■戦略的な新型アクアの装備と価格
2021年7月19日、トヨタ「アクア」が2代目にフルモデルチェンジしました。先代(初代)アクアの登場は2011年なので、約10年ぶりの全面刷新です。
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新型アクアは、従来モデルと同じくコンパクトなハイブリッド専用車です。ハイブリッドシステムやプラットフォームは基本的にトヨタ「ヤリスハイブリッド」と共通ですが、異なる点もあります。
それはヤリスハイブリッドに比べて機能や装備を上級化させながら、コスト低減も図ったことです。
一般的に上級化とコスト低減は相反する要素とされるので、両方を同時に実行することは珍しいです。
まずアクアとヤリスハイブリッドの機能や装備と価格を比べてみましょう。
どちらも最上級グレードは「Z」。2WDのモデル同士を比べてみると、価格は新型アクアが240万円、ヤリスハイブリッドが232万4000円と、新型アクアのほうが7万6000円高く設定されています。
しかし新型アクアはホイールベースが50mm延長され、前後席に座る乗員同士の間隔もヤリスハイブリッドよりも広くなって後席の足元空間に余裕があります。ヤリスに4名で乗車すると窮屈ですが、アクアであれば不満なく乗車することができます。
さらに新型アクアは装備も充実しており、全車に100V・1500Wの電源コンセントと非常時給電システムを標準装着しました。この装備はヤリスハイブリッドでは4万4000円のオプションです。
またヤリスハイブリッドのホイールは15インチのスチール製ですが、アクアには15インチのアルミ製が標準装着されます。この価格は6万円に相当します。
同様にアクアにはLEDフォグランプ(2万円相当)、10.5インチディスプレイオーディオ(ヤリスハイブリッドは8インチを装着/価格差は3万円相当)などが加わります。
スピーカーの数は新型アクアが4個なので、6個搭載されるヤリスハイブリッドのほうが充実していますが、全般的に見ると装備は新型アクアが上回っているといえます。
後席の居住性が向上することも考慮すると、新型アクアの価格がヤリスハイブリッドに比べて7万6000円の上乗せに収まるのであれば、新型アクアは割安感があるでしょう。
その一方で新型アクアは駆動用電池として、売れ筋グレードに「バイポーラ型ニッケル水素電池」を使っています。
燃費効率では、ヤリスハイブリッドが使うリチウムイオン電池に比べて不利ですが、バイポーラ型ニッケル水素電池にすると価格を安く抑えられます。
また初代アクアに搭載された従来のニッケル水素電池に比べると、サイズがコンパクトという特徴があります。
このように、新型アクアはヤリスハイブリッドよりも装備を充実させ、電動パワーシートなどのオプション設定も追加しながらコスト低減もおこなって価格の上昇を抑えるなど、買い得だといえます。
WLTCモード燃費は新型アクア Z(2WD)が33.6km/Lなので、ヤリスハイブリッドZの35.4km/Lより下回りますが、それでも比率に換算すると6%に収まり、バイポーラ型ニッケル水素電池によるコスト低減を重視しました。
ただし新型アクアで燃費を重視した「B」だけは、リチウムイオン電池を使ってWLTCモード燃費も35.8km/Lとしています。これはヤリスハイブリッド「G」と同じ数値です。
通常であれば、新型アクアもすべてリチウムイオン電池にしてZの価格をもう少し高くするか、同じ価格にするなら装備を減らすということも考えられるでしょう。
それなのに新型アクアは新たにバイポーラ型ニッケル水素電池を搭載して、充実した装備と割安な価格を最小限度の燃費悪化によって達成させました。
新型アクアの装備や燃費、価格は、相当緻密に計算されたものだといえそうです。
※ ※ ※
新型アクアの装備や価格設定が考え抜かれたものだということは、グレードごとに比べてもよくわかります。
最上級のZ(2WD)の価格は前述のように240万円。ひとつ下の「G」(2WD)は223万円なので価格差は17万円です。
