1974年にデビュー以来、コンパクトFF車のベンチマークであり続けるフォルクスワーゲン ゴルフ。日本でも間もなく8代目となる新型が発表されるが、その前に初代から現行型までのゴルフを振り返ってみたい。今回は3代目ゴルフ登場の経緯について見ていこう。
キープコンセプトの2代目からスタイリングを一新
3代目ゴルフは1991年8月に登場した。この当時、フォルクスワーゲンは拡大政策を推進してチェコのシュコダやスペインのセアトを傘下に収めるなどしていた。日本でも日産と提携しており、1984年からパサートがサンタナという車名でライセンス生産された。そんなこともあってか、このゴルフは発売前に日本の路上でもテストをしたといわれる。
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国際化を進めたゴルフ3であるが、基本的な設計は先代モデルと大きく変わらず、ボディサイズもあまり変化がなかった。ただ、スタイリングについては、2代目が初代のまったくのキープコンセプトだったことを考えれば、だいぶ変わったといえる。もっともそれでも「正常進化」の範囲内であり、ゴルフらしさを守ろうという意識はしっかり働いていた。
スタイリング以外の変化としては、バリエーションの増加、安全面や環境面で充実したこと、それにエンジン排気量の拡大などがある。バリエーションは、のちの時代に比べればまだまだ少ないが、初めてワゴン版がつくられたほか、V6エンジン搭載車が加わっている。
エンジンは4気筒についても、従来の1.2/1.6/1.8Lという構成が、1.3/1.8/2.0Lへとそれぞれひとまわり大きくなった。またディーゼルも従来の1.6Lから1.9Lへと拡大している。ディーゼルはターボとノンターボがあったが、それぞれ直噴が初めて採用されたほか、1991年から酸化触媒が採用された。トランスミッションでは、エコマティックと称する2ペダル式のMTが採用され、これにはアイドリングストップ機構が備わっていた。
環境に対する配慮としては、樹脂部品がすべてリサイクル可能なものになったということも注目点だった。また、ボディサイズが大きくならなかったのも、環境性能を意識した面があったようである。環境に配慮した印象が強いのには、時代背景がある。ゴルフ3を開発していた頃、ドイツでは「緑の党」に象徴される環境運動が盛んになっていた。大気汚染に由来する酸性雨の問題が深刻化しており、速度無制限のアウトバーンに対する風当たりも強くなっていた。1973年と79年に襲った石油危機の影響からも、まだ脱しきれていなかった。
ドイツ(当時は西ドイツ)は、自動車立国ともいえるくらい自動車づくりに力を入れてプライドを持っていたが、ほかの国と同様に、この頃その自動車に対して疑問が持たれて、少し肩身が狭い時代だった。そんなこともあって、ゴルフ3はややダイナミックさに欠けて、いかにも優等生的であるが、とくにその後のゴルフ4や5に比べれば、少し地味な印象だったといえるかもしれない。大きなV6エンジンを積んだことについても、半ば本音でもあったろうが、上級モデルからのダウンサイズの役割があるという、やや言い訳じみた説明もしていた。
安全面が充実したのも、環境と同様、社会背景があったといえそうだが、とくに注目すべき技術としては、1992年から、運転席と助手席のエアバッグが初めて採用された。
スタイリングの変化でとくに目立つのは、ヘッドランプである。初代と2代目が丸型ランプだったのに対し、初めて異形ヘッドランプが採用された。ただ、これは楕円型であり、先代までとの連続性が感じられるように考えてデザインされたものだった。フロントマスクは「小顔」になった印象で、それはボディの四隅が丸められ、フロントエンドが絞り込まれていたからである。これは空力のためであり、燃費向上のために先代よりもさらに空力性能を追求。Cd値は0.30~0.33とかなり優秀なものになっていた。また全長が4020mmで旧型からほとんど変わっていないのに対し、トレッドは広がっており、車体はちょっと太っているように見える。
バンパーにはまだブラックの部分は残されているがボディ同色となり、形状としてもボディ本体と融合するようになった。ボディサイドでは、ショルダーラインの少し低めの位置に全長にわたって大きな段差のラインが入れられており、これが横から見た際の3代目ゴルフの特徴となっている。ボディは全体に角がスムーズに丸められて、車体の工作精度が上がり、またボディ剛性も上がって品質の向上が感じられた。
ゴルフ3は、歴代ゴルフの中ではやや地味な存在ではあるが、華やいだイメージのある次のゴルフ4につながるような進化を、着実に続けていたのだった。(文:武田 隆)
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