていたのだが、報告が来るわけがなかった。消耗部品以外は交換する必要がなく、もちろん修理なども不要だったからだ。これまで、1年ごとの定期点検も受けており、どこにも問題点や課題などない健康体だということが判明して安心した。部品代と工賃、その他合計金額は21万4123円也。23円マケてくれて21万4100円也。
消耗部品以外は交換せず、何も修理も行っていないので、車検費用としてはこれが最低額となるのだろう。ほかに、ロードサービスの「ポルシェ アシスタンス」の年会費が8500円発生した。
また、ディーラーを経由しない支払いとしては、インターネットに接続し、車内にWiFi環境を構築するための「ポルシェ コネクト」使用代金が向こう1年間で3万1900円。最初の3年間は無料だった車載SIMカード代だ。スマートフォンのアプリを通じて、クレジットカードからの自動引き落としで支払った。
クルマを購入した直後は、スマートフォン内のポルシェ コネクトのアプリ経由でカーナビの目的地設定を行っていたが、カーナビのオンライン検索を音声入力で行うとさらに便利に使えることが判明した。ならば、コネクトサービスに頼らなくても良いのかと思ったが、オンライン検索ではインターネットに接続する必要があるので、コネクトサービス自体は使用するのである。これについては、次回以降に詳述する。
SIMカード代金について
僕からリクエストした床下の点検も、リフトアップした際にアンダーカバーを脱着して行ってもらい、無事が確認された。
車検は無事に終了し、代金は安くも、不当に高いというわけでもないと感じた。前のボクスターに乗っていた時に高額の支出となったのは車検よりも、ブレーキディスクの交換だった。それはまだ先の話だ。
前のボクスターの場合と違うのは、ロードサービスと車載SIMカードの代金が発生していることだ。ロードサービスについては、パンクの章で詳しく述べている通り、加入しておいて良かった。単にトラックで運んでもらっただけでなく、うっかりとパンク修理キットを使わずに済んだことに関連し、僕の時間と費用面での負担を減じてくれた。
ロードサービスを使わなかったら、自宅ガレージで車載のパンク修理キットを使ってディーラーの工場へ自走して運び込むところだったが、担当Sさんへ電話したことでそれを避けられた。パンク修理キットを使ってしまうと、その後にホイールを清掃したり、空気圧センサーを交換しなければならなくなり、事後の面倒が発生してしまう。パンク修理キットは、それ相応の事態でないと使えないことがわかった。
車載SIMカード代金についても、安くはないけれども支払いを停止することは考えられない。それほど、オンライン検索は便利で、音声入力で使用すると便利さが倍増する。もう、カーナビ画面のパネルを1文字ずつタッチして目的地を指定することはなくなった。
カーナビと言えば、最後にオチが待っていた。仕上がった718ボクスターを受け取り、帰路に着いたのだが、途中でカーナビの地図ソフトが更新されていないことが判明してUターンした。これも、リクエストしていたのだが、伝わっていなかったようだ。インストールに1時間掛かった。
車載のカーナビをいつまで使うかについても、いずれ判断する必要に迫られるのだろう。現在でも、自分のiPhoneを接続し、AppleCarPlayを経由してGoogleMapを使うこともあるのだから、そちらをメインに使うようになれば車載カーナビは使わなくなる。
クルマ知能化時代だから、クルマがインターネットに接続することによる便益の拡大は日進月歩なので、ユーザーもアップデイトが怠れない。クルマ知能化の先史時代では、車検ではメカニズムだけをメインテナンスするだけで良かったが、知能化時代に入った現代ではディーラーもユーザーもそれだけでは済まされなくなった。今後は、車検という制度やディーラーサービス、そのビジネスなども大きく変わっていくに違いない。
文・金子浩久
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