4WD仕様も含めて、この価格差でZには15インチアルミホイール(G・4WDは4万9500円でオプション設定)、バイビームLEDヘッドランプ&LEDフォグランプ(同11万円)、ディスプレイオーディオの10.5インチ化(同3万8500円/ほかのグレードは7インチ)が加わります。
さらにオプション設定がない装備として、Zにはフロント間欠ワイパーの時間調節機能も加わり、装飾類も充実。総額では、ZはGに対して22万円相当の価値を加えながら、価格差は17万円に抑えました。
注意したいのは、G(4WD)を選んで、15インチアルミホイール+バイビームLEDヘッドランプ&LEDフォグランプ+ディスプレイオーディオの10.5インチ化をオプションで加える場合です。
オプション価格は総額19万8000円の上乗せになり、17万円高いZ(4WD)の価格を超えてしまうのです。
Z(4WD)には上記のオプション装備がすべて標準装着され、そのほかの装備も加えながら価格差を17万円に抑えたので、G(4WD)にオプションで加えると合計価格がZを上回る逆転現象が生じました。
実際に購入するときは、G(4WD)に多くのオプションを加えて損をしないよう、Z(4WD)を選ぶようにというアドバイスが営業マンからされるかと思いますが、グレードに応じて価格の割安感に大きな差が生じるこの価格設定は少々わかりづらいといえます。
■なぜ新型アクアの月販目標台数はヤリスよりも多い?
このような価格設定にした背景には、価格競争力を強化する狙いがあります。割安な最上級グレードのZを中心に、新型アクアの売れ行きを伸ばしたいというわけです。
新型アクアのライバルになる上級指向のコンパクトハイブリッドには、日差「ノート オーラG」(261万300円)やホンダ「フィット e:HEV リュクス」(242万6600円)があります。アクア Z(2WD)の装備と240万円という価格であれば十分に対抗できるでしょう。
新型アクアの月販目標台数は9800台です。ヤリスはハイブリッド車とガソリン車を両方用意して7800台であることを考えると、新型アクアはハイブリッド車のみの設定でありながら月販目標が多く設定されています。
トヨタ車では、ヤリスや「ヤリスクロス」、「ルーミー」といったコンパクトな車種が販売ランキングの上位に入っており販売が順調ですが、なぜ新型アクアを大量に販売する必要があるのでしょうか。
新型アクアがバイポーラ型ニッケル水素電池を採用したり、Zの価格をあえて割安にしたりするのも、1か月に1万台近くを売るための戦略なのです。
その理由として、車種数の減少があります。最近トヨタは「マークX」「プレミオ/アリオン」「ポルテ/スペイド」「プリウスα」などを廃止しました。
そのほかにも「アルファード」が好調に売れる一方で姉妹車の「ヴェルファイア」は低迷し、「プリウス」「クラウン」「C-HR」なども伸び悩んでいます。
2010年にトヨタは国内で153万台の新車を販売しましたが、2020年は145万台です。コロナ禍の影響があったとはいえ、10年前と比べて5、6%減りました。
しかも新車市場に占める軽自動車の比率は、2010年は35%でしたが、2020年は37%に上昇。2021年1月から6月は38%に増えており、安全装備や運転支援機能の充実でクルマの価格が上がる一方で所得は伸び悩むため、軽自動車への乗り替えが進んでいます。
そうなると小型/普通車が中心のトヨタは、軽自動車に対抗できるコンパクトカーを強化する必要があります。
厳しい2030年度燃費基準も視野に入れると、ハイブリッド専用車の新型アクアに力を入れて、国内販売の主力に据えたいわけです。
販売店では「2021年7月下旬の契約で、新型アクアの納期は約2か月に収まります。ヤリスクロスは5か月以上で、納車されるのも年末から年明けですが、新型アクアの納期は通常通りです」といいます。
新型アクアの割安な価格設定と周到な生産体制は、国内市場に向けたトヨタの販売戦略を反映させているのでしょう。
